大きな出力電圧が必要なときに使うOPアンプ



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■問題
アナログ回路 ― 基礎

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,LT1224というOPアンプを使用した増幅回路です.表1はLT1224のスペックを抜粋したものです.OPアンプのプラス電源に+2.5V,マイナス電源に-2.5Vの電圧が加えられています.また,Out端子には2kΩの負荷抵抗(RL)が接続されています.このアンプの入力に,1kHzで120mVPPの正弦波を加えました.そのときのOut端子の出力波形として,もっとも近いのは(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 LT1224を使用した増幅回路
入力に1kHzで120mVPPの正弦波が加えられている.

表1 LT1224の概略スペック 

Analog Devices社の仕様書から抜粋(1)

(a)4.8VPPの正弦波 (b)3.0VPPの正弦波 (c)4.8VPPの台形波 (d)3.0VPPの台形波


■ヒント

 図1は,非反転増幅回路として動作し,そのゲイン(G)は,R1とR2で決まります.理想アンプの場合は,出力電圧は入力電圧にGを掛けたものになります.実際のOPアンプを使用したときの出力電圧がどうなるかは,表1のOPアンプのスペックを良く見て考える必要があります.そして,誤った選択肢はどれかというように,消去法で考えると答えが分かります.

■解答


(d)3.0VPPの台形波

 図1の非反転増幅回路のゲイン(G)は,G=(1k+39k)/1k=40となります.そのため,理想的なOPアンプであれば,その出力は入力の「120mVPPの正弦波」を40倍した「4.8VPPの正弦波」になります.そのため,(b)の3.0VPPの正弦波は,振幅が小さく誤りであることが分かります.また,(c)の「4.8VPPの台形波」も波形が異なるため,誤りであることが分かります.
 表1の仕様書は,電源電圧が±5Vのときの特性ですが,Voutの項目を見ると,負荷抵抗2kΩのときの出力振幅は±4Vになっています.つまり,電源電圧よりも1V小さな値になっています.そのため,電源電圧が±2.5Vのときの出力は±1.5V(3VPP)程度になることが予想できます.つまり,(a)の「4.8VPPの正弦波」も誤りで,(d)の「3.0VPPの台形波」が正解であることが分かります.

■解説

●OPアンプの出力電圧範囲
 OPアンプを選ぶときの重要なスペックの1つが,出力電圧範囲です.OPアンプがどのくらい電源電圧に近い電圧まで出力することができるか,ということを表したものです.この特性は,OPアンプの仕様書では,「特定の電源電圧で出力することのできる最大電圧」という表示の仕方と「最大出力のときの残り電圧(電源電圧と出力電圧の差電圧)」という2種類の表示の仕方があります.
 表1の仕様書は前者の表示の仕方となっており,電源電圧が±5Vのときの最大出力電圧は負荷抵抗が500Ωのとき±3.7Vで,負荷抵抗が2kΩのときは±4Vであることが分かります.これは,負荷抵抗が500Ωのときの残り電圧は5V-3.7V=1.3Vで,負荷抵抗が2kΩのときの残り電圧は5V-4V=1Vであるというように表すこともできます.
 OPアンプの最大出力は,出力段にどのような回路を使用しているかで決まります.図2は,OPアンプの出力段の一例を簡略化したものです.この回路では,出力トランジスタが動作するために,1.2V~1.4V程度の電圧が必要です.そのため,出力電圧の最大値はプラス電源端子の電圧よりも1.2V~1.4V程度低くなり,出力電圧の最小値はマイナス電源端子の電圧よりも,1.2V~1.4V程度高くなります.


図2 OPアンプの出力段を簡略化したもの
出力トランジスタが動作するために,1.2V~1.4V程度の電圧が必要.

●LT1224を使用したアンプの出力波形をシミュレーションする
 図3は,LT1224を使用した図1のアンプをシミュレーションするための回路です.入力信号はピーク電圧60mV(120mVPP)で1kHzの正弦波です.


図3 LT1224を使用したゲイン40倍の増幅回路
入力信号はピーク電圧60mV(120mVPP)で1kHzの正弦波.

 この回路は非反転増幅回路として動作し,そのゲイン(G)は式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 入力電圧をVinとすると,出力電圧(Vout)は式2で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 本来であれば,入力電圧が120mVPPのときはの出力電圧は4.8VPPとなるはずですが,実際はOPアンプの最大出力電圧で制限された波形になります.
 図4は,図3のシミュレーション結果です.出力電圧は約±1.5Vで振幅が制限され,正弦波の波形の先端が無くなった,台形波となっています.


図4 LT1224を使用した増幅回路のシミュレーション結果
出力電圧は約±1.5Vで制限され,台形波となっている.

●レール・ツー・レール出力OPアンプ
 電源電圧が低くても,大きな出力電圧を出したいという用途に使用するため,出力の残り電圧をできるだけ小さくしたOPアンプが開発されています.このようなOPアンプをレール・ツー・レール出力OPアンプと呼びます.
 図5は,レール・ツー・レール出力OPアンプの出力回路の一例です.図2の出力段はエミッタ出力でしたが,こちらはコレクタ出力になっています.そのため,トランジスタのベース・エミッタ電圧の影響を受けず,残り電圧を0.1V以下まで小さくすることができます.


図5 レール・ツー・レール出力OPアンプの出力回路の一例
コレクタ出力とすることで残り電圧を0.1V程度まで小さくできる.

●レール・ツー・レール出力OPアンプを使用した増幅回路をLTspiceで確認する
 図6は,レール・ツー・レール出力OPアンプのLT1632を使用した増幅回路をシミュレーションするためのものです.


図6 レール・ツー・レール出力のOPアンプを使用した増幅回路
LT1632の残り電圧は32mV~42mVと非常に小さい.

 表2がLT1632の概略スペックです.出力電流が0.5mAのときの残り電圧は32mV~42mVと非常に小さくなっています.電源電圧が±2.5Vのときの最大出力は約±2.45Vということになります.

表2 LT1632の概略スペック

Analog Devices社の仕様書から抜粋(2)

 図7は,LT1632を使用した場合のシミュレーション結果です.出力振幅は4.8VPPとなっており,式2で計算した値と同じになっています.


図7 LT1632を使用した増幅回路のシミュレーション結果
出力振幅は計算値と同じ4.8VPPとなっている.

 以上,OPアンプの最大出力電圧について解説しました.レール・ツー・レール出力のOPアンプでも,負荷抵抗の値によっては出力残り電圧が大きくなることがありますので,注意してください.

◆参考・引用*文献◆
(1)LT1224の仕様書
https://www.analog.com/media/en/technical-documentation/data-sheets/lt1224.pdf
(2)LT1632の仕様書
https://www.analog.com/media/jp/technical-documentation/data-sheets/j16323fs.pdf

■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_029.zip

●データ・ファイル内容
OPamp_sin_LT1224.asc:図3の回路
OPamp_sin_LT1632.asc:図6の回路

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