OPアンプのGB積(ゲイン帯域幅積)
図1は,一般的なOPアンプのオープン・ループ・ゲインのグラフです.横軸が入力信号の周波数で,縦軸がオープン・ループ・ゲインです.このOPアンプの仕様書には「ユニティ・ゲインで安定」と記載されており,オープン・ループ・ゲインが6dB/oct(oct:オクターブ)の傾きで減少しています.オープン・ループ・ゲインが0dBになる周波数は10.7MHzでした.周波数が107kHzのときのゲインは,次の(a)~(d)のどれでしょうか.
周波数が107kHzのときのゲインは?
(a)12dB (b)20dB (c)30dB (d)40dB
オープン・ループ・ゲインは,帰還が掛かっていないときのOPアンプのゲインです.このOPアンプのオープン・ループ・ゲインは,0dBになるまで6dB/octの傾きで直線的に減少しています.そのため,ゲインが0dBになる周波数が10.7MHzで,ゲインを求めたい周波数が107kHzであることを考えれば,簡単に答えが分かります.
図1でゲインは,6dB/octで減少しています.6dB/octで減少というのは,周波数が2倍(オクターブ)になるごとに,ゲインが6dB減少する(1/2になる)ことです.これは周波数が10倍(ディケード)になるごとに,ゲインが20dB減少する(1/10になる)ことと同じです.10.7MHzは107kHzの100倍なので,10.7MHのゲインは107kHzのときよりも40dB小さく(1/100に)なります.逆に考えると,10.7MHzのときのゲインが0dBなので,107kHzのときは40dB(100倍)のゲインがあることが分かります.したがって正解は(d)の40dBです.
なお,図1のゲインの6dB/octの傾きは,20dB/dec(dec:ディケード)の傾きと同じです.
●OPアンプ内部の位相補償
OPアンプは,負帰還を掛けたときに不安定にならないよう,位相補償が内蔵されています.図2は,位相補償がある場合と無い場合のオープン・ループ・ゲインの一例です.
青線の位相補償なしの場合,オープン・ループ・ゲインのカーブは途中から12dB/octに変わり,位相が180°回転したときのゲインが20dBあります.負帰還は出力信号を反転入力端子に帰還しますが,位相が180°回転すると,負帰還ではなく正帰還になり,発振してしまいます.
位相補償がない場合は,位相が180°回転したときにゲインが20dBある.
一般的な位相補償回路は,OPアンプ内部のカットオフ周波数を極端に大きくし,できるだけ6dB/octでゲインが減少するように構成します.図2の赤線が位相補償を行ったオープンループ・ゲインです.ゲインの傾きはゲインが0dBになるまで6dB/octになっており,位相が180°回転する周波数のゲインは-40dBと十分小さくなっています.このような特性であれば,OPアンプをゲイン0dB(ユニティ・ゲイン)で使用しても,安定に動作させることができます.
●OPアンプのオープン・ループ・ゲインのシミュレーション手法
OPアンプのオープン・ループ・ゲインをシミュレーションする最もシンプルな方法は,図3のように帰還をかけずに,反転入力(-)端子をGNDにして,非反転入力(+)端子に信号を入れる方法です.OPアンプのモデリングの仕方にもよりますが,この方法っでは出力DC電圧が電源もしくはGNDに張り付いてしまい,正しいゲインがシミュレーションできないことがあります.
出力DC電圧が張り付き,正しいゲインがシミュレーションできないことがある.
そのようなときは,OPアンプに帰還をかけたまま,オープン・ループ・ゲインやループ・ゲインをシミュレーションする方法があります.図4は,帰還をかけたままオープン・ループ・ゲインをシミュレーションする,最も簡単な方法です.
A点の電圧をC点の電圧で割ることで,オープン・ループ・ゲインが分かる.
図4において,OPアンプのオープン・ループ・ゲインをGとし,抵抗R1,R2による分圧比をHとします.Hは式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
A点の電圧V(a)はOPアンプの出力電圧のため,C点の電圧を-G倍したものになり,式2で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・(2)
式2を変形すると,式3のようになり,A点の電圧をC点の電圧で割ることで,オープン・ループ・ゲインを求めることができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・(3)
一方,C点の電圧はB点の電圧に分圧比Hを掛けたものなので,式4で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式2に式4を代入すると,式5になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5を変形すると,式6が得られます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6のG・Hはループ・ゲインと呼ばれ,負帰還の量を表す係数です.
図5は,図4のシミュレーション結果です.問題の図1は図5の縦軸の目盛りを消したものです.
107kHzのゲインは40dBとなっている.
●OPアンプのゲイン帯域幅積
オープン・ループ・ゲインが6dB/octで減衰するような位相補償が施されたOPアンプでは,ゲインと周波数の積は常に一定になる,という性質があります.このゲインと周波数の積のことを「ゲイン帯域幅積(GB積:Gain Band width product)」と呼びます.
図5の例で,ゲインが1倍(0dB)になる周波数は10.7MHzです.そのため,ゲインと周波数の積(GBW)は10.7MHzになります.また,107kHzのときのゲインは100倍(40dB)なので,その積も10.7MHzになります.そして,1.7MHzや10.7KHzのときも同じ値になります.これを式で表したものが式7です.
・・・・・・・(7)
式7から分かるように,6dB/octで減衰している場合は,特定の周波数のゲインを測定することで,ゲイン帯域幅積を求めることができます.図6は,LT1457という別のOPアンプのオープン・ループ・ゲインのシミュレーション結果です.このオペアンプのゲインが0dBになる周波数は1.68MHzと図5よりも低くなっていますが,周波数とゲインの積が1.68MHzで同じであるという関係は保たれています.
ゲインと周波数の積が常に一定になるという関係は保たれている.
以上,OPアンプのゲイン帯域幅積について解説しました.OPアンプを選択する場合,使用する最高周波数とゲイン及び,その周波数での負帰還の量をいくつ以上にするか,ということがわかれば,必要なゲイン帯域幅積の値が計算できます.たとえば,仕上がりゲインが20dBのアンプで,最高周波数が100kHz,その周波数での負帰還量を20dBとすると,100kHzでのオープンループゲインが40dB必要になります.そのため,ゲイン帯域幅積が100倍×100kHzで10MHz以上のOPアンプを選択すればよいことになります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_031.zip
●データ・ファイル内容
OpenLG_LT1354.asc:図4の回路
OpenLG_LT1354.plt:図5をプロットするためのファイル
OpenLG_LT1457.asc:図6をシミュレーションするための回路
OpenLG_LT1457.plt:図6をプロットするためのファイル
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs
(7) IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(8) オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs