全波整流回路の動作




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■問題
オペアンプ応用 ― 初級

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,OPアンプを使った全波整流回路です.IN端子へ振幅が10Vの正弦波を入力します.このときのOUT端子の波形として正しいのは図2の(a)~(d)のうちどれでしょうか.


図1 OPアンプを使った全波整流回路
振幅が10Vの正弦波を入力している.


図2 OUT端子の電圧波形
(b)と(d)の2VDはダイオードの順方向電圧が2個分の電圧.

(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形


■ヒント

 全波整流回路は,AC信号からDC信号への生成に使われ,信号のピーク電圧や平均電圧等を作るときに用いられます.全波整流回路は,入力電圧が正の電圧と負の電圧でダイオードD1とD2のON/OFFの状態が変わり,回路の接続が変化します.接続が変化した2つの回路において,出力電圧がどのようになるかを検討すると分かります.図2の(a)と(b)は負側に信号が現れる全波整流波形で振幅に差があります.(c)と(d)は正側に信号が現れる全波整流波形で振幅に差があります.

■解答


(c)の波形

 入力電圧が正のとき,D1がON,D2がOFFとなります.このとき,IN端子からCノードまではR1,R2,U1からなる反転アンプとなります.図1の抵抗は全て10kΩなので,ゲインは「G1=-1」となります.同様にCノードからOUT端子まではR4,R5,U2からなる反転アンプとなり,ゲインは「G2=-1」となります.IN端子からOUT端子までのトータルゲインは「G1G2=1」となり「VOUT=VIN」となります.
 入力電圧が負のときはD1がOFF,D2がONとなります. 回路図中のAのノードはバーチャル・グラウンド, BノードとCノードはバーチャル・ショートとなり,この2つの効果でIN端子からBノードまでのゲインは「G3=-2/3」となります.またBノードからOUT端子まではR1,R4,R5,U2からなる非反転アンプとなり,ゲインは「G4=3/2」となります.IN端子からOUT端子までのトータルゲインは「G3G4=-1」となり「VOUT=-VIN」となります.以上より,入力電圧が正のときは「VOUT=VIN」,入力電圧が負のときは「VOUT=-VIN」なので,OUT端子の波形は振幅が10Vの正側に信号が現れる全波整流回路となり,答えは図2(c)となります.

■解説

●入力信号が正のときの動作解説
 図1は,R1,R2,R3,R4,R5が10kΩと同じ抵抗値で構成できる高精度な全波整流回路です.入力信号が正の電圧と負の電圧でD1とD2のON/OFFが切り替わって回路が変化します.ここでは,切り替わる回路図を用いて動作解説をします.
 図3は,入力信号が正(VIN>0)の等価回路です.IN端子の信号は,OPアンプU1の反転端子に繋がるため,IN端子が正のときはU1の出力は負となります.これよりCノードからU1出力の方向に電流が流れる回路となり,D1がONとなります.図1のD2あたるダイードはOFFとなので図3にはありません.


図3 入力電圧が正のときの回路
D1がON.図1のD2あたるダイードはOFFとなので図3にはありません.

 図3のD1がONなので,R1,R2,U1は,IN端子が入力でCノードが出力の反転アンプとして動作します.「R1=R2」なので,ゲインは-1倍となります.次にAノードはU1の負帰還によりバーチャル・グラウンドです.OPアンプの入力端子には電流が流れないとすればR3による電圧降下は無いためBノードもグラウンドと考えることができます.よってR4,R5,U2はCノードが入力でOUT端子が出力の反転アンプとなります.「R4=R5」なので,ゲインは-1倍となります.以上よりIN端子からOUT端子までは反転アンプを2回路通過するのでトータルゲインは1倍となり式1の関係となります.式1より入力信号が正のときは,入力と同じ波形がOUT端子に現れます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

●入力信号が負のときの動作解説
 図4は,入力信号が負(VIN<0)のときの等価回路です.IN端子が負のときはU1の出力は正となります.これよりU1出力からBノードの方向に電流が流れる回路となり,D2がONとなります.図1のD1あたるダイードはOFFとなので図4にはありません.


