OPアンプの基本的な使い方
図1は,2つのOPアンプを使用した増幅回路です.この回路のIn端子からOut端子までのゲインの絶対値として,正しいのは次の(a)~(d)のどれでしょうか.ただし,OPアンプは理想的なものとします.
In端子からOut端子までのゲインの絶対値は?
(a)4倍 (b)5倍 (c)6倍 (d)9倍
図1のOP1は,非反転増幅回路を構成しています.その出力は,OP2を使用した反転増幅回路に入力されています.それぞれの増幅回路のゲインは,抵抗値がわかっていれば,簡単に計算することができます.
OP1で構成される,非反転増幅回路のゲイン(G1)は「G1=(R1+R2)/R2=(10k+20k)/10k=3」と計算できます.次にOP2で構成される反転増幅回路のゲイン(G2)は「G2=R4/R3=20k/10k=2」と計算できます.この2つの増幅回路が従属接続となっているため,総合ゲイン(G)は,それぞれのゲインを掛け合わせたものになります.そのため,In端子からOut端子までのゲインは「G=G1*G2=3*2=6」となります.したがって(c)の6倍が正解です.
●OPアンプの特徴
OPアンプは,さまざまな用途に使用することが可能で,電子回路を構成するうえで,欠くことのできないものです.OPアンプは,図2のように,2つの入力端子と,1つの出力端子から構成されています.+入力端子(非反転入力端子)の電圧が,-入力端子(反転入力端子)の電圧よりも高い場合,+の電圧が出力され,逆の場合は-の電圧が出力されます.
2つの入力端子と,1つの出力端子から構成されている.
理想的なOPアンプは次のような特性を備えています.
・無限大のゲイン
・すべての周波数で同じ特性
・入力インピーダンスが無限大
●非反転増幅回路の構成とゲイン
図3は,OPアンプを使用した非反転増幅回路です.OPアンプの代表的な応用例が非反転増幅回路です.非反転というのは,入力信号と出力信号が同じ位相になっているという意味です.この回路のゲインがいくつになるか,簡易的に計算してみます.
+入力端子と-入力端子の電圧はほぼ同じになる.
OPアンプは,非常にゲインが高いため,通常は出力端子から-入力端子に信号をフィードバックし,出力が希望する電圧になるようにします.このフィードバックをかける技術を負帰還と呼びます.また,OPアンプが正常に動作している場合,+入力端子と-入力端子の電圧はほぼ同じになる,ということを前提とします.入力端子間の電圧差は,出力電圧をOPアンプのゲインで割ったものなので,OPアンプのゲインが十分大きければ電圧差は0とみなせます.そのため,図3のin_M端子の電圧波形は入力信号波形と同じになります.in_M端子の電圧(Vin_M)はOut端子の電圧(VOut)をR1とR2で分圧したものなので,式1が成り立ちます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1を変形してVOutを求めると式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2から,非反転増幅回路のゲイン(G)は式3で表されることが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
●反転増幅回路の構成とゲイン
図4は,OPアンプを使用した反転増幅回路です.この回路のゲインも簡易的に計算してみます.
in_M端子の電圧はGNDと同じになる.
この回路でもOPアンプのゲインは非常に大きいため,+入力端子と-入力端子の電圧は同じになります.図4では+入力端子がGNDに接続されているため,in_Mの電圧波形はGNDと同じになります.そのため,抵抗R1に流れる電流(IR1)は式4で計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
OPアンプの入力には電流が流れないため,IR1とIR2は等しくなります.in_M端子がGNDと同じ電位のため,Out端子はGND(0V)からR2の電圧降下分だけ下がった電圧となり,式5で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5より,反転アンプのゲインは式6で表されることが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
ゲインの符号が「-」なのは,出力信号が入力とは逆位相になることを表しています.
●増幅回路を縦続接続したときのゲイン
図1のように,増幅回路の出力を次の増幅回路の入力に接続するようなつなぎ方を縦続接続と呼びます.増幅回路を縦続接続した場合,総合的なゲインはそれぞれの増幅回路のゲインを掛け合わせたものになります.図1において最初の非反転増幅回路のゲインをG1,後段の反転増幅回路のゲインをG2とすると,総合的なゲイン(G)は式7のようになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
式3と式6を使用して図1のゲインの絶対値を計算すると,G1が3倍でG2が2倍となり,式8のように6倍と求まります.
・・・・・・・・・・(8)
●非反転増幅回路と反転増幅回路のシミュレーション
図5は,非反転増幅回路と反転増幅回路を組み合わせた,図1の回路をシミュレーションするための回路図です.
AC解析とトランジェント解析を行う.
図6は,図5のAC解析の結果です.縦軸はデシベル表示からリニア表示に変更しています.LTspiceのAC解析は入力を微小信号として回路のゲインを計算します.しかし,リニア表示のシミュレーション結果は,入力レベルを1Vに換算したときの出力電圧となっています.そのため,縦軸からVの単位を取り除いたものがゲインの数値になります.非反転増幅回路の出力(Out1)までのゲインは3倍で,Outまでのゲインは6倍となっており,式8で計算した結果と同じになっています.
縦軸からVの単位を取り除いたものがゲインの数値.
図7は,入力にピーク電圧1Vの正弦波信号を加えてトランジェント解析を行った結果です.
Out端子はピーク電圧6Vで入力とは逆位相の波形.
入力(in端子)と非反転増幅回路の-入力端子(in_M1)はピーク電圧1Vで同じとなっており,Out1端子はピーク電圧3Vで3倍のゲインがあることが分かります.また,反転増幅回路の-入力端子(in_M2)はGNDと同じ電圧になっています.そして,Out2端子はピーク電圧6Vで,入力信号とは逆位相の波形となっています.この結果から,トランジェント解析でもゲインが6倍であることが確認できます.
以上,OPアンプの使い方の一例として,非反転増幅回路と反転増幅回路について解説しました.OPアンプは様々な用途に応用することができますが,非反転増幅回路と反転増幅回路はその基本となるものです.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_025.zip
●データ・ファイル内容
OPamp_Gain.asc:図5の回路
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