ヒステリシス・コンパレータのしきい値
図1は,コンパレータと抵抗を使ったヒステリシス・コンパレータ(比較器)です.図2は,図1のIN端子に,最大値が±15Vの三角波を入力したときのOUT端子の波形を示しました.OUT端子の波形として正しいのは,図2の(a)~(d)のどれでしょうか.ここで,OUT端子の最大値を+15V,最小値を-15Vとします.
X軸:IN端子の電圧,Y軸:OUT端子の電圧
(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形
図2の(a)~(d)の違いは2つあります.1つは,IN端子とOUT端子が反転,または,非反転の関係です.2つ目は,OUT端子の電圧が+15Vから-15Vへ切り替わるときと,その逆の,-15Vから+15Vへ切り替わるとき,コンパレータのしきい値が0Vを中心に対象または非対称の違いです.これをヒントに図1の回路はどうなっているかを考えると分かります.
図1のIN端子は,コンパレータの反転端子に接続しているので,IN端子とOUT端子の関係は反転します.この状態を表しているのは図2の(c)と(d)です.次にヒステリシス・コンパレータは,OUT端子の状態により2つのしきい値を持つ回路です.図1は,コンパレータの非反転端子の電圧がしきい値となり,OUT端子の電圧により変化します.OUT端子の最大値は+15V,最小値は-15Vですので,+15VをR1とR2で分圧した電圧と,-15VをR1とR2で分圧した電圧の2つです.R1とR2は同じ抵抗値ですので,しきい値は0Vを中心に対象となります.この状態を表しているのは(c)の波形となります.
コンパレータは,アナログ信号をディジタル信号に変換するときに用いられます.アナログ信号にノイズが重畳されているとき,1つのしきい値ではノイズがしきい値を交差するたびに,コンパレータの出力はHighとLowの信号を繰り返すことになります.ヒステリシス・コンパレータは,出力の状態により2つのしきい値を持ち,出力が切り替わると同時にしきい値を変えるため,ノイズによる誤動作を無くすことができます.2つのしきい値をもつ動作をヒステリシスと呼び,コンパレータに正帰還をかけることで実現します.今回は「反転型ヒステリシス・コンパレータ」,「しきい値が非対称となる反転型ヒステリシス・コンパレータ」,「非反転型ヒステリシス・コンパレータ」について解説します.
●反転型ヒステリシス・コンパレータ
図3は,図1と同じで,コンパレータの反転端子が入力となり,非反転端子へOUT端子から抵抗R1とR2の分圧回路を介して正帰還をかけた反転型ヒステリシス・コンパレータです.IN端子の信号は,非反転端子の電圧と比較され,OUT端子は反転したディジタル信号のHighとLowの2値となります.非反転端子の電圧は,OUT端子の電圧が変わることにより2つのしきい値となります.
図3の2つのしきい値を机上計算します.非反転端子の電圧をVTH,OUT端子の電圧をVOUTとすれば,式1となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
VOUTがHighのときの電圧をVOHとすれば,1つ目のしきい値は式2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
VOUTがLowのときの電圧をVOLとすれば,2つ目のしきい値は式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式2と式3へ「VOH=15V」,「VOL=-15V」,「R1=R2=100kΩ」を入れて計算すると,「VTH1=+7.5V」,「VTH2=-7.5V」となり,0Vを中心に対象のしきい値となります.
図4は,図3をシミュレーションした結果です.IN端子には最大値が±15Vの三角波を入力し,IN端子とOUT端子の電圧をプロットしました.IN端子の電圧が-15Vから+15Vへ推移するとき,VTH1になるとOUT端子は+15Vから-15Vへ変わります.その逆のIN端子の電圧が+15Vから-15Vへ推移するとき,VTH2になるとOUT端子は-15Vから+15Vへ変わります.
図5は,図4のX軸をIN端子の電圧へ変更したプロットです.入力と出力は反転の関係にあり,2つのしきい値は0Vを中心に対象の±7.5Vとなります.この波形は図2の(c)であり,解答の波形となります.
