入力電圧の電圧範囲を見守る回路
図1は,U1とU2のコンパレータ(比較器)を使い,入力電圧がしきい値の電圧範囲(ウィンドウ)に収まっているかをディジタル値(High/Low)で判定するウィンドウ・コンパレータです.
図2に,V1を0Vから5VへスイープしたときのOUT端子の電圧を示しました.図1のOUT端子の電圧の応答として正しいのは,図2の(a)~(d)のどれでしょうか.
ここで,U1とU2の出力方式は,NPNトランジスタを使用したオープン・コレクタでディジタル値を出力します.BとSの端子はオフセット調整用なので,ここでは何も接続していません.
X軸:V1の電圧,Y軸:OUT端子の電圧
(a)の応答 (b)の応答 (c)の応答 (d)の応答
コンパレータは,入力電圧としきい値となる電圧を比較し,ディジタル信号のHigh/Lowの2値を出力します.図1のU1のコンパレータのしきい値が1V,U2のコンパレータのしきい値が2Vです.U1とU2のコンパレータ出力は,R1に接続しており,V1の電圧をスイープしたときの各々のコンパレータ出力のHigh/Lowの関係から,OUT端子の論理がどうなるかを検討すると分かります.オープン・コレクタ出力とは,スイッチとなるトランジスタのコレクタが直接OUT端子に出ている回路方式で,外部で負荷を接続(図1ではR1)することにより,ディジタル信号のHighとLowになります.
図1のU1のコンパレータは,V1が非反転端子へ,1Vのしきい値電圧が反転端子へ印加されております.U1の出力は,V1が1V以下でLow,それ以外がHighとなります.一方,U2のコンパレータは,V1が反転端子へ,2Vのしきい値が非反転端子へ印加されています.U2の出力は,V1が2V以上でLow,それ以外はHighとなります.
U1とU2のコンパレータの出力は,NPNトランジスタのオープン・コレクタ出力であり,コンパレータの出力がLowのとき,電流を吸い込む(ドレイン電極からソース電極)方向に流れます.U1とU2のコンパレータ出力は,R1に接続されているので,どちらかのコンパレータ出力がLowになると,電源のV+からR1を通って電流が流れ,OUT端子の電圧はLowとなります.このことから,V1が1V以下と2V以上の2つの状態でR1に電流が流れ,OUT端子の電圧はLowとなります.また,1Vと2Vの間は,U1とU2のコンパレータ出力はHighですので,R1に電流が流れずOUT端子の電圧はHighとなります.この応答を表しているのは,図2(d)となります.
ウィンドウ・コンパレータは,しきい値が2つあり,2つのしきい値の内側と外側で出力のHigh/Lowが変わります.この内側と外側の境界を窓枠に例え,内側で景色が見え,それ以外では見えないという2値であることにちなんで,ウィンドウ・コンパレータと呼ばれています.使用例としては,信号電圧等の調整において,2つのしきい値の内側に入ったときにLEDを点灯,外側は消灯というような回路等に用いられます.
ここでは,図1のオープン・コレクタ出力のコンパレータを使ったウィンドウ・コンパレータの動作をシミュレーションで確認します.また,コンパレータの出力方式にはレール・ツー・レール出力などもあり,この出力方式を使ったウィンド・コンパレータの注意点も解説します.
●コンパレータの出力方式について
コンパレータの出力方式を大別すると「外部負荷を必要」あるいは「外部負荷を必要としない」の2つになります.図3は,コンパレータの出力方式を表した簡易図です.図3(a)のオープン・コレクタ出力は,外部負荷を必要とする出力方式です.負荷が無いとコレクタはオープンなので電流が流れず動きません.図3(b)のようなレール・ツー・レール出力は,外部に負荷がなくてもHigh/Lowの信号が出力されます.オープン・コレクタ出力は,コンパレータ出力段がバイポーラ・トランジスタのときの名称で,MOSトランジスタのときはオープン・ドレイン出力と呼びます.
オープン・コレクタ出力は,負荷を接続しなければならないという煩わしさがあります.しかし,利点として物理的な結線で論理回路が構成できます.図1は,その回路例で,U1とU2のオープン・コレクタ出力を共通の負荷抵抗(R1)に物理的に結線し,両方のコンパレータ出力の論理がHighのときだけR1に電流が流れず,OUT端子がHighとなるAND回路となっています.図1のウィンドウ・コンパレータを図3(b)のレール・ツー・レール出力のコンパレータにすると,どちらかのコンパレータがHigh,他方がLowのとき,U1とU2のコンパレータ間に大電流が流れ,破壊することも考えられます.
