マイクの種類と使い方
図1は,FET内蔵エレクトレット・コンデンサ・マイク(ECM:Electret Condenser Microphone)ユニットとOPアンプを使用して,音声信号を電気信号として取り出すための回路です.ECMユニットを使用したマイク・アンプの回路で,音を正しく電気信号に変換できる回路は,(a)~(d)のどれでしょうか.
音を正しく電気信号に変換できるのはどれ?
(a)の回路 (b)の回路 (c)の回路 (d)の回路
エレクトレット・コンデンサ・マイクは,スマートホンなどに広く使用されています.コンデンサ・マイクの一種で,高分子フィルムに電荷を帯電させたものを振動膜として,音を電気信号に変換するものです.一般的にはFETと一体化したユニットとして,部品メーカから供給されます.このユニットの特徴を考えれば,答えは簡単に分かります.
ECMユニット内部には,FETが内蔵されており,ゲートに,高分子フィルムに電荷を帯電させた振動膜が接続され,ソースとドレインがそれぞれ-端子と+端子として外部に取り出されています.
出力信号はドレイン(+端子)から取り出しますが,そこには電圧の印可された負荷抵抗を接続する必要があります.そのような接続となっているのは図1(d)なので,正解は(d)の回路になります.
●ダイナミック・マイク
音を電気信号に変換するマイクには,様々な種類があります.主要なものはダイナミック・マイクとコンデンサ・マイクに大別できます.ダイナミック・マイクは,電気信号を音に変換するスピーカと類似した構造となっています.音を検出する振動膜にはコイルが接続され,磁石で作られた磁界の中でコイルが振動することで発電し,電気信号を出力します.そのため,ダイナミック・マイクは外部電源が必要なく,図2のような回路で信号を増幅することができます.
ダイナミック・マイクには外部電源は必要無い.
●コンデンサ・マイク
コンデンサ・マイクは,音を検出する振動膜をコンデンサの一方の電極とし,コンデンサの電極間の距離が音で変化することで容量値が変わることを利用して,音を電気信号に変換します.
コンデンサ・マイクには,通常のコンデンサ・マイクとエレクトレット・コンデンサ・マイクの2種類があります.図3は通常のコンデンサ・マイクとエレクトレット・コンデンサ・マイクの模式図です.
通常のコンデンサ・マイクは容量変化を電気信号に変換するために,振動膜電極に比較的高い電圧(48V等)を印可する必要があります.
エレクトレット・コンデンサ・マイクは,振動膜(高分子フィルム)に電荷を帯電させ,常に静電気が発生している状態とすることで,振動膜に電圧を印可せずに,音を電気信号に変換できます.
それぞれの構造と信号の取り出し方の模式図.
エレクトレット・コンデンサ・マイクは,マイク自身に電圧を印可する必要はありません.しかし,マイクとして動作するコンデンサの容量値は小さく,低い周波数まで検出できるようにするためには,次段の増幅回路の入力抵抗を数百MΩまで大きくする必要があります.
このような大きな入力抵抗は扱いにくいので,一般的なエレクトレット・コンデンサ・マイクは,非常に大きな入力抵抗でバイアスされたFETと一体化したユニットとなっています.図4がエレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットの構造図です.
大きな入力抵抗でバイアスされたFETと一体化されている.
●エレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットの使い方
エレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニット(ECM)はFETが内蔵されてるため,使用する場合は図5のように電源電圧の印可された負荷抵抗を接続する必要があります.負荷抵抗の値によって,音から電気信号に変換するときのゲインが変化します.そのため,ECMの仕様書には推奨する負荷抵抗の値が記載されています.
電源電圧の印可された負荷抵抗を接続する必要がある.
●エレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットのシミュレーション
図6は,エレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットの動作をシミュレーションするための等価回路です.Vsは音によって発生した電圧を模擬するための信号源です.FETの入力バイアス抵抗(RB)は500MΩとしてあります.
Vsは音によって発生した電圧を模擬するための信号源.
図7が図6のシュミレーション結果です.ゲインの絶対値には意味がありません.しかし,FETの入力バイアス抵抗(RB)を500MΩにすることで,低域のカットオフ周波数は,20Hzまで低域に伸びています.FETの入力バイアス抵抗を小さくすると,このカットオフ周波数が高くなってしまいます.
低域のカットオフ周波数は20Hzまで伸びた.
●エレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットの感度
エレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットの出力電圧は小さいため,通常はその後に増幅回路を接続します.その増幅回路のゲイン設定のためには,エレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットの感度を知る必要があります.
メーカの仕様書には,推奨する値の負荷抵抗を使用したときの感度が記載されています.その単位はdB/Paです.分母のPa(パスカル)は空気の圧力を表す単位です.天気予報で耳にする,ヘクト・パスカル(hPa)と同じもので,1hPaが100Paに相当します.
音は,空気の振動で,空気の圧力が変化していると考えることができます.そのため,マイクの感度は,空気の圧力変化(音圧)に対する電気信号の大きさという形で表現されます.
マイクの感度は1Paの音圧のときに1Vの出力電圧が得られるマイクを0dB/Paとして定義されています.もし,エレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットの感度が-40dB/Paだったとすると,1Paの音圧のときの出力電圧は,-40dBV=10mVとなります.
1Paの音の大きさは,かなりうるさく,電車が通ったときのガード下並みの音量と言われています.また,音の大きさの表し方にはPaの他にdBSPL(dB Sound Pressure Level)というものがあります.これは,人間が聞こえる最小の音(20μPa)を基準の0dBとしたものです.音の大きさを表す単位としては,dB SPLのほうが一般的に使用され,SPLを省略して「騒音の大きさが100dBを越えた」などの使い方をされています.
Paの値をdB SPLに変換するには,Paの値を20μで割り,対数を取って20倍します.1Paは式1のように,94dB SPLとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
●1Paの音を400mVに変換するマイク・アンプをシミュレーションする
図8は図6のエレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットの等価回路と,OPアンプを組み合わせた,1Paの音を400mVに変換するマイク・アンプ回路です.
Mic_Outの出力が-40dBVとなるよう,信号源VSのAC Amplitudeの値を設定
ここで,使用するマイク・ユニットの感度を-40dB/Paとし,1Paの音がマイクに入力されたとき,出力レベルを400mV(-8dBV)にする場合,後段の増幅回路のゲインは-8-(-40)=32から,32dB(40倍)とすればよいことになります.図8の非反転増幅回路のゲインGは式2のように40倍となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
図8では,1Paの音が入力されたときを想定し,Mic_Outの出力が-40dBVとなるよう,信号源VSのAC Amplitudeの値を設定しています.
図9が図8のシミュレーション結果です.1Paの音が入力されたときを想定したシミュレーションですが,Mic_Outは-40dBVでOutは設計通り-8dBV(400mV)となっています.
Mic_Outは-40dBVでOutは-8dBV(400mV)となっている.
以上,エレクトレット・コンデンサ・マイクの使い方に関して解説しました.もう一つの代表的な方式の,ダイナミック・マイクの感度は,-50~-60 dB/Pa程度とエレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットよりもだいぶ低くなっています.そのため,エレクトレット・コンデンサ・マイク・ユニットと同じ出力レベルとするためには,後段の増幅回路のゲインを高く設定する必要があります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_037.zip
●データ・ファイル内容
ECM_JFET.asc:図5の回路
ECM_JFET_amp.asc:図7の回路
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