AC結合反転アンプの動作



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■問題
アナログ回路の基礎 ― 基礎

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,コンデンサ(C1)で,AC結合した反転アンプです.IN端子に,直流電圧が0V,振幅が10mV,周波数が1kHzの正弦波を入力します.このとき,OUT端子の波形は,(a)~(d)のどれでしょうか.
 1kHzの周波数において,C1のインピーダンスは,R1の抵抗値より十分小さく無視できる値とします.


図1 AC結合反転アンプの回路
入力は直流電圧が0V,振幅が10mVの正弦波を印加している.

(a)2Vを中心に,15mVの正弦波
(b)2Vを中心に,100mVの正弦波
(c)3Vを中心に,15mVの正弦波
(d)3Vを中心に,100mVの正弦波

■ヒント

 (a)~(d)の違いは,OUT端子の直流電圧と振幅です.直流電圧はどこから決まるか,また,ゲインはいくらになるかを検討すると分かります.

■解答


(b)2Vを中心に,100mVの正弦波

 図1のコンデンサ(C1)は,直流を通過させず,交流のみ反転アンプへ伝達します.入力の正弦波信号周波数において,C1のインピーダンスはR1の抵抗値より十分小さく無視できる値なので,反転アンプの信号ゲインは,「G=-R2/R1」となります.ここで,マイナスの符号は位相が反転する意味です.よって,図1の回路定数「R1=10kΩ,R1=100kΩ」を使うとゲインは,10倍となります.このゲインより,入力の正弦波の振幅は10mVですので,出力の正弦波の振幅は100mVとなります.(a)~(d)の中でこの振幅になるのは(b)と(d)です.
 次に,出力端子の直流電圧は,OPアンプの非反転端子の電圧で決まります.図1の非反転端子は,電源電圧5Vを「R3=36kΩ」と「R4=24kΩ」で分圧した電圧ですので2Vとなります.この直流電圧になっているのは(b)の出力波形となります.


■解説

 コンデンサを使って,直流信号をカットし,交流信号だけを通す接続のことをAC結合と呼びます.図1は,IN端子と反転アンプの入力となるR1の間をC1でAC結合をした回路です.IN端子の直流成分はC1でカットし,交流成分だけを増幅します.増幅した交流信号は,C1で直流成分がカットされています.そこで,後段では,非反転端子に接続したバイアス回路の直流電圧で動作します.バイアス回路は,R3とR4の分圧回路なので,抵抗値の調整でOUT端子の直流電圧が調整できます.
 AC結合反転アンプの用途としては,前後の回路のバイアス電圧が異なるときの接続や高域通過フィルタ(High Pass Filter)などです.以下ではAC結合反転アンプのゲイン周波数特性やバイアス回路について解説します.

●ゲインの周波数特性の検討
 解答では,コンデンサ(C1)のインピーダンスは,R1の抵抗値より十分小さく無視できる条件で考え,ゲインは「G=-R2/R1」としました.ここでは,図2を使い,低い周波数から高い周波数までのゲイン周波数特性を検討してみます.


図2 図1からAC結合反転アンプを切り出した回路

 図1のVINからVOUTまでの,C1のインピーダンスを含めた伝達関数は式1となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 ゲインは式1の絶対値なので,式2となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式2のゲイン周波数特性を検討するため,ωが3つの条件のときについて考えてみます.

条件1:低い周波数の条件として「ω<<1/C1R1
条件2:ωが1/C1R1と等しくなる条件として「ω=1/C1R1
条件3:高い周波数の条件として「ω>>1/C1R1

 式2に,3つの条件を当てはめると,表1に示すゲイン,また,R2/R1のゲインから-3dB(=1/√2と同意)となるコーナ周波数,そしてゲインが1となる周波数が分かります.

表1 ωの条件によるゲイン,コーナ周波数,「G=1」となる周波数

 図3は,表1の結果を用い「ω=2πf」の関係を使って,ゲイン周波数特性を検討したイメージ図です.


図3 机上計算を用いて検討したゲイン周波数特性

 低周波から高周波までのゲイン周波数特性は次のようになります.
・条件1の「ω<<1/C1R1」となる低い周波数では,ゲインは「G=ωC1R2」であり,周波数が高くになるにつれ,ゲインは高くなります.またゲインが0dB(=1倍)となる周波数は「1/2πC1R2」となります.
・条件2は条件1と条件3の間で,「ω=1/C1R1」となる周波数です.この条件がR2/R1のゲインから-3dBとなるコーナ周波数「1/2πC1R1」となります.
・条件3の「ω>>1/C1R1」となる高い周波数では,ゲインは「G=R2/R1」であり,一定となります.これが解答と同じになるところです.更に高い周波数になると,OPアンプの周波数特性より制限がかかります.
 このように,図1のAC結合反転アンプは,コーナ周波数が「f=1/2πC1R1」の高域通過フィルタであることも分かります.

●直流を作るバイアス回路
 図1の非反転端子の電圧は,図4のR3,R4の分圧回路を使ったバイアス回路から与えています.図4はアンプにバイアス電圧をかける方法としてよく用いられ,抵抗比でバイアス電圧が簡単に調整できます.


図4 分圧回路を使ったバイアス回路

 図4のバイアス電圧は式3となり,図1の「R3=36kΩ,R4=24kΩ,V+=5V」を使うと「VBIAS=2V」となります.この電圧が解答(b)のOUT端子の直流電圧となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 C2は,分圧回路に重畳される雑音除去の目的で,低域通過フィルタとなります.図4の低域通過フィルタのコーナ周波数は,R3とR4の並列抵抗とC2で決まる式4となり,図1の「R3=36kΩ,R4=24kΩ,C2=10μF」を使うと「fC2=1Hz」となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

●AC結合反転アンプのシミュレーション
 図5は,図1をシミュレーションする回路です.AC解析で入力信号を0.1Hz~10MHzまでスイープし,OUT端子のゲイン周波数特性をプロットします.


図5 図1をシミュレーションする回路

 図6図5のシミュレーション結果です.図6の1kHzの周波数のゲインは「G=20dB」であり,回路定数から求まる「R2/R1=10」をデシベル表示したゲインと一致します.この20dBから-3dBとなるコーナ周波数は16Hzであり,回路定数から求まる「1/2πC1R1=16Hz」と一致します.またゲインが0dBとなる周波数は1.6Hzであり,回路定数から求まる「1/2πC1R2=1.6Hz」と一致します.


図6 図5のゲイン周波数特性

 図7は,図5のAC解析から過渡解析の「.tran 5m」に入れ替えてシミュレーションした結果です.入力信号は,直流が0V,振幅は10mV,周波数は1kHzの正弦波です.このときの出力は,直流が2V,振幅は100mV,周波数は1kHzの正弦波となり,解答の(b)と一致します.


図7 図5の過渡解析の結果
出力は2Vを中心に,100mVの正弦波となる.

 以上、解説した通り,AC結合反転アンプは,前段のバイアス電圧と後段のAC結合反転アンプのバイアス電圧が違うとき,増幅した交流信号は後段のバイアス電圧を中心に振れる信号となります.また高域通過フィルタとしても使えることが分かります.ここでは信号源抵抗は0Ωとして考えています.実際は信号源抵抗が有限値ですので,R1に比べて無視できない信号源抵抗のときは,ゲイン誤差が生じますので注意してください.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_042.zip

●データ・ファイル内容
AC_coupled_Inverting_amplifer.asc:図5の回路

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