図4 入力電圧が負のときの回路
D2はON.図1のD1あたるダイードはOFFとなので図4にはありません.

 図4のAノードは,U1の負帰還によりバーチャル・グラウンドです.また,BノードとDノードは,U2の負帰還によりバーチャル・ショートとなり同じ電圧になります.これらを使ってIN端子からB端子までの関係を調べます.キルヒホッフの電流則よりA端子に流れ込む電流の総和はゼロであり「IR1+IR2+IR3=0」となります.図4の抵抗値は全て同じ「R1=R2=R3=R4=R5=R」とし,Bノードの電圧をVBとすれば,「IR1=VB/2R」,「IR2=VIN/R」,「IR3=VB/R」の関係があります.これらよりIN端子の電圧とBノードの電圧は式2の関係となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 次にA端子は,バーチャル・グランドなので,BノードからOUT端子まではR1,R4,R5,U2からなる非反転アンプとなり式3となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式2と式3よりIN端子からOUT端子までのトータルゲインは-1倍となり式4の関係となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 式4より入力信号が負のときは,負側の振幅が反転してOUT端子に現れます.以上より,入力信号が正(VIN>0)のときは式1,入力信号が負(VIN<0)のときは式4となり,正側に波形が現れる全波整流回路であることが分かります.過去の「LTspiceアナログ電子回路入門 ―― 全波整流になる抵抗の組み合わせはどれ?」で全波整流回路について詳細な解説をしています.こちらも参考にしてください.

●全波整流回路のシミュレーション
 図5は,LTspiceのjigsフォルダにある全波整流回路「1001.asc」です.OPアンプが「LT1001」,スイッチング・ダイオードが「1N4148」,抵抗はR1,R2,R3,R4,R5全て10kΩで構成しています.入力は振幅が10V,周波数が100Hzの正弦波です.この回路を20msまで過渡解析をおこないます.


図5 図1をシミュレーションする回路

 図6は,図5のシミュレーション結果です.上段が入力の波形,中段がBノードの波形,下段がOUT端子の波形です.入力信号は,正(VIN>0)のとき,式1ですから,正側の半坡がOUT端子に現れます.入力信号が負(VIN<0)のとき,Bノードは式2の関係になっていることが分かります.これを式3の非反転アンプで増幅するため,OUT端子の波形は式4のように負側の半坡が正側に現れます.OUT端子の波形は図2(c)と同じであることが分かります.


図6 図5のシミュレーション結果
上段が入力電圧波形,中段がBの電圧波形,下段がOUTの電圧波形.

●全波整流の平均値
 図7は,図5のOUT端子へR6とC1からなる積分回路を追加して,全波整流から平均値を取り出す回路です.入力は振幅が10V,周波数が100Hzの正弦波で,積分回路が落ち着く29.98秒~30秒の間をシミュレーションします.


図7 図1の出力にR6とC1からなる積分回路を追加した回路

 図8は,図7のシミュレーション結果です.全波整流の平均値は振幅をVmとすると式5となります.振幅は「Vm=10V」ですから,式5の平均値は「VAVG=6.366V」と机上計算できます.図8の結果より平均値をカーソルで調べると机上計算と同じ6.366Vの結果となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)


図8 図7のシミュレーション結果

 以上,解説したように,同じ抵抗値を使った高精度な全波整流回路を構成できます.応用例として全波整流回路の出力に積分回路を加えると平均値が得られます.


■データ・ファイル


解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_016.zip

●データ・ファイル内容
1001.asc:図5の回路
1001.plt:図5のプロットを指定するファイル
1001_mod.asc:図7の回路
1001_mod.plt:図7のプロットを指定するファイル

■LTspice関連リンク先


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