熱電対を使った温度計測回路
図1は,熱電対を使った温度計測回路です.使用している熱電対はKタイプのもので,温度1℃あたりの発生電圧は41μVです.この熱電対の基準接点は0℃の氷水に浸かっており,この状態の電圧計の表示は4.1mVでした.その後氷が溶け,基準接点が浸かっている水の温度が25℃に上昇しました.この状態での電圧計の表示として最も近いのは(a)~(d)のどれでしょうか.
基準接点の温度が0℃から25℃に変わったときの電圧計の値は?
(a)2.1mV (b)3.1mV (c) 5.1mV (d)6.1mV
熱電対は,2種類の異なる金属を接合したもので,測温接点と基準接点があり,その2点間に温度差があると,電圧を発生します.接合する金属の種類の違いで8タイプ(K,J,T,E,N,R,S,B)の熱電対があります.Kタイプと呼ばれる熱電対は,比較的安価で広く使われています.熱電対が発生する電圧が,接点間の温度差に比例するということを考えれば答えは簡単に分かります.
基準接点の温度が0℃のとき,電圧計の値が4.1mVだったことから,測定物の温度は「4.1m/41μ=100℃」であることが分かります.次に基準接点の温度が25℃になると,基準接点と測定物の温度差は100℃-25℃=75℃となります.この状態で熱電対に発生する電圧は「75*41μ=3.1mV」となります.そのため,電圧計の値は(b)の3.1mVが正解です.
●熱電対の構造と使い方
熱電対は,図2のように2種類の金属を接合したものです.金属Aと金属Bの接合部分を測温接点と呼びます.また,金属Aと金属Bそれぞれを銅線で接合した部分を基準接点と呼びます.そして,測温接点と基準接点の二つの接合部分の温度差に比例した電圧を発生します.
2種類の金属を接合したもので,接合部の温度差に比例した電圧が発生する.
そのため,熱電対で測定できるのは温度の絶対値ではなく,2点間の温度差です.温度の絶対値を測定する方法の1つが,図1のように,基準接点を既知の温度とするため,氷水で冷やす方法です.図1のようにすることで,0℃を基準とした測定となり,温度の絶対値を測定できます.
絶対値の測定ができないという弱点のある熱電対ですが,構造が単純で壊れにくく,-200 ℃~2500℃といった,広い温度範囲の測定が可能なため,広く使用されています.2種類の金属の組み合わせにより,8種類の熱電対があります.そのなかでも,ニッケルとクロムを主成分とした合金と,ニッケルとアルミニウムを主成分とした合金を組み合わせたものをK熱電対と呼び,安価なため工業用として最も広く使用されています.熱電対の種類によって熱起電力の大きさが変わりますが,K熱電対の起電力は41μV/℃となります.
●熱電対の電圧を増幅して,10mV/℃の電圧を出力する
熱電対の発生する電圧は非常に小さいので,通常これを増幅回路で増幅して使用します.一例として,熱電対の電圧を増幅して,1℃あたり10mVの電圧に変換する回路を考えてみます.41μV/℃の熱電圧を10mV/℃とするために必要なゲイン(G)は式1で計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
図3は,非反転増幅回路を使用して熱電対の電圧を244倍に増幅するための回路です.
熱電対はB電源を使用し,測定物の温度と室温の差に比例する電圧を発生.
非反転増幅回路のゲインは式2のように244倍になっています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
基準接点を氷水で冷却するのはあまり実用的ではないため,通常,基準接点は室温で使用されます.そのため,基準接点を室温で使用した場合にどうなるかをシミュレーションで確認します.
熱電対はLTspiceのB電源を使用し,測定物の温度(T_Temp)と室温(Temp)の差に比例する電圧を発生するようになっています.この回路で測定物の温度を-40℃から100℃まで変化させ,さらに室温が0℃,25℃,50℃と変化したときの出力電圧をシミュレーションします.
図4が図3のシミュレーション結果です.基準接点を室温としているため,当然ですが,室温により出力電圧が変化しています.室温が0℃のときは,出力電圧が100℃で1Vとなっており,10mV/℃の感度から期待される出力電圧となっています.しかし,25℃,50℃のときは下側に平行移動した結果となっています.
室温により出力電圧が変化している.
●基準接点補償回路を使用して 熱電対の電圧を増幅する
図4のように,単純に基準接点を室温とすると,室温変化により出力電圧が変化してしまい,被測定物の温度を正確に測定することができません.そこで,基準接点を室温とし,0℃と室温の温度差によって熱電対が発生するはずの電圧を加算し,補正することが,一般的に行われます.
図5は,熱電対の出力に室温に比例した電圧を加算する回路を追加したものです.実際の回路ではこの部分には温度センサICなどが使用されます.ここでは,簡易的にB電源を使用して周囲温度(Temp)に比例した電圧を発生させています.
熱電対に室温に比例した電圧を加算する回路を追加.
図6は,基準接点補償回路を組み込んだ場合のシミュレーション結果です.0℃,25℃,50℃の室温のとき,すべての直線は重なっており,室温による出力電圧変化は無いことが分かります.
室温による出力電圧の変化は無い.
以上,熱電対の使い方に関して解説しました.熱電対の出力は非常に小さいため,使用するOPアンプの選定にあたってはオフセット電圧特性に十分注意する必要があります.また基準接点補償回路の構成も複雑になりがちですが,基準接点補償機能まで含んだ,熱電対用の専用IC(AD8495 等)が開発されています.これらのICを使用することで,高性能な熱電対用増幅回路を簡単に構築することができます.
(1)熱電対の簡便性,精度,フレキシビリティを利用して温度を測定する2つの方法
https://www.analog.com/jp/analog-dialogue/articles/measuring-temp-using-thermocouples.html
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_035.zip
●データ・ファイル内容
ThermoCouple1.asc:図3の回路
ThermoCouple1.asc:図5の回路
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