バリスタモデルの使い方
図1は,バリスタの特性を調べるための回路です.バリスタは静電気や雷などのサージ電圧から電子機器を保護するために使用されます.電圧源(V1)は,ピーク電圧30Vで周波数1kHzの正弦波を出力します.バリスタとV1は1kΩの抵抗で接続されています.また,特性を調べるバリスタは,バリスタ電圧22Vという仕様のものです.この回路で,OUT端子の電圧波形として正しいのは図2の(a)~(d)のどれでしょうか.
V1はピーク電圧30Vの正弦波で,調べるバリスタのバリスタ電圧は22V.
図1のOUT端子の電圧波形として正しいのは?
(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形
印加電圧が低いときは抵抗値が高く,印加電圧がバリスタ電圧を越えると抵抗値が低くなる性質があります.この性質を考えれば答えが分かります.
バリスタは,ツェナー・ダイオードのように,バリスタ電圧(ブレーク・ダウン電圧)を越えると,抵抗値が急激に小さくなります.ただし,ツェナー・ダイオードとは異なり,正負どちらに電圧を加えても,バリスタ電圧を越えるまでは,高抵抗となっています.
そのため,バリスタに抵抗を介してバリスタ電圧を越える正弦波を加えると,上下対象にクリップします.そのような波形となっているのは(c)なので,正解は(c)ということになります.
●バリスタの性質
バリスタ(Varistor:Variable Resistor)は,印加電圧によって抵抗値が変化します.バリスタを表す記号にはいろいろなものがありますが,図3のような記号がよく使用されます.
バリスタを表す記号にはいろいろなものがある.
図4は,バリスタに電圧を加えた加えたときに流れる電流をグラフにしたものです.電圧が低いときは抵抗値が高いため電流がほとんど流れず,バリスタ電圧を越えると抵抗値が小さくなって,大きな電流が流れます.バリスタ電圧は,一般的にはバリスタに流れる電流が1mAになる電圧として定義されています.
バリスタの動作はツェナー・ダイオードと似ていますが,ツェナー・ダイオードとは異なり,正負どちらの電圧が印加されても,バリスタ電圧を越えるまでは電流が流れません.
正負どちらの電圧が印加されても,バリスタ電圧を越えるまでは電流が流れない.
●LTspiceのバリスタ素子
LTspiceに付属しているバリスタ素子は,シンボル・ライブラリの中の"SpecialFunction"フォルダの中にあります.コンポーネント選択画面で,Varistorと入力することで呼び出すことができます.そのシンボルは,図5のように4端子素子となっており,外部電圧を印加することで,バリスタ電圧を設定します.また,Rclampという変数でバリスタ電圧を越えた後の抵抗値を設定します.Rclampを1Ωに設定する場合は,シンボルを右クリックして表示されるアトリビュート編集画面で,Valueの欄に,Rclamp=1と入力します.
外部電圧を印加することで,バリスタ電圧を設定する.
●LTspiceでバリスタ素子の動作を確認する
図6は,LTspiceのサンプルファイル(ドキュメント\LTspiceXVII\examples\Educational\varistor.asc)です.バリスタ電圧設定端子には,V2が接続されています.V2は±3Vの三角波となっているため,バリスタ電圧は,0Vから3Vまで変化することになります.
バリスタ電圧設定端子に,±3Vの三角波を印加している.
図7は,図6の回路のシミュレーション結果です.バリスタ電圧が0Vから3Vまで変化しているため,OUT端子の波形がクリップする電圧も0Vから3Vまで変化しています.なお,バリスタ電圧は,バリスタ電圧設定端子の電圧の極性には依存せず,絶対値で設定されることが分かります.
バリスタ電圧が変化しているため,OUT端子の波形がクリップする電圧も変化している.
図8の回路は,図6のV2を22Vの直流電圧に変えてバリスタ電圧を22Vに設定し,V1の電圧をピーク電圧30Vで1kHzの正弦波に変えたものです.
バリスタ電圧が22Vに設定される.
図9は,そのシミュレーション結果です.OUT端子の電圧波形は,正解の図2の(c)と同じものになります.
OUT端子の電圧は,図2の(c)と同じものになる.
●サージ電圧から電子機器を保護する動作を確認する
バリスタは,サージ電圧から電子機器を保護するために使用されます.そこで,サージ電圧が印加されたときに,どのように保護するのかをシミュレーションしてみます.
図10は,サージ電圧を印加するための回路です.C1とC2の初期電圧を「.ICコマンド」を使用して1000Vとしています.そして,1.5msec後にスイッチS1,S2をオンさせてOUT1端子とOUT2端子に1000Vのサージ電圧を印加します.OUT2端子にはバリスタ電圧22Vに設定したバリスタが接続されています.
「.ICコマンド」により,C1とC2の初期電圧は1000Vになる.
図11は,図10にサージ電圧が印加されたときの保護動作のシミュレーション結果です.OUT1端子には500V程度のサージ電圧が発生していますが,バリスタが付いているOUT2端子のサージ電圧は27V程度に抑えられていることが分かります.
OUT2端子のサージ電圧は27V程度に抑えられている.
以上,LTspiceのバリスタ素子の使い方を解説しました.LTspiceのバリスタ素子は,バリスタ電圧を簡単に変更できるため,手軽にバリスタを使用した回路の動作をシミュレーションすることができます.ただし,寄生容量等は考慮されていないため,より精密なシミュレーションをしたい場合は,バリスタのメーカが公開しているバリスタ・モデル注1を使用する必要があります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_005.zip
●データ・ファイル内容
varistor.asc:図6の回路
varistor.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
varistor1.asc:図8の回路
varistor1.plt:図9のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
varistor_surge.asc:図10の回路
varistor_surge.plt:図11のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
■LTspice関連リンク先
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