マイコンでリレーをコントロールする回路



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■問題
アナログ回路 ― 基礎

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,マイコンの信号を使用してリレーをON/OFFするための回路です.マイコンのI/Oポートの信号は,MOSFETのゲートに入力され,MOSFETのドレインにリレーが接続されています.リレーを駆動する回路として,もっとも適切なのは(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 マイコンでリレーをコントロールする回路
リレーを駆動する回路として,もっとも適切なのは(a)~(d)のどれ?

(a)の回路 (b)の回路 (c)の回路 (d)の回路


■ヒント

 リレーは,電磁石を利用して,スイッチのON/OFFをコントロールするもので,コントロール回路とスイッチを電気的に絶縁することができます.電磁石は鉄芯に導線を巻いたコイルとなっており,インダクタンス成分を持っています.コイルに電流を流したときの性質を考えると,どの回路が適切かが分かります.

■解答


(b)の回路

 コイルには,流れている電流を流し続けようとする性質があります.図1の回路でMOSFETがONして,リレーのコイルの電流が流れた後,MOSFETがOFFしても,コイルはその電流を流し続けようとします.そのため,(a)の回路ではMOSFETがOFFしたときに,コイルに大きな+の電圧が発生し,MOSFETを破壊してしまうことがあります.(b)の回路は,その電圧を電源から+0.7V程度に抑えることができます.そのため,適切なのは(b)の回路ということになります.(c)の回路はMOSFETがONしたときにダイオードに大きな電流が流れ,破壊してしまいます.また,(d)の回路でも抵抗の値を小さくすれば,MOSFETがOFFしたときに発生する電圧を小さくすることができます.しかし,無駄電流が多くなるため,適切ではありません.

■解説

●MOSFETが破壊する危険性のある使い方
 図2の回路は,図1(a)のリレー駆動回路をシミュレーション用に書き換えたものです.L1はリレーのコイルでインダクタンスは0.2Hで直列抵抗成分は125Ωとなっています.また,M1は,ローム社の2.5V駆動タイプNch MOSFETのRTF025N03を使用しています.このMOSFETのドレイン・ソース耐圧のスペックは30Vですが,使用しているMOSFETのモデルは,ドレインに高電圧を加えてもブレーク・ダウンしません.そのため,ツェナー・ダイオードのDZを追加し,MOSFETの耐圧を越えたときに,ブレーク・ダウンするようにしてあります.V1はマイコンのI/Oポートの信号に相当するもので,1秒間3.3Vを出力します.


図2 シミュレーション用のリレー駆動回路
MOSFETの耐圧を表現するため,ツェナー・ダイオードのDZを追加してある.

 図3は,図2のシミュレーション結果です.MOSFETのゲートに電圧が印可されるとL1に電流が流れます.このときの電流値はリレー駆動電圧の5VをL1の直列抵抗125Ωで割った40mAになります.1.5秒後にMOSFETのゲート電圧が0Vになると,MOSFETはOFFします.このとき,コイルに流れている電流はそのまま流れ続けようとします.しかし,MOSFETがOFFしているため,MOSFETのドレイン電圧はツェナー・ダイオードDZがブレークダウンするまで急激に上昇しします.実際のMOSFETではMOSFET自体の耐圧を越えてブレーク・ダウンすることになります.


図3 MOSFETが破壊する危険性のある回路のシミュレーション結果
MOSFETがOFFした後,ドレイン電圧が耐圧を越える電圧まで上昇している.

 図4は,図3の1.5秒付近の時間軸を拡大したものです.時間軸を拡大した波形を見ると,コイルの電流はMOSFETがOFFした後,すぐに0Aになるのではなく,徐々に小さくなっていることが分かります.この電流はツェナー・ダイオードを経由して流れています.コイルの電流が十分小さくなると,MOSFETのドレイン電圧が下がり,ツェーナーダイオードはOFFします.この後,ドレイン電圧は,コイルのインダクタンスとMOSFETのドレイン容量等で決まる共振周波数で振動した後,安定します.


図4 図3のシミュレーション結果で,1.5秒付近を拡大した図
コイルの電流はMOSFETがOFFした後,徐々に減少する.

●MOSFETが破壊しないリレー駆動回路
 コイルに並列にダイオードを接続すると,MOSFETがOFFしたときに,コイルに流れ続けようとする電流を流すルートを確保することができます.このダイオードのことを還流ダイオードと呼びます.還流ダイオードは,フリー・ホイール・ダイオードやフライ・ホイール・ダイオード,回生ダイオードなど,さまざまな名前で呼ばれています.
 図5は,コイルに並列に還流ダイオードを接続した,図1(b)のシミュレーション用の回路図です.


図5 MOSFETが破壊しないリレー駆動回路
コイルに並列に還流ダイオードをつける.

 図6は,還流ダイオードを接続した場合のシミュレーション結果です.MOSFETのゲート電圧が0Vになり,MOSFETがOFFした後,ドレイン電圧は電源電圧から0.7Vしか上昇していないことが分かります.これはMOSFETの耐圧よりも十分小さい値のため,MOSFETが破壊することはありません.


図6 コイルに還流ダイオードを接続したときのシミュレーション結果
MOSFETのドレイン電圧は,電源電圧から0.7V上昇するだけ.

 図7は,図6のシミュレーション結果の時間軸を図4と同じレンジに拡大したものです.MOSFETがOFFした後,コイルの電流は図4よりも時間をかけて減少していきます.この電流は還流ダイオードを介して,電源に向かって流れていきます.そのため,MOSFETのドレイン電圧は電源電圧(5V)+ダイオードの順方向電圧(0.7V)となります.


図7 図6のシミュレーション結果の時間軸を図4と同じレンジに拡大した図
コイルの電流は図4よりも時間をかけて減少していく.

 以上,マイコンでリレーをコントロールする回路について解説しました.最近は,電磁石を利用した機械式リレーのほかに,フォトカプラとMOSFETを組み合わせた半導体リレーも広く使用されるようになっています.半導体リレーの場合はコイルを使用しないため,還流ダイオードを接続する必要はありません.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_045.zip

●データ・ファイル内容
Relay.asc:図2の回路
Relay_Diode.asc:図5の回路

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