レール・ツー・レールOPアンプの整流回路
図1は,レール・ツー・レール入出力の2個のOPアンプ(U1,U2)とダイオード(D1)を使用した整流回路です.OPアンプの電源は5Vの単一電源となっています.この回路に,GND基準で振幅±1V,周波数が1kHzの正弦波を加えました.このときのOUT端子の電圧波形として正しいのは図2の(a)~(d)のどれでしょうか.
図1は,LTspiceのサンプルファイル(ドキュメント\LTspiceXVII\examples\jigs\1047.asc)を若干変えたものです.
(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形
レール・ツー・レール入出力のOPアンプを単一電源で使用した場合,出力は,電源電圧からGNDレベルに近い電圧までスイングすることができます.また,入力電圧もGNDレベルから電源電圧レベルまで扱うことができます.これを踏まえて,入力信号が正の電圧の半サイクルのときと,負の電圧の半サイクルのときに,A点の波形がどのようになるかを考えれば,答えがわかります.
図1の回路は,入力信号が負の電圧の半サイクルのとき,反転アンプとして動作します.帰還抵抗と入力抵抗の値が同じためゲインが1となり,出力波形は,入力信号を反転した正の電圧の波形になります.
入力信号が正の電圧の半サイクルのとき,OPアンプの出力は,GNDに張り付きます.このとき,ダイオード(D1)があるため,A点の電圧は入力電圧に追従し,入力信号と同じ正の電圧波形となります.このように,入力信号が正のときも負のときも,A点の波形は正の電圧となり,全波整流波形となります.OPアンプ(U2)は,バッファ・アンプとして動作するため,OUT端子の波形も全波整流波形となります.全波整流波形になっているのが(d)なので,正解は,(d)の波形とになります.
●レール・ツー・レールOPアンプを使用した整流回路の動作
図1の回路は,入力信号の電圧が正か負で,動作が変わります.図3は,入力信号が負のときの等価回路です.入力信号が負の電圧のとき,OPアンプ(U1)は,反転アンプとして動作します.このとき,図1にあるダイオード(D1)は,順方向となり,動作に無関係となるため,図3では省略しています.
この回路は,U1の+入力端子がGNDとなっているため,入力電圧がGNDレベルでも動作可能な,レール・ツー・レール入力OPアンプを使用する必要があります.反転アンプのゲインは,R1/R2となり,R1とR2共に220kΩのため,ゲインは1となります.ゲイン1の反転アンプなので,A点には入力信号の極性を反転した信号が出力されます.また,OPアンプ(U2)は,ゲイン1のバッファ・アンプとして動作するため,OUT端子にはA点と同じ波形が出力されます.
OPアンプ(U1)はゲイン1の反転アンプとして動作する.
図1で入力信号が正の電圧のとき,OPアンプ(U1)は,負の電圧を出力することができなので,反転アンプとしては動作せず,OPアンプの出力(B点)はGNDレベルとなります.その結果,ダイオード(D1)は,逆バイアスとなり,動作に影響しなくなります.そのため,入力信号が正のとき,図4のような等価回路で表すことができます.入力信号は,抵抗R2とR1を介して,A点(バッファ・アンプの入力端子)にそのまま入力されます.そのため,A点およびOUT端子は,入力信号と同じ波形になります.
入力信号はR1,R2を介して,そのままバッファ・アンプに入力される.
このように,OUT端子の波形は,入力信号が負の電圧のときは正の電圧波形となり,正の電圧のときも正の電圧波形となります.そのため,OUT端子の波形は全波整流波形となります.レール・ツー・レールOPアンプを使用することで,非常にシンプルな全波整流回路となっています.
●レール・ツー・レールOPアンプを使用した全波整流回路のシミュレーション結果
図5は,図1の回路のシミュレーション結果です.入力信号が正の電圧のとき(水色領域)は,OPアンプ(U1)の出力(B点)はGNDと同じ電圧になっています.そして,C点の電圧は入力と同じ波形になり,OUT端子の電圧も入力と同じ波形になっています.
一方,入力信号が負の電圧のとき(黄色領域)は,OPアンプU2の-入力端子(C点)の電圧はOPアンプの+入力端子と同じ,GNDレベルとなっています.そして,OUT端子の波形は,入力信号を反転した正の電圧波形となっています.
つまり,入力信号が正のとき,OUT端子は入力と同じ正の電圧波形になり,入力信号が負のときは入力信号を反転した正の電圧波形になっています.その結果,一番下の段のOUT端子の波形は,全波整流波形となっています.
OUT端子は全波整流波形となる.
●正負電源のOPアンプを使用した,一般的な全波整流回路
図6は,正負電源のOPアンプを使用した一般的な全波整流回路です.OPアンプ(U1)とダイオード(D1,D2)で半波整流回路を構成しています.そしてB点の半波整流出力信号と入力信号を2対1の割合で加算することで,OUT端子に全波整流波形が出力されます.図1の回路は,図6の回路と比べると部品の数がかなり少ないことがわかります.
半波整流回路と加算回路を組み合わせて全波整流波形を作っている.
図7は,図6の回路のシミュレーション結果です.B端子は半波整流波形で,OUT端子は全波整流波形となっていることがわかります.
OUT端子は全波整流波形となる.
以上,レール・ツー・レールOPアンプを使用した全波整流回路を紹介しました.図1の回路は非常にシンプルですが,入力信号周波数が高くなると,うまく動作しません.入力信号が正の電圧の半サイクルのとき,OPアンプが飽和状態になってしまうためです.このような弱点があることを理解したうえで,使用する必要があります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_025.zip
●データ・ファイル内容
1047.asc:図1の回路
1047.plt:図3のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
full_wave.asc:図1の回路
full_wave.plt:図3のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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