エミッタ接地回路のゲイン



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■問題
電気回路 ― 基礎

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,NPNトランジスタ(Q1)のエミッタ側に抵抗(R1),コレクタ側に抵抗(R2)を接続した,エミッタ接地回路です.入力信号(V1)が直流バイアス電圧1.5V,振幅が0.1Vの正弦波のとき,出力(OUT)に現れる信号振幅は,(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 NPNトランジスタを使ったエミッタ接地回路
OUTの信号振幅はどうなるでしょうか?

(a)0.1Vの正弦波 (b)0.2Vの正弦波 (c)0.3Vの正弦波 (d)0.4Vの正弦波


■ヒント

 エミッタ側に抵抗がついたときのエミッタ接地回路の動作を考える問題です.エミッタ接地回路の基本は,図1のR1がなくGNDに接続した回路ですが,図1のようにR1があり,コレクタから信号をとる回路もエミッタ接地回路となります.
 この,トランジスタのベースに信号を加えたとき,エミッタに現れる信号がどうなるか,また,その信号がコレクタにどのように伝わりOUTの信号になるかを検討すると分かります.

■解答


(c)0.3Vの正弦波

 トランジスタのベースにV1を加えると,ベース・エミッタ間電圧(VBE)は,ほぼ一定です.なので,エミッタ電圧(VE)は,V1からVBEだけ下がった電圧を中心に振幅0.1Vで現れます.エミッタ電圧(VE)は,R1にかかる電圧です.なので,R1のエミッタ電流は,オームの法則により「IR1=VE/R1」となります.エミッタ電流とコレクタ電流は,ほぼ等しくなります.しかし,コレクタ電流は,R1(1kΩ)より3倍大きいR2(3kΩ)に流れますので,電圧降下となり,OUTの振幅は0.3Vの正弦波となります.


■解説

●エミッタ接地回路の概要
 図1に示すエミッタ側にR1,コレクタ側にR2を接続したエミッタ接地回路は,交流ゲインが約「-R2/R1」となる増幅回路です.抵抗比の前に付くマイナスは,位相が反転することを示しています.図1では「-R2/R1=-3」なので,出力は入力に対し位相が反転し,交流ゲインが約3倍の増幅回路となります.図1の回路はエミッタ帰還エミッタ接地回路とも呼ばれます.

●DC応答特性
 図2は,図1をDC解析し,V1の直流電圧を1.2~1.8Vまでスイープし,OUTの電圧,エミッタの電圧,R1とR2に流れる電流をプロットしたものです.この結果を用い,V1の正弦波が,負のピーク値1.4V,中心の値1.5V,正のピーク値1.6Vのときの,それぞれの電圧と電流を調べ,V1からの信号がOUTまでどのように伝わるかを検討します.


図2 図1のV1を1.2~1.8Vまでスイープした結果
OUTの電圧,エミッタの電圧,R1とR2に流れる電流をプロット.

◎V1とエミッタ電圧の関係
 V1をベースに加えたとき,トランジスタのベース・エミッタ間電圧(VBE)は,ほぼ一定なので式1となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 ここで,図1のVBEは0.77Vです.図2のエミッタ電圧のプロットでも「V1が1.4Vのとき0.64V」,「V1が1.5Vのとき0.73V」,「V1が1.6Vのとき0.83V」ですから,式1の関係になることが分かります.

◎R1とR2に流れる電流の関係
 R1の電流は,エミッタ電流となります.このときのR1の電流は,オームの法則より式2となります.また,トランジスタの電流増幅率は,大きいことから,エミッタ電流とコレクタ電流がほぼ等しくなりR2に流れます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 図2のR1とR2に流れる電流は,ほぼ等しい結果です.電流値は「エミッタの電圧が0.64Vのとき,R2の電流は0.63mA」,「エミッタの電圧が0.73Vのとき,R2の電流は0.73mA」,「エミッタの電圧が0.83Vのとき,R2の電流は0.82mA」となります.この値はR1を1kΩとしたとき,式2で求まる電流値とほぼ同じになります.

◎V1とOUTの関係
 OUTの電圧は,電源電圧5VからR2の電圧降下を減じた電圧であり,式1と式2を使って表すと式3となります.式3よりV1が変化したときの交流ゲインは,ほぼ抵抗比の「-R2/R1」となります.図2のプロットでも「V1が1.4Vのとき3.11V」,「V1が1.5Vのとき2.82V」,「V1が1.6Vのとき2.53V」ですから,式3の関係になっており,OUTの電圧.2.82Vを中心に位相が反転した約0.3Vの振幅となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

●出力波形をシミュレーションする
 図3は,図1をシミュレーションする回路です.トランジスタのベースには,直流バイアス電圧1.5V,信号のピークが0.1Vの正弦波を入力し,過渡解析を実行後にINとOUTの波形をプロットします.


図3 図1をシミュレーションする回路

 図4は,図3のシミュレーション結果です.OUTの波形は反転した位相となり,振幅は約0.3Vとなります.これより交流ゲインは約-3倍であることが分かります.


図4 図3のシミュレーション結果
OUTの波形は反転し,振幅は約0.3Vとなる.

●エミッタ接地回路の応用回路
 図5は,入力と出力をC1とC2のコンデンサで交流結合したエミッタ接地回路です.V1の信号は,GNDを中心に信号のピークが0.1Vの正弦波を入力します.R1(1kΩ)とR2(3kΩ)の比は図1と同じなので,交流ゲインは約-3倍の設定です.ベースの直流バイアス電圧は,VCC(5V)をR3(51kΩ)とR4(24kΩ)で分圧した約1.6Vの電圧を印加しています.


図5 図1の応用回路

 図6は,図5を0sから200μsまで過渡解析した結果です.OUTの波形はV1と比べると位相が反転しており,振幅はGNDを中心に約0.3Vの電圧となります.これより,交流ゲインは-3倍の増幅回路として動作しています.


図6 図5の過渡解析結果
V1からOUTまでの交流ゲインは約-3倍となる.

 以上,解説したように,図1のエミッタ接地回路は,交流ゲインが約-R2/R1倍の増幅器となります.また,ここでは計算しませんでしたが,エミッタ側にあるR1により,ベースからトランジスタ側をみた入力抵抗とコレクタからトランジスタ側をみた出力抵抗を増加させる効果があります.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_024.zip

●データ・ファイル内容
common_emitter1.asc:図3の回路
common_emitter2.asc:図5の回路

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