磁気センサの使い方
図1は,ホール素子(磁気センサ)を使用した磁界を検出するための回路です.ホール素子の性質を表す説明として,正しいのは,(a)~(d)のどれでしょうか.
ホール素子の性質を表す説明として,正しいのは?
(a) ホール素子は磁界によってコイルに発生する起電力を利用している
(b) ホール素子で検出できるのは磁界の強さだけで,極性は判別できない
(c) ホール素子は磁界が変化するスピードに比例した電圧を発生する
(d) ホール素子は定電圧源で駆動するだけでなく,定電流源で駆動することもある
ホール素子は,磁界を検出する素子として,磁気センサやモータの回転位置検出など,広範囲に使われています.(a)~(d)で間違った説明はどれかという消去法で考えると,正解が分かります.
ホール素子は,半導体に発生するホール効果を利用したものなので,(a)は間違いです.また,ホール素子は,磁界の極性で出力電圧の極性が変わるため,(b)も間違いです.コイルは,磁界の変化速度に比例した電圧を発生しますが,ホール素子は,磁界の強さに比例した電圧を発生します.したがって(c)も間違いです.そのため,残った(d)が正解です.ホール素子は,定電圧源で駆動するだけでなく,定電流源で駆動することもあります.
●ホール素子の構造と性質
ホール素子は,図2のように薄い半導体素子の4辺に電極をつけたものです.①の電極がプラスで,③の電極がマイナスとなるよう,電圧を加えると,電流は上から下に向かって流れます.この状態で,黄色矢印の方向の磁界が加わると,フレミング左手の法則により,流れている電流は手前側に力を受けます.すると電流の方向が変わり,②の電極と④の電極の間に電位差が発生します.この現象は1879年にアメリカの物理学者ホール(Hall)によって発見され,ホール効果と呼ばれています.
この電位差を利用しているのがホール素子です.発生する電圧は流れている電流の大きさおよび磁界の強さに比例し,電圧の極性は磁界の向きで決まります.
薄い半導体素子の4辺に電極をつけたもの.
●ホール素子の等価回路
ホール素子は,図3のように,抵抗を4本使用した等価回路で表すことができます.基本的には4本の抵抗の抵抗値はすべて同じです.しかし,製造上,それぞれの抵抗値に多少の違いが発生します.R1とR2もしくはR3とR4の抵抗値が異なると,磁界が加わっていないときでも,出力電圧が発生しオフセット電圧となります.
RH1とRH2もしくはRH3とRH4の抵抗値が異なるとオフセット電圧が発生する.
表1は,HG-071というホール素子(1)の仕様書(2)の一部です.仕様書には,ホール素子の感度(磁束密度に対する出力電圧)や入力抵抗,出力抵抗が表記されています.元の仕様書には,標準値の記載がなかったため,最大値と最小値の中心値をかっこの中に追記してあります.
ホール素子の感度や入出力抵抗が表記されている.
このホール素子は,6Vで駆動したとき,磁束密度50mT(ミリ・テスラ)のときに,65mVの出力が得られることが分かります.また,入力抵抗は,①番端子と③番端子間の抵抗値で,出力抵抗は②番端子と④番端子間の抵抗値を表しています.
図3の等価回路では,①番端子と③番端子間の抵抗値(R1,3)は式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
R1~R4の抵抗がすべて等しく,その値をRとすると,式2のようにRは①番端子と③番端子の抵抗値と同じになります.このホール素子の場合は入力抵抗の標準値が750Ωなので,Rも750Ωになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
●ホール素子の駆動回路
ホール素子を動作させるためには,ホール素子に電流を流す必要があります.その駆動方法には図4(a)のように定電圧を印可する方法と,図4(b)のように動作電流が一定電流となるように定電流駆動する方法があります.
図4(a)ではホール素子には電圧源のVBと同じ電圧が加わります.図4(b)では,Rに加わる電圧がVBと等しくなり,ホール素子にはVB/Rという一定の電流が流れます.
定電圧駆動と,定電流駆動では,磁界を電圧に変換する感度の温度係数が異なりますので,用途に応じて,どちらかを選択します.
定電圧駆動と定電流駆動がある.
●ホール素子の出力を増幅する回路
ホール素子の出力電圧は,小さいため,その出力を増幅する必要があります.出力は差動信号となっているため,一般的には図1のように差動増幅回路で増幅します.
図5は,表1の特性を持つホール素子を使用し,磁束密度1mTあたり100mVの出力が得られるよう,増幅回路のゲインを設定した回路です.
磁束密度1mTあたり100mVの出力となるよう,ゲインを設定.
V1,V2は,ホール素子の出力電圧を表しており,それぞれの電圧はVOという変数を使用し「VO=B*(65m/50m)/2」という数式で表1の感度を表現しています.Bという変数が磁束密度を表しており,Bを-50mから+50mまで変化させるシミュレーションを行います.Bが負のときは,磁界の極性が変わった状態のシミュレーションになります.ここで,シミュレーションを実行する前に,図5のR1,R3の定数や差動増幅回路のゲインの算出を解説します.
図6は,図5の回路を計算するため,差動信号に着目して書き換えたものです.
図5を差動信号に着目して書き換えたもの.
ここで「R1=R3」,「R2=R4」,「RH1=RH2=RH3=RH4=R」とすると,この回路のゲイン(G)は式3で表すことができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
表1のホール素子の感度は,磁束密度50mTのときに出力電圧が60mVであることから,1mTあたり,1.3mVです.これを1mTあたり,100mVとするために必要なゲインは式4のように76.9倍とする必要があります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
ここで,帰還抵抗R2を100kΩとし,式3を変形してゲインが76.9倍となるR1を求めると,式5のように925Ωとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
つまり「R1=R3=925Ω」,「R2=R4=100kΩ」とすれば,増幅回路の出力では1mTあたり,100mVの出力が得られることになります.
図7は,図5のホール素子と増幅回路のシミュレーション結果です.Out端子とVref端子の差電圧を表示しています.設計通り,1mTあたり100mVの出力が得られていることが分かります.
1mTあたり,100mVの出力が得られている.
以上,ホール素子の使い方について解説しました.磁界を検知するセンサ素子としてはホール素子のほかに,磁界によって抵抗値が変化する磁気抵抗素子があります.磁気抵抗素子は,原理や構造の異なる様々な種類のものが開発されており,ADA4571のようにセンサと増幅回路が1パッケージ化されたものもあります.
(1)AKM社 技術情報 ホール素子
https://www.akm.com/akm/jp/product/detail/0004/technical-information/
(2)AKM社 HG-071仕様書
https://www.akm.com/akm/jp/file/datasheet/HG-0711.pdf
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_041.zip
●データ・ファイル内容
Hall_Element_damp.asc:図5の回路
Hall_Element_damp.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs
(7) IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(8) オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs