ハイ/ロー/バンドパスとして働くフィルタ
図1は,OPアンプを使用したステート・バリアブル・フィルタ(State Variable Filter)をシミュレーションするための回路です.ステート・バリアブル・フィルタは,出力を取り出す場所によって,ハイパス・フィルタ(HP端子),ローパス・フィルタ(LP端子),バンドパス・フィルタ(BP端子)の3種類のフィルタとして働きます.
図1の回路でR6の抵抗値を10kΩ,20kΩ,30kΩと変化させたときの特性変化の説明として正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.
R6の抵抗値を変化させたときの特性変化の説明として正しいのどれ?
(a) ハイパス・フィルタの通過帯域全体のゲインが変化する
(b) ローパス・フィルタの通過帯域全体のゲインが変化する
(c) バンドパス・フィルタの通過帯域のゲインが変化する
(d) 3種類のフィルタとも,通過帯域のゲインは変化しない
ステート・バリアブル・フィルタ(State Variable Filter)は,状態変数フィルタとも呼ばれ,2つの積分器と加算器で構成されています.そして,カットオフ周波数とQ(選択度)を独立して設定できるという特長があります.図1の回路は,反転入力型のステート・バリアブル・フィルタとなっています.R6の抵抗値を変えることでQを変えることができます.そこで,Qが変わったときに,どのような特性となるかを考えれば,答えが分かります.
図1の回路のQ(選択度)は,R6とR7で決まり,Q=(R6+R7)/(3R6)となります.そしてバンドパス・フィルタ出力の通過帯域のゲイン(GB)はGB=R7/R6で表されます.そのため,R6の値が変わるとゲインが変化します.なお,ハイパス・フィルタ出力とローパス・フィルタ出力の通過帯域のゲインはR1~R3で決まり,図1の定数では1になります.そのため,Qを変化させたときに変化するのは,カットオフ周波数付近のゲインだけです.
●ステート・バリアブル・フィルタのカットオフ周波数とQ
図1のステート・バリアブル・フィルタは,OPアンプU2とR4およびC1で積分回路をを構成しています.同様に,OPアンプU3とR5およびC2も積分回路を構成しています.それぞれの積分時定数が等しくなるように「R4=R5=R」とし,「C1=C2=C」とします.また,「R1=R2=R3」とすると,カットオフ周波数(バンドパス・フィルタの中心周波数)は式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1に値を代入すると式2のようにカットオフ周波数は,159Hzとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
ハイパス・フィルタの通過帯域のゲイン(GH)は,式3で表され,GHが1倍となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
ローパス・フィルタの通過帯域のゲイン(GL)は,式4で表され,GLが1倍となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
Qは,式5で表されます.また,バンドパス・フィルタの通過帯域のゲイン(GB)は式6で表されます.QとGBは同じ式で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
ですので,図1でR6の値が10kΩのときの値を計算すると,バンドパス・フィルタのQとゲイン(GB)は式7のように3.67となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
●ステート・バリアブル・フィルタのシミュレーション
図2は,図1のステート・バリアブル・フィルタのシミュレーション結果です.
R6の値を変えることで,各フィルターのQが変化していることが分かる.
R6の値を「.stepコマンド」で10kΩ,20kΩ,30kΩと変えてシミュレーションしています.R6の値を変えることで,各フィルターのQが変化しています.また,ハイパス・フィルタ(HP)およびローパス・フィルタ(LP)の通過帯域内のゲインは1で,Qを変えても変わらないことが分かります.
バンドパス・フィルタ(BP)のゲインはR6が10kΩのとき,11.3dB(3.4倍)となっており,式7の結果と一致しています.また各フィルタのカットオフ周波数は約160Hzとなっており,これも式2と一致しています.
●非反転入力型のステート・バリアブル・フィルタ
図3は,信号の入力をOPアンプの非反転入力側に変えた,ステート・バリアブル・フィルタです.
信号の入力がOPアンプの非反転入力側になっている.
この回路でも「R4=R5=R」,「C1=C2=C」として,「R2=R3」とすると,カットオフ周波数は図1と同様に式1で表されます.そして,Qは式8に変わります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
また,ハイパス・フィルタの通過帯域のゲイン(GH)とローパス・フィルタの通過帯域のゲイン(GL)は式9となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
GHとGLがR6とR7で決まるため,Qを変えるためにR6,R7の値を変えるとGHとGLも変わることになります.さらにバンドパス・フィルタの通過帯域のゲイン(GB)は式10で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
図4が非反転入力タイプのステート・バリアブル・フィルタのシミュレーション結果です.
Qを変えることで,ハイパス・フィルタとローパス・フィルタのゲインも若干変化する.
図1と同様にR6の値を「.stepコマンド」で10kΩ,20kΩ,30kΩと変えてシミュレーションしています.カットオフ周波数は図1の回路のシミュレーション結果と同じで,約160Hzになっています.R6を変えることでQが変化していますが,ハイパス・フィルタ(HP)およびローパス・フィルタ(LP)の通過帯域内のゲインも若干変化しています.
そのため,ハイパス・フィルタとローパス・フィルタとして使用する場合は,通過帯域のゲインが変わらない,反転入力型のステート・バリアブル・フィルタのほうが,適しています.また,バンドパス・フィルタとして使用する場合は,図3の非反転入力タイプのステート・バリアブル・フィルタのほうが,抵抗が1本少なくて済むというメリットがあります.
以上,ステート・バリアブル・フィルタについて解説しました.なお,図1はLTspiceのサンプルファイル(ドキュメント\LTspiceXVII\examples\Educational\opamp.asc)を若干変更したものです.ステート・バリアブル・フィルタの伝達関数等に関しては,「IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs ―― 3つの機能を有するフィルタの特性」を参考にしてください.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_023.zip
●データ・ファイル内容
opamp_SVF.asc:図1の回路
opamp_SVF2.asc:図2の回路
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