オープン・コレクタ出力のもう1つの利点として,負荷抵抗につながる電源を変えれば,Highに相当する電圧を変えることができます.例えば,コンパレータの電源が5V,負荷抵抗の電源を3.3Vにすれば,3.3Vの論理回路へ信号を渡すことができます.
●ウィンドウ・コンパレータのシミュレーション
図4は,図1をシミュレーションする回路です.V1を直流解析で0V~5Vを1mVのステップでスイープし,OUT端子の電圧とU1とU2のコンパレータ出力の吸い込み電流をプロットします.
図5は,図4のシミュレーション結果です.上段がOUT端子の電圧,中段がコンパレータU1の吸い込み電流,下段がコンパレータU2の吸い込み電流です.U1のコンパレータは,V1が1V以下で電流を吸い込みます.U2のコンパレータはV1が2V以上で電流を吸い込みます.1Vと2Vの間はどちらのコンパレータも電流を吸い込みません.
U1とU2の吸い込み電流は,V+からR1を通り流れますので,OUT端子の電圧は1Vと2Vの内側でHigh,外側でLowとなり,解答(d)の応答となります.吸い込み電流は,コンパレータのLowの電圧を0Vと近似すれば,約500μA(5V/10kΩ)となり,図5の電流値とほぼ合っています.
・上段はOUT端子の電圧
・中段はコンパレータU1の吸い込み電流
・下段はコンパレータU2の吸い込み電流
●レール・ツー・レールのコンパレータに変更
図6は,図4のコンパレータを,レール・ツー・レール出力のコンパレータへ変更したウィンドウ・コンパレータです.図4と同じように,V1を直流解析で,0V~5Vを1mVのステップでスイープし,OUTの電圧とU1とU2のコンパレータ出力の吸い込み電流をプロットします.
図7は,図6のシミュレーション結果です.上段がOUT端子の電圧,中段がコンパレータU1の吸い込み電流,下段がコンパレータU2の吸い込み電流です.OUT端子の電圧は,図5のオープン・コレクタ出力と同じです.しかし,U1とU2の吸い込み電流と吐き出し電流は±30mAと大きな電流が流れてしまいます.これは,前述の「コンパレータの出力方式について」で解説したように,どちらかのコンパレータ出力がHigh,他方がLowのとき,U1とU2の出力を通して大電流が流れてしまい,良い回路とは言えません.
●レール・ツー・レールのコンパレータにダイオードを加える
図8は,U1とU2のコンパレータ出力とR1の間に,D1とD2のダイオードを加えた回路です.ダイオードは,アノード(+)からカソード(-)方向に電流を流し,その逆は流れません.よって,図8のようにダイオードを接続すると,U1とU2のコンパレータは吸い込み電流は流れますが,吐き出し電流は流れなくなります.
図9は,図8のシミュレーション結果です.上段がOUT端子の電圧,中段がコンパレータU1の吸い込み電流,下段がコンパレータU2の吸い込み電流です.U1とU2のコンパレータ出力の吐き出し電流が流れないため大電流が流れることなく,吸い込み電流は,図5の電流とほぼ同じになります.OUT端子のLow電圧は,ダイオードを加えたことにより,その順方向電圧分だけ増加します.
U1とU2の吸い込み電流は図5とほぼ同じになる.
以上,解説した通り,図1のように,オープン・コレクタ出力のコンパレータを2つ使い,2つのしきい値の内側がHigh,外側がLowとなるウィンドウ・コンパレータが作れます.レール・ツー・レール出力のコンパレータを使うときは,ダイオードを加え,吐き出し電流を流さない工夫でウィンドウ・コンパレータを作ることができます.コンパレータの出力方式は,三角の形をした回路図記号から分かりませんので,データシートで確認することが必要となります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_046.zip
●データ・ファイル内容
Window_comparator.asc:図4の回路
Window_comparator_using_Rail_to Rail_output_1.asc:図6の回路
Window_comparator_using_Rail_to Rail_output_2.asc:図8の回路
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