ハウランド電流ポンプ
図1は,ハウランド電流ポンプ(Howland current pump)と呼ばれる電圧制御電流源です.IN+端子とIN-端子の電圧によりOUT端子から負荷(RL)側へ電流(IL)を供給します. IN+端子とIN-端子に同じ電圧(Vcm)の1Vを印加したとき,OUTの出力電流として正しいのは(a)~(d)のうちどれでしょうか.
ILは出力電流.
(a)0.5mA (b)1mA (c)2mA (d)流れない
図1は「R1=R2=R3=R4=1kΩ」で同じ抵抗です. OPアンプのバーチャル・ショートを使い,抵抗の電流を検討すると分かります.
OUTの電圧をVOUTとすると,バーチャル・ショートによりOPアンプの非反転端子の電圧もVOUTとなります.IN+とIN-に同じ電圧(Vcm)を印加したとき,R2とR4の両端の電圧は「Vcm-VOUT」と同じになります.R2とR4の抵抗値は同じなので,抵抗の電流も「IR2=IR4」と等しくなります.
同様に,R1とR3の両端の電圧も「VOUT-VA」と同じで,R1とR3の抵抗値も同じなので抵抗の電流は「IR1=IR3」と等しくなります.また,OPアンプを理想とすれば,非反転端子に電流は流れず,R2とR1は直列なので抵抗の電流は「IR1=IR2」となり等しくなります.この関係よりR3とR4の電流は「IR3=IR4」となり,負荷(RL)側へ分流する電流はゼロとなります.なので,解答は「(d)流れない」となります.
ハウランド電流ポンプは,IN+とIN-のどちらかをGNDにし,他方に電圧を印加してOUTから電流を供給する電圧制御電流源となります.
●IN+とIN-へ同じ電圧を加えたときのシミュレーション
図1は,負荷(RL)側に電流が流れないことからVOUTはGNDと同じ電圧になります.Vcmが1Vのときは「R1=R2=R3=R4=1kΩ」より,「IR1=IR2=IR3=IR4=1mA」となって回路は落ち着きます.ここでは,落ち着いたときの回路内の電流を図2のシミュレーション回路で確かめます.
図2は,図1の2つの入力(IN+,IN-)に相当するところへ同じ電圧(Vcm)を印加しています.Vcmは,直流解析の「.dc Vcm -1 1 10m」の指定により,-1Vから1V間を10mVステップでスイープします.そしてRL,R1,R2,R3,R4の電流変化をプロットします.
図3は,図2のシミュレーション結果です.解答の(d)のようにRLの電流はゼロとなり,負荷側に電流は流れません.またR1,R2,R3,R4の電流は重なっており同じ電流であるのが分かります.また図1と同じ条件のVcmが1VのときのR1,R2,R3,R4の電流は1mAであることが分かります.このようにハウランド電流ポンプは2つの入力に同じ電圧を印加すると負荷側に電流を供給しません.
RLには電流が流れない.
●IN-へ電圧を印加したときの出力電流の検討
図4は,ハウランド電流ポンプを電圧制御電流源として使う例です.図1のIN-端子に相当するところに電圧(VIN-)を印加し,IN+端子に相当するところをGNDしました.回路は,バーチャル・ショートが成り立つため反転端子の電圧は非反転端子と同じVOUT,また,OPアンプの出力電圧は,VAと記入しました.ILは,ハウランド電流ポンプの出力電流となります.この回路を使って電圧制御電流源となる抵抗の条件を机上計算で検討します.
図4は「IR1=IR2」であり,「IR1=(VOUT-VA)/R1」,「IR2=(VIN--VOUT)/R2」を使ってVAを求めると式1となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
出力電流は「IL=IR4-IR3」ですので,「IR3=(VOUT-VA)/R3」,「IR4=-VOUT/R4」を使って式を整理すると式2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式1と式2より,ILは式3となります.
・・・・・・・・・・・・(3)
式3で「R1=R3」,「R2=R4」とすれば,VOUTがかかる右辺の第二項と第三項は打ち消され,式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式4より,ハウランド電流ポンプの出力電流(IL)は,OUT端子の電圧に関係なくVIN-の電圧とR2の抵抗で決まる電圧制御電流源になることが分かります.以上より,ハウランド電流ポンプは「R1=R3」,「R2=R4」にすることが必要で,図1ではこの条件になるように「R1=R2=R3=R4」としています.
●IN-へ電圧を加えたときのシミュレーション
図5は,LTspiceのEducationalフォルダにある「Howland.asc」の回路です.抵抗が「R1=R2=R3=R4=1kΩ」で,入力信号(V3)は図1のIN-に相当するところへ接続します.入力信号(V3)は振幅が1V,周波数が1kHzで,Rloadの電流をプロットします.また「.step」コマンドでRloadの抵抗値を1Ω,10Ω,100Ω,1kΩと変化させ,Rloadの両端の電圧が変化しても式4の電流になることを確認します.
負荷抵抗は1Ω,10Ω,100Ω,1kΩの4種類.
図6は,図5のシミュレーション結果です.上段がIN端子の電圧,下段がRloadの電流です.式4の通り出力電流は,IN端子の電圧(VIN)を抵抗(R2)で電流に変換し,位相が反転した振幅が1mA,周波数が1kHzの電流となります.また,Rloadが変化しても出力電流は同じになります.
このようにハウランド電流ポンプは,回路から負荷側へ電流を吐き出したり,負荷側から回路へ電流を吸い込むことができる電圧制御電流源となります.
負荷抵抗に関係なく,入力電圧と逆相の出力電流となる.
●IN+へ電圧を加えたときのシミュレーション
ハウランド電流ポンプは,図1のIN+に電圧を印加し,IN-をGNDにした回路も使われます.これをシミュレーションする回路が図7です.
図5のV3の電圧源の接続先が変わっただけの回路です.図7の出力電流は「IRload=VIN/R4」となり,入力電圧と出力電流が同相になります.詳しい計算は,「LTspiceアナログ電子回路入門 ―― ハウランド電流ポンプから負荷へ流れる電流はいくら?」を参照してください.
図8は,図7のシミュレーション結果です.上段はIN端子の電圧,下段はRloadの電流です.図7と比べるとRloadの電流はVINの電圧と同相となります.
以上,解説したようにハウランド電流ポンプは図1中の「R1=R3」,「R2=R4」にします.図7のように入力をIN+側にするとRloadの電流の極性を変えることができます.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_022.zip
●データ・ファイル内容
Howland_CM.asc:図2の回路
Howland_CM.plt:図3のプロットを指定するファイル
Howland.asc:図5の回路
Howland.plt:図6のプロットを指定するファイル
Howland2.asc:図7の回路
Howland2.plt:図8のプロットを指定するファイル
■LTspice関連リンク先
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