●しきい値が非対称となる反転型ヒステリシス・コンパレータ
図6は,図3の回路にVbの直流電圧を加え,しきい値が非対称となるようにした反転型ヒステリシス・コンパレータです.
図6の2つのしきい値を机上計算します.非反転端子の電圧をVTH,OUT端子の電圧をVOUTとすれば,式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式4を整理すると,式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
VOUTがHighのときの電圧をVOHとすれば,1つ目のしきい値は式6となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
VOUTがLowのときの電圧をVOLとすれば,2つ目のしきい値は式7となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
式6と式7へ「VOH=15V」,「VOL=-15V」,「Vb=10V」,「R1=R2=100kΩ」を入れて計算すると,「VTH1=+12.5V」,「VTH2=-2.5V」となり,非対象のしきい値となります.
図7は,図6をシミュレーションした結果です.IN端子の電圧が-15Vから+15Vへ推移するとき,VTH1になるとOUT端子は+15Vから-15Vへ変わります.その逆のIN端子の電圧が+15Vから-15Vへ推移するとき,VTH2になるとOUT端子は-15Vから+15Vへ変わります.
図8は,図7のX軸をIN端子の電圧へ変更したプロットです.入力と出力は反転の関係にあり,2つのしきい値は非対称となります.
●非反転型ヒステリシス・コンパレータ
図9は,R1の一端が入力となり,コンパレータの非反転端子へOUT端子から抵抗R1とR2の分圧回路を介して正帰還をかけた非反転型ヒステリシス・コンパレータです.非反転端子の電圧は反転端子の電圧と比較され,OUT端子はディジタル信号のHighとLowの2値となります.非反転端子の電圧は,IN端子の電圧とOUT端子の電圧に関係し,OUT端子は2つの値となることから,2つのしきい値となります.
図9の2つのしきい値を机上計算します.非反転端子の電圧をVa,IN端子の電圧をVIN,OUT端子の電圧をVOUTとすれば,式8となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
式8を整理して,式9となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
式9のVINが推移するとVaもそれに応じて変化します.Vaが反転端子の電圧0Vと交差してOUT端子の電圧が切り替わるときのVINがしきい値電圧となります.よって,式9は式10となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
式10より,しきい値は式11となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)
VOUTがHighのときの電圧をVOHとすれば,1つ目のしきい値は式12となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)
VOUTがLowのときの電圧をVOLとすれば,2つ目のしきい値は式13となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(13)
式12と式13へ「VOH=15V」,「VOL=-15V」,「R1=50kΩ」,「R2=100kΩ」を入れて計算すると,「VTH1=-7.5V」,「VTH2=+7.5V」となり,0Vを中心に対象のしきい値となります.
図10は,図9をシミュレーションした結果です.IN端子の電圧が-15Vから+15Vへ推移するとき,VTH2になるとOUT端子は-15Vから+15Vへ変わります.その逆のIN端子の電圧が+15Vから-15Vへ推移するとき,VTH1になるとOUT端子は+15Vから-15Vへ変わります.
図11は,図10のX軸をIN端子の電圧へ変更したプロットです.入力と出力は正転の関係にあり,2つのしきい値は0Vを中心に対称となります.
以上,解説した通り,コンパレータ出力から非反転端子へ抵抗の分圧回路を介して正帰還することにより,ヒステリシス・コンパレータとなります.コンパレータは,OPアンプでも代替できますが,応答速度がスルーレートで制限されて遅くなります.またこのメルマガでは,コンパレータ出力電圧の最大値を+15V,最小値を-15Vとしましたが,実際は僅かに変わりますので,精度が必要なしきい値の計算は,使用するコンパレータの最大値と最小値を使ってください.ヒステリシス・コンパレータは「シュミット・トリガ」とも呼ばれています.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_036.zip
●データ・ファイル内容
Inverting_Hysteresis_Comparator1.asc:図3の回路
Inverting_Hysteresis_Comparator2.asc:図6の回路
Non_Inverting_Hysteresis_Comparator.asc:図9の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs
(7) IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(8) オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs