エミッタ・フォロワ回路のゲイン
図1は,NPNトランジスタ(Q1)のエミッタ側に抵抗(R1)を接続し,コレクタ側に電源(V2)を接続したエミッタ・フォロワ回路です.入力信号V1が,直流バイアス電圧3V,信号のピークが0.5Vの正弦波のとき,出力(OUT)に現れる信号は,(a)~(d)のどれでしょうか.ここで,Q1のベース・エミッタ間電圧(VBE)は,0.8Vとします.
OUTの波形はどうなるか?
(a)GNDを中心に,信号のピークが0.5Vの正弦波
(b)GNDを中心に,信号のピークが1Vの正弦波
(c)2.2Vを中心に,信号のピークが0.5Vの正弦波
(d)2.2Vを中心に,信号のピークが1Vの正弦波
トランジスタのエミッタ側に抵抗を接続した回路の動作を考える問題です.ベースに繋がる信号(V1)が変化したとき,OUTの信号も変化します.そのときのベース・エミッタ間電圧(VBE)の変化がどうなるかを検討すると分かります.
トランジスタのベース・エミッタ間電圧(VBE)は,エミッタ電流が変化しても,ほぼ同じ電圧となります.よって,OUTの電圧はベースの電圧からVBE分だけ低い電圧が現れます.
V1の信号は,直流バイアス電圧3V,信号のピークが0.5Vの正弦波です.なので,VBEが0.8Vとすると,2.2Vを中心に,信号のピークが0.5Vの正弦波が現れます.
●エミッタ・フォロワ回路の概要
エミッタ・フォロワ回路は,バッファ回路として用いられ,交流のゲインが約1倍で,後段の回路へ信号を伝達するときに用います.似た回路にOPアンプを使ったボルテージ・フォロワ(ユニティ・ゲイン・バッファとも呼ぶ)回路がありますが,こちらはオペアンプの周波数特性により制限を受けるため,高い周波数まで動作しません.図1のようにトランジスタ1個で回路を構成すると,OPアンプを使ったボルテージ・フォロワより高い周波数まで動作します.エミッタ・フォロワ回路は,交流的に電圧が動かない(交流的には接地とみなせる)電源がコレクタに繋がるため,コレクタ接地回路とも呼ばれます.
●DC応答特性
図2は,シミュレーション結果です.図1のV1の直流電圧をDC解析を用い,0~4Vまでスイープし,V1とOUTの電圧の関係をプロットしたものです.
このDC解析の結果を用い,V1の正弦波が,負のピーク値の2.5V,中心の3V,正のピーク値の3.5VのときのOUTの電圧差を調べると次のようになります.
負のピーク値のとき「2.5V-1.73V=0.77V」
中心のとき「3V-2.23V=0.77V」
正のピーク値のとき「3.5V-2.72V=0.78V」
この結果より,OUTの電圧は,V1の電圧より,トランジスタのベース・エミッタ間電圧(VBE=約0.8V)だけ下がった値となることが分かります.
次に,トランジスタのコレクタ電流とベース・エミッタ間電圧(VBE)について検討します.コレクタ電流はエミッタ電流とほぼ等しく,エミッタ電流はOUTの電圧をR1の抵抗で除算した値となり,OUTの電圧変化によりコレクタ電流も変化します.しかし,ベース・エミッタ間電圧(VBE)は式1で表されることから,コレクタ電流の変化は自然対数の関数によって圧縮され,電圧の変化は僅かとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
ここでVTは熱電圧で27℃のとき26mV,ISは逆方向飽和電流で,LTspiceの理想トランジスタの場合は1×10-16Aです.
この圧縮効果により,コレクタ電流が変化してもVBEはほぼ一定の値とみなせることから,OUTの電圧は,V1の電圧からVBE分だけシフトした電圧で追随することになります.
●出力の波形をLTspiceで確認する
図3は,図1をシミュレーションする回路です.トランジスタのベースには,直流バイアス電圧3V,信号のピークが0.5Vの正弦波を入力し,過渡解析を実行後にINとOUTの波形をプロットします.
図4は,図3のシミュレーション結果です.OUTの波形はINの波形からVBEの約0.8V分だけ低電圧側へシフトしており,2.2Vを中心に信号のピークが0.5Vの正弦波となることが分かります.
OUTの波形は,INの波形からVBE分だけ低電圧側へシフトする.
●エミッタ・フォロワ回路の応用回路
図5は,入力と出力をC1とC2のコンデンサで交流結合したエミッタ・フォロワ回路です.V1の信号は,GNDを中心に信号のピークが0.5Vの正弦波を入力し,エミッタ・フォロワ回路を通過した後のOUTはV1と同じ波形を出力するバッファ回路となります.ベースの直流バイアス電圧は,VCC=5VをR1=24kΩとR2=36kΩで分圧した3Vの電圧を印加しています.(実際にはベース電流があるため,3Vより僅かに下がります.)
この回路のコーナー周波数は,R1とR2の並列抵抗とC1のコンデンサで決まり,式2の約110Hzとなります.
・・・・・(2)
図6は,図5の回路で,解析の指定を「.tran 200u」で与え,0sから200μsを過渡解析した結果です.OUTの波形はV1のGNDを中心に信号のピークが0.5Vの正弦波と重なっており,ゲインが1倍のバッファ回路として動作しています.
入力から出力までのゲインは約1倍となる.
図7は解析の指定を「.ac dec 100 10 10meg」で与え,10Hzから10MHzをlogステップで変化させたときのOUTの周波数特性です.コーナー周波数(fC)は式2の約110Hzとなり,それ以上の周波数ではゲインが約0dB(約1倍)となることが分かります.
コーナー周波数は約110Hz.
以上,解説したように,エミッタ・フォロワ回路は,交流ゲインが約1倍のバッファ回路として使われます.一般的にエミッタ・フォロワ回路の方が,OPアンプを使ったボルテージ・フォロワ回路より高周波まで動作します.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_022.zip
●データ・ファイル内容
emitter_follower1.asc:図3の回路
emitter_follower2.asc:図5の回路
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