電流ブースト回路の吸い込み電流の最大値
図1は,反転アンプの出力電流を大きくするため,NPNトランジスタ(Q1)と抵抗(R3)で構成した電流ブースト回路を加えた回路です.OUT端子とGNDの間には,100Ωの負荷抵抗(RL)を接続しています.この回路の特徴は,吸い込み電流が小さく,吐き出し電流が大きいことです.図1において,RLに流れる吸い込み電流の最大値は(a)~(d)のどれでしょうか.
吸い込み電流の最大値はいくらか?
(a) -12.5mA (b) -16.7mA (c) -50.0mA (d) -66.7mA
吸い込み電流は,OUTの電圧が負になり,GNDから負荷抵抗(RL)を通って回路側に流れ込む電流のことです.負荷抵抗に流れる吸い込み電流は,どのような経路で流れるかを検討すると分かります.
図1のRLに流れる吸い込み電流の最大値は,OUTの電圧が負のときにQ1がオフとなり,GNDからRLとR3を通って-5Vの電源へ流れる電流です.R3の電流は,RLの電流の他に,R2から流れてくる電流も加わります.しかし,R2とRLが100Ωなので,RLの電流は大きく,R2の電流は無視でき,R3の電流はほぼRLの電流となります.
よって,吸い込み電流の最大値は,RLからR3に流れる電流となるため,GNDと-5Vの電源との間にあるRLとR3の直列抵抗に流れる電流となります.そこで,オームの法則を用いて最大の電流を求めると,「-5V/(100Ω+300Ω)=-12.5mA」となり,(a)が正解となります.
OPアンプを使ったアンプで,出力電流をOPアンプの最大電流より大きくするには,トランジスタや抵抗を使った電流ブースト回路を用います.図1は,トランジスタ(Q1)と抵抗(R3)のエミッタ・フォロワで,吐き出し電流を増加させる回路です.吸い込み電流は,吐き出し電流より小さくなるので注意が必要です.電流ブースト回路は,吸い込みと吐き出し両方の電流を大きくする回路もあり,それらについても解説します.
●電流ブースト回路の最大電流について
図1は,負荷抵抗(RL)に流れる吐き出し電流を大きくする回路です.図1のRLに流れる最大電流は,OUTの電圧が正または負により,電流の経路が変わります.OUTの電圧が正のときは吐き出し電流となり,+5Vの電源からQ1とRLを通ってGNDへ流れます.この場合,吐き出し電流の最大値は,Q1から供給されるため,大きな電流を負荷に流せます.一方,OUTの電圧が負のとき,吸い込み電流となり,Q1は関係せず,GNDからRLとR3を通って-5Vの電源へ流れます.このため図1の吸い込み電流と吐き出し電流の最大値は異なります.
●吸い込み電流の経路と最大電流の検討
図2は,OUTの電圧が負のときの最大電流の経路を赤の矢印で示しました.太い矢印は電流が大きいことを表し,細い矢印は電流が小さいことを表しています.
吸い込み電流は,RLに流れるILとR2に流れるIR2を加えた電流がR3に流れる電流IR3となり,-5Vの電源に流れます.ILとIR2の電流は,OUTの電圧で変化しますが,R2よりRLの抵抗の方が十分小さく,電流の大小関係は「IL>>IR2」です.吸い込み電流のIR3は,ほぼ負荷抵抗に流れるILとなります.この流れる経路により,吸い込み電流の最大値は式1となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1へ図1の回路定数を入れて計算すると,解答の(a)の「Iomax=-12.5mA」となります.
●2種類の負荷抵抗を使ったシミュレーション
図3は,図1をシミュレーションする回路です.IN端子は,0Vを中心に振幅200mV,周波数1kHzの正弦波を印加しています.反転アンプのゲインは「G=-10倍」なので,OUTの波形は位相が反転した振幅が2Vの正弦波になる設定です.RLは「.stepコマンド」で300Ωと100Ωの2種を切り替えて,次の2つの条件とします.これは吸い込み電流のILが吸い込み電流のIomaxより小さいときと,その逆の大きいときのOUTの電圧波形とRLの電流波形を比較するためです.
・RL=100Ω IL=-20mA, 式1のIomax=-12.5mA ※IL>Iomaxの条件
RLを300Ωと100Ωの2条件でシミュレーションする.
図4は,RLが300ΩのときのOUTの電圧とIL(=I(Rl))をプロットしました.「IL<Iomax」の条件なので,RLに流れる電流は,吸い込み電流の最大値の制限を受けないため,OUTの電圧波形とRLの電流波形は正弦波になります.
図5は,RLが図1と同じ100ΩのときのOUTの電圧とIL(=I(Rl))をプロットしました.「IL>Iomax」の条件なので,RLに流れる電流は吸い込み電流の最大値である「Iomax=-12.5mA」以上は流れません.このためOUTの負側の電圧波形は「RL×Iomax=-1.25V」で一定となり,OUTの波形は正弦波になりません.
●吸い込みと吐き出しの両方の電流を大きくする回路
図6は,吸い込みと吐き出しの両方の電流を大きくする回路です.図6のQ1とQ2を使ったB級プッシュ・プル回路の電流ブーストが用いられます.Q1とQ2は特性が揃ったものが望ましいので,コンプリメンタリー・トランジスタを用います.図6の吐き出し電流は,図1と同じで,電源(V+)からQ1とRLを通ってGNDへ流れます.その逆の吸い込み電流はGNDからRLとQ2を通って電源(V-)へ流れますので,吸い込み電流は,図1より大きくなります.
図7は,図6のシミュレーション結果です.図5のシミュレーション結果と比較すると,吸い込み電流が大きくなり,電流制限がかからず改善していることが分かります.
図6の回路の弱点は,B級のプッシュ・プル回路を使っているため,Q1による吐き出し電流とQ2による吸い込み電流が切り替わるとき歪みが生じます.この様子を確認するため,図8は,図7の時間軸を拡大しました.図8のように負荷電流が正のときはQ1,負のときはQ2が動作しますが,切り替わる0mA近傍で歪んでいることが分かります.
以上,図1の電流ブースト回路は,吸い込み電流の最大値が小さくなり,それ以上の電流は流せません.このため,負荷を重くすると,波形がクリップしたようになります.電流ブースト回路をB級プッシュ・プル回路にすると,吸い込み電流の最大値が改善されます.B級プッシュ・プル回路のQ1とQ2の切り替わりによる歪みは,AB級プッシュ・プル回路にすると改善されます.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_044.zip
●データ・ファイル内容
Output_current_booster1.asc:図3の回路
Output_current_booster2.asc:図6の回路
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