高精度な電流測定回路のOPアンプ



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■問題
アナログ回路 ― 基礎

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,負荷に流れる電流を検出するための回路です.負荷電流は0~8Aまで変化し,その電流を抵抗(RS)で電圧に変換して測定します.電流の検出精度を±1mAとするために必要な,OPアンプの入力オフセット電圧のスペックとして,正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.ただし,使用している抵抗の精度は十分高く,誤差は無視できるものとします.


図1 負荷に流れる電流を検出するための回路
電流の検出精度を±1mAとするために必要な,OPアンプの入力オフセット電圧のスペックは?

(a)10μV以下 (b)100μV以下 (c)1mV以下 (d)10mV以下


■ヒント

 抵抗(RS)の値は,8Aの電流が流れたRSに,電圧ロスと電力ロスが大きくなりすぎないよう,小さな値になっています.この抵抗で発生する電圧を考えれば,答えは簡単に分かります.

■解答


(a)10μV以下

 抵抗(RS)で発生する電圧は,負荷電流と抵抗値をかけたものです.負荷電流が1mAのときに発生する電圧は「1mA*10mΩ=10μV」です.そのため,電流検出精度を1mA以下とするためには,OPアンプの入力オフセット電圧は10μV以下である必要があります.

■解説

●差動増幅回路による電流検出
 電流を検出するための最も簡単な方法は,負荷と直列に抵抗を挿入し,電圧に変換して検出する方法です.ただし,挿入する抵抗の値が大きいと,その抵抗に発生する電圧が回路動作の妨げになったり,抵抗で発生する電力で発熱が大きくなったたりします.そのため,挿入する抵抗は非常に値の小さなものになります.一方,回路を構成する配線にも抵抗があるため,図2のような回路では正確な電流を測定することができません.配線抵抗による電圧降下が誤差となってしまうためのです.


図2 正確な負荷電流が測定できない回路
配線抵抗による電圧降下が誤差となってしまう.

 そのため,正確な電流を測定するためには,図3のような差動増幅回路を使用する必要があります.


図3 差動増幅回路
VAとVBの差電圧を増幅することができる.

 図3の回路の出力電圧(VOut)は式1で表すことができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 ここで「R3=R1,R4=R2」とすると,式(1)は式(2)のように簡略化できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 この差動増幅回路を図1のように接続することで,抵抗の両端電圧のみを増幅することができます.図1の回路で負荷電流をILとすると,出力電圧(VOut)は式(3)のように表すことができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 ILが8Aのときに,出力電圧は4Vになることが分かります.

●OPアンプの入力オフセット電圧
 OPアンプは,内部トランジスタのばらつきによって,どうしても入力オフセット電圧が発生してしまいます.そのため,OPアンプの仕様書では入力オフセット電圧の大きさがスペックとして明記されています.一般的に,入力オフセット電圧が1mV以下のものを高精度OPアンプと呼びます.
 一部のOPアンプでは,入力オフセット電圧を外部抵抗で調整可能としてあるものもありますが,温度が変わると,オフセット電圧も変動してしまうという問題があります.そのため,100μV以下のような小さなオフセット電圧を実現するのは,かなり困難です.
 図1の回路の電流検出抵抗は10mΩとなっており,負荷電流が1mAのときに発生する電圧は,式4のように10μVとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 そのため,電流測定精度を±1mAとするためには,OPアンプの入力オフセット電圧は10μV以下でなければなりません.ところが,通常のOPアンプでは,このような小さな入力オフセット電圧を実現することは不可能です.
 このような問題を解決するため,入力オフセット電圧を自動的に調整する機能をもったOPアンプが開発されています.このようなOPアンプは「ゼロ・ドリフト・アンプ」や「オート・ゼロ・アンプ」という名前で呼ばれており,10μV以下の入力オフセット電圧を実現しています.
 また,オフセット調整モードと通常モードを高速に切り替えて動作させているため,温度が変化しても入力オフセット電圧が大きく変動してしまうことはありません.
 図4は,図1の回路をゼロ・ドリフト・アンプであるAD8551を使用して,シミュレーション用に書き換えたものです.AD8551の入力オフセット電圧のスペックは,オフセット電圧が1μV,入力オフセット・ドリフトが0.005μV/℃となっており,±1mAの電流精度を十分に達成することができます.図4では,負荷電流(IL)を0Aから8Aまで変化させるシミュレーションを行います.


図4 ゼロ・ドリフト・アンプのAD8551を使用した電流検出回路
ILを0Aから8Aまで変化させるシミュレーションを行う.

 図5図4のAD8551を使用した電流検出回路のシミュレーション結果です.0A~8Aの負荷電流の変化を,0V~4Vの電圧に正確に変換できています.


図5 AD8551を使用した電流検出回路のシミュレーション結果

 図6図5の横軸のレンジを0mA~8mAに拡大したものです.このシミュレーション結果からも0A~8Aの負荷電流の変化を0V~4Vの電圧に,誤差±1mAよりも十分精度よく変換できていることが分かります.


図6 AD8551を使用した電流検出回路のシミュレーション結果拡大図
0mA~8mAの負荷電流の変化を,0mV~4mVの電圧に精度よく変換できている.

 ゼロ・ドリフト・アンプは,入力オフセット電圧の極めて小さいOPアンプとして,通常のOPアンプとほぼ同等の使い方ができます.ゼロ・ドリフト・アンプの動作原理や特性に関しては,下記参考文献(1)を参照してください.

◆参考引用文献◆
(1)AD8551日本語版参考資料
https://www.analog.com/media/jp/technical-documentation/data-sheets/AD8551_8552_8554_JP.pdf

■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_043.zip

●データ・ファイル内容
I_sens.asc:図3の回路

■LTspice関連リンク先


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