ユニバーサルOPアンプを使ったバッファ回路



『LTspice Users Club』のWebサイトはこちら

■問題
LTspiceの使用方法 ― 初級

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,ユニバーサルOPアンプを使用した,ユニティ・ゲイン・バッファ回路です.V1の信号をOUT端子より次の回路に,低い出力インピーダンスで伝えます.V1の信号は振幅が±5Vの矩形波で,OUT端子には負荷容量0.1μFがあります.OPアンプのスルーレートを1V/μsとしたとき,OUT端子電圧の応答がOPアンプのスルーレートとなる最大出力電流は次の(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 ユニティ・ゲイン・バッファ回路に負荷容量がついた回路
OUT端子電圧の時間変化がOPアンプのスルーレートになる最大出力電流はいくらか.

(a)25mA以上 (b)50mA以上 (c)75mA以上 (d)100mA以上


■ヒント

 スルーレートの1V/μsは,波形の傾きが1μs毎に1V変化することです.また,OUT端子電圧の応答は,OPアンプの「スルーレート」あるいは「最大出力電流と充放電電圧」のどちらか遅い方で決まります.最大出力電流は,OPアンプの吐き出し方向と吸い込み方向の最大出力電流となります.この最大出力電流と負荷容量0.1μFによる充放電電圧の傾きが,OPアンプのスルーレートの1V/μsより速くなる出力電流の条件を検討すると分かります.

■解答


(d)100mA以上

 OPアンプのスルーレートは「SR=dV/dt=1V/μs」です.また,OPアンプの最大出力電流(IOmax)と負荷容量(CL)で決まる充放電電圧の時間変化は「dV/dt=IOmax/CL」となります.負荷容量のついたユニティ・ゲイン・バッファ回路の応答は,この2つのどちらか遅い方で制限を受けます.これより式1の関係になる最大出力電流を探すことになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 解答の選択肢(a)~(d)の最大出力電流と負荷容量0.1μFを使って式1の右辺を求めると次のようになります.
(a)25mA/0.1μF=0.25V/μs
(b)50mA/0.1μF=0.5V/μs
(c)75mA/0.1μF=0.75V/μs
(d)100mA/0.1μF=1V/μs
 以上より,スルーレート(SR)が1V/μs,負荷容量(CL)が0.1μFのとき,式1が成り立つ最大出力電流(IOmax)は,(d)100mA以上となります.

■解説

●ユニバーサルOPアンプの種類とモデル・パラメータ
 OPアンプを使った回路では,データシートに示されている電気的特性が変化したときに回路へ与える影響を調べることがあります.しかし,部品として登録されているOPアンプは,データシートの標準値の特性であり,値を変化させることはできません.このようなときユニバーサルOPアンプを使うと電気的特性が変更できるので便利です.
 ユニバーサルOPアンプは,モデル・パラメータへ値を入れて,ユーザが独自のOPアンプを作ることができます.図1の例ではlevel.2のユニバーサルOPアンプを使い,スルーレートが1V/μsと指定し,最大出力電流を変化させてOUT端子の応答を検討しています.
 表1はユニバーサルOPアンプの4種類(level.1~level.3b)とモデル・パラメータの対応をまとめました.ユニバーサルOPアンプは4種類あり,level.1,level.2,level.3alevel.3bの上位に向かうほど実際のOPアンプの特性に近づいていきます.またモデル・パラメータは12種類あり,英字記号のモデル・パラメータは説明欄に示したOPアンプの電気的特性となります.

表1 ユニバーサルOPアンプの種類とモデル・パラメータ

●ユニバーサルOPアンプの使い方
 ユニバーサルOPアンプは,ツールバーの「Component」から「Opamps」フォルダへ進み,「Universal Opamp2」を選択して回路図へ部品を配置します.ユニバーサルOPアンプの種類やモデル・パラメータの値を修正するには「Component Attribute Editor」を使います(図2).具体的には,回路へ配置した「Universal Opamp2」のシンボル上で右クリックすると図2の「Component Attribute Editor」が開きます.図2の中程にある「SpiceModel」でlevel.1~level.3bの4種類の中からOPアンプを選びます.またモデル・パラメータは「Value2」,「SpiceLine」,「SpiceLine2」のテキストを編集して値を入力します.


図2 Component Attribute Editor
OPアンプの種類とモデル・パラメータを入力する.

