バッテリ電流検出回路



『LTspice Users Club』のWebサイトはこちら

■問題
オペアンプ応用 ― 中級

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,バッテリ(Vbat)の電流を検出するための回路です.Vbatは,12VでOPアンプ(U1,U2)の電源電圧も12Vとなっています.また,U1,U2はレール・ツー・レール入力タイプのOPアンプです.図1の回路で,負荷に流れる電流が1Aだった場合,OUT1,OUT2端子の電圧として正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 バッテリ電流検出回路
図1は,LTspiceのサンプルファイル(ドキュメント\LTspiceXVII\examples\jigs\1674.asc)を若干変えたものです.

(a) OUT1=0V,OUT2=1V
(b) OUT1=1V,OUT2=0V
(c) OUT1=0V,OUT2=2V
(d) OUT1=2V,OUT2=0V

■ヒント

 図1の回路は,R1に流れる電流の向きによって,OUT1とOUT2のどちらに電圧が出力されるかが変わります.図1の電流の向きの場合,Q1とQ2のどちらが動作するか,また,エミッタおよびコレクタに接続された抵抗値がいくつかを考え合わせれば,答えが分かります.

■解答


(a) OUT1=0V,OUT2=1V

 図1の電流の向きの場合,抵抗(R1)の左側の電圧が右側よりも低くなります.すると,U1は-入力端子の電圧が高いため,出力はGNDレベルとなり,OUT1端子の電圧は0Vになります.
 一方,U2は+入力端子の電圧が高いため,出力電圧は高くなり,Q2がONします.そして,R7の電圧降下がR1の電圧降下と等しくなるために,Q2に電流が流れます.負荷に流れる電流をIとすると,OUT2端子の電圧は「VOUT2=I*R1*R5/R7」となり,図1の定数を代入すると1Vになります.

■解説

●バッテリ放電電流検出回路の動作
 図2は,図1のOUT2側だけを取り出した回路図です.この回路はバッテリ放電電流検出回路として働き,負荷電流に比例した電圧がOUT2端子に発生します.


図2 バッテリ放電電流検出回路の動作
負荷電流に比例した電圧がOUT2端子に発生する.

 この回路で負荷電流(IL)は抵抗(R1)を介してバッテリから供給されます.抵抗(R1)がバッテリ電流を検出するための抵抗で,a点の電圧(Va)は式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 OPアンプの入力バイアス電流が小さい場合,R6は回路動作に影響しません.そのため,OPアンプ(U2)の-入力端子の電圧はa点の電圧と等しくなります.
 U2の-入力端子の電圧が,+入力端子の電圧よりも低い場合,OPアンプの出力電圧は上昇します.すると,トランジスタQ2がONし,R5およびR7に,ほぼ等しい電流が流れます.R7に電流が流れることで,b点の電圧が下がり,a点と同じ電圧になったところで安定します.Q2のコレクタ電流をIQ2とすると,b点の電圧は式2となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 OUT2端子の電圧は,Q2のベース電流を無視すると,式3になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式1と式2よりIQ2を求め,式3に代入すると,式4になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 式4より,負過電流が1Aのとき,VOUT2は1Vになることが分かります.
 図3は,図2のILを-1Aから1Aまで変化させたときのシミュレーション結果です.負荷電流が負の値のときは,バッテリを充電していることになります.負荷電流が正のときは,b点の電圧はa点の電圧と同じになっていることが分かります.そして,VOUT2端子の電圧は,負荷電流が負のときは0Vで,+1Aのときに1Vとなっています.


図3 バッテリ放電電流検出回路のシミュレーション結果
VOUT2端子の電圧は,負荷電流が負のときは0Vで,+1Aのときに1Vとなっている.

●バッテリ充電電流検出回路の動作とシミュレーション
 図4は,図1のOUT1側だけを取り出した回路図です.この回路はバッテリ充電電流検出回路として働き,充電電流に比例した電圧がOUT2端子に発生します.
 回路の基本的な動作は図2と同じですが,ILの電流の向きが右向きでバッテリを充電する方向(負の電流)となったときだけ動作します.ILが負のとき,a点の電圧はVcc端子よりも高くなります.そしてb点の電圧がVccと同じになるように,Q1の電流がコントロールされます.


図4 バッテリ充電電流検出回路の動作
充電電流に比例した電圧がOUT1端子に発生する.

 図5は,図4のシミュレーション結果です.VOUT1端子の電圧は,ILが正のときは0Vとなっており,バッテリを充電する方向の-1Aのときに1Vとなっていることが分かります.


図5 バッテリ充電電流検出回路のシミュレーション結果
VOUT1端子の電圧は,ILが正のときは0Vで,-1Aのときに1Vとなっている.

●OPアンプの電源電圧を下げたバッテリ電流検出回路
 一般的なOPアンプは入力端子の電圧が電源電圧よりも高いと動作しません.しかし,図1の回路で使用しているOPアンプのLT1674は,入力端子電圧が電源電圧よりも高くなっても動作するように設計されています.  図6の回路は,図1の回路のOPアンプの電源をバッテリから分離し,5Vに下げたものです.


図6 OPアンプの電源電圧が低いバッテリ電流検出回路
図1のOPアンプの電源電圧を5Vに下げたもの.

 図7は,図6の回路のシミュレーション結果です.OPアンプの電源電圧をバッテリの電圧より下げても,正常に動作しています.充電方向の電流に対してはOUT1に電圧が発生し,放電方向の電流に対してはOUT2に電圧が発生していることが分かります.


図7 OPアンプの電源電圧が低いバッテリ電流検出回路のシミュレーション結果
OPアンプの電源電圧をバッテリの電圧より下げても,正常に動作している.

 以上,バッテリ電流検出回路について解説しました.バッテリ電流検出には様々な方法があり,また,バッテリ電流検出専用ICも開発されていますので,用途に合わせて選択してください.


■データ・ファイル


解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_027.zip

●データ・ファイル内容
DisCharge.asc:図2の回路
Charge.asc:図4の回路
Battery_Current.asc:図6の回路

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs
(7) IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(8) オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報



別冊CQ ham radio QEX Japan No.53

巻頭企画 ハムのArduino活用の勧め

CQ ham radio 2024年12月号

アマチュア無線(再)開局お役立ち情報

CQゼミシリーズ

藤原進之介監修 テスト形式で総まとめ 情報Ⅰ標準問題集

トランジスタ技術 2024年12月号

世界AI ChatGPT電子回路

Design Wave Advance シリーズ

Arm Cortex-M23/M33プロセッサ・システム開発ガイド

アナログ回路設計オンサイト&オンライン・セミナ