 図2のモデル・パラメータを解説すると以下となります.
「Avol=1Meg」は直流のオープン・ループ・ゲインが1000000倍(=120dB)
「GBW=10Meg」は利得帯域幅積が10MHz
「Slew=10Meg」はスルーレートが10MV/s(=10V/μs)
「ilimit=25m」は出力電流の制限が±25mA
「rail=0」は正負の電源と最大出力振幅の差(出力飽和電圧)が0V
「Vos=0」は入力オフセット電圧が0V
「phimargin=45」は位相余裕が45°
「en=0」は入力換算雑音電圧密度が0V/√Hz
「enk=0」はenから+3dBになるコーナー周波数が0Hz
「in=0」は入力換算雑音電流密度が0A/√Hz
「ink=0」はinから+3dBになるコーナー周波数が0Hz
「Rin=500Meg」は入力抵抗が500MΩ

●オープン・ループ・ゲイン周波数特性
 図3は,LTspiceのEducationalフォルダにある「UniversalOpamp2.asc」の回路で,見易くするため英語のテキストを消去しました.OPアンプはlevel.1,level.2,level.3a ,level.3bの4種類があり,モデル・パラメータは図2と同じにします.ここでは4つのユニバーサルOPアンプのモデル・パラメータが同じとき,OPアンプの種類によりオープン・ループ・ゲインと位相の周波数特性がどのように変化するかを確かめます.


図3 EducationalフォルダにあるUniversalOpamp2.ascの回路
オープン・ループ・ゲイン周波数特性を比較する.

 図4は,図3のシミュレーション結果です.level.1,level.2,level.3a,level.3bの4種類のオープン・ループ・ゲインと位相の周波数特性をプロットしました.4種類のOPアンプの低周波のオープン・ループ・ゲインは,モデル・パラメータが「Avol=1Meg」ですので120dBとなります.同様に,4種類のOPアンプのゲイン帯域幅積は「GBW=10Meg」より10MHzとなります.位相余裕は「phimargin=45」より45°としていますが,表1より,level.1,level.2はサポート外であり45°になりません.level.3a,level.3bはサポートされており位相余裕は45°になります.level.3aとlevel.3bの違いは,level.3aは高周波帯の位相は-180°で止まりますが,level.3bは実際のOPアンプのように位相が-180°より下がります.このようにlevel.1からlevel.3bの上位に向かうほど実際のOPアンプの周波数特性に近づきます.


図4 図3のシミュレーション結果
level.1,level.2,level.3a,level.3bの周波数特性の違いがある.

●ユニバーサルOPアンプの使用例
 図5は,図1の負荷容量(CL)がついたユニティ・ゲイン・バッファ回路をシミュレーションする回路です.V1の信号は振幅が±5Vの矩形波を入力し,過渡解析でOUTの時間に対する変化を調べます.


図5 図1をシミュレーションする回路

 図5のユニバーサルOPアンプの種類とモデル・パラメータを図6に示します.level.2のOPアンプを用い,「ilimit={io}」より電流制限をioという名前の変数とします.また「Slew=1Meg」よりスルーレートは1MV/s(=1V/μs)とします.変数ioは「.stepコマンド」により値が変わり,電流制限は25mA,50mA,75mA,100mA,125mAのシミュレーションとなります.このようにシミュレーションすると,OUT端子電圧の応答はOPアンプの「スルーレート」あるいは「最大出力電流と充放電電圧」のどちらで制限がかかるか分かります.


図6 図5のユニバーサルOPアンプのモデル・パラメータ

 図7は,図5のシミュレーション結果です.5つプロットがあり,上から出力電流が25mA,50mA,75mA,100mA,125mAの順です.単位時間あたりのOUT端子電圧の割合をプロットで調べると,出力電流が25mA,50mA,75mAは解答の(a),(b),(c)で計算した最大出力電流と負荷容量の充放電電圧で決まります.出力電流が100mA,125mAではOPアンプのスルーレート1V/μsで制限がかかり,解答(d)になることが分かります.


図7 図5のシミュレーションでOUT端子をプロット
100mA以上ではOPアンプのスルーレートで制限がかかる.

 以上,解説したように,負荷容量のついたユニティ・ゲイン・バッファ回路の応答は,OPアンプの「スルーレート」あるいは「最大出力電流と充放電電圧」のどちらか遅い方で決まります.図5の例で示したように,OPアンプの電気的特性を変更して回路の特性を調べるようなときはユニバーサルOPアンプを使い,モデル・パラメータを変化させることでシミュレーションができます.


■データ・ファイル


解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_008.zip

●データ・ファイル内容
Modified_UniversalOpamp2.asc:図3の回路
SlewRate.asc:図5の回路

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs
(7) IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(8) オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報



別冊CQ ham radio QEX Japan No.53

巻頭企画 ハムのArduino活用の勧め

CQ ham radio 2024年12月号

アマチュア無線(再)開局お役立ち情報

CQゼミシリーズ

藤原進之介監修 テスト形式で総まとめ 情報Ⅰ標準問題集

トランジスタ技術 2024年12月号

世界AI ChatGPT電子回路

Design Wave Advance シリーズ

Arm Cortex-M23/M33プロセッサ・システム開発ガイド

アナログ回路設計オンサイト&オンライン・セミナ