ダイオードの種類と特性
図1は,ブレーク・ダウン電圧(逆方向に電圧を掛けたときに電流が流れてしまう電圧)が4.7Vのツェナー・ダイオードと抵抗が直列に接続された回路です.そこに,ピーク電圧10Vで1kHzの正弦波を加えました.Out端子の波形として正しいのは,図2の(a)~(d)のどれでしょうか.
ピーク電圧10Vで1kHzの正弦波を加えている.
図1の回路として正しい波形はどれ?
(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形
まず,ツェナー・ダイオードに順方向の電圧を加えたときと,逆方向に電圧を加えたときの特性がどのようなものかを確認します.次に正弦波電圧を加えたとき,R1にどのような電流が流れるかを考えれば,答えが分かります.
ツェナー・ダイオードに順方向の電圧を加えた場合,電圧が0.7Vを越えると電流が流れます.また,逆方向に電圧を加えた場合は,電圧がブレーク・ダウン電圧を越えると電流が流れます.
図1のように正弦波電圧を加えた場合,入力電圧が正の領域では,入力電圧が0.7Vを越えると抵抗に電流が流れます.そのため,入力電圧が0.7V以下のとき,抵抗の電圧は0Vで,0.7Vを越えると,入力電圧から0.7V引いた電圧が抵抗に加わります.
正弦波電圧が負の領域では,波形の電圧が-4.7Vよりも低くなったとき,抵抗に電流が流れます.そのため,入力電圧が-4.7Vよりも高いとき,抵抗の電圧は0Vで,-4.7Vよりも低くなると,入力電圧よりも4.7V高い電圧が抵抗に加わります.そのような波形となっているのは(d)なので,正解は(d)となります.
●ダイオードの種類
ダイオードには,いろいろな種類があります.その中で,代表的なものは次の3種類です.
*整流用ダイオード
*ツェナー(Zener)・ダイオード
*ショットキー(Schottky)・ダイオード
最も一般的なものは整流用ダイオードで,図3のような記号を使用します.図3左側の端子がアノード(Anode:A)と呼ばれ,右側の端子がカソード[Cathode(ドイツ語Kathode):K]と呼ばれます.アノード側にプラスの電圧を加えると電流が流れますが,カソード側にプラスの電圧を加えたときは電流が流れません.電流が流れる方向を順方向,流れない方向を逆方向と呼びます.
左側の端子がアノードで,右側の端子がカソード.
ツェナー・ダイオードは,ブレーク・ダウン電圧を故意に低くしたものです.そのブレーク・ダウン電圧が一定であることを利用するもので,定電圧ダイオードとも呼ばれます.
また,ショットキー・ダイオードは,整流用ダイオードとは全く違う構造とすることで,順方向に電圧を加えたときに電流が流れ始める電圧を小さくしたものです.スイッチング電源等で,無駄な電力消費を減らすために使用されます.
ツェナー・ダイオードとショットキー・ダイオードは,整流用ダイオードと区別するため,図4のような記号が使用されます.カソード側の直線がZに似ているのがツェナー・ダイオードで,Sに似ているのがショットキー・ダイオードです.
カソード側の直線の形状を変えて区別している.
●3種類のダイオードのDC特性をLTspiceで確認する
図5は3種類のダイオード(整流用ダイオード,ツェナー・ダイオード,ショットキー・ダイオード)のDC特性をシミュレーションする回路です.3種類のダイオードを並列に接続し,そこに接続された電源(V1)の電圧を-6Vから1Vまで10mVステップで変化させ,それぞれのダイオードの電流をシミュレーションします.
V1の電圧を-6Vから1Vまで10mVステップで変化させる.
図6が図5のシミュレーション結果です.上段が全体のミュレーション結果です.下段左が逆方向特性を拡大したもので,下段右が順方向特性を拡大したものとなります.
下段左では,整流用ダイオード(D1)は,全く逆方向電流が流れていません.ショットキー・ダイオードは30μA程度でほぼ一定の逆方向電流が流れていることが分かります.用途によってはこの電流が無視できない場合があるため,注意が必要です.
ツェナー・ダイオードは逆方向電圧が3.5Vを越えたあたりから電流が流れ始め,その後急激に電流が増加していきます.急激に電流が流れ始める電圧をブレーク・ダウン電圧と呼び,電子回路の基準電圧として使用されます.そのため,様々なブレーク・ダウン電圧のツェナー・ダイオードが製品化されています.
下段左が逆方向特性を,下段右が順方向特性を拡大したもの.
下段右は,順方向特性を拡大したものです.整流用ダイオードおよびツェナー・ダイオードが0.6~0.7V程度で電流が流れ始めるのに対し,ショットキー・ダイオードは0.1Vあたりから電流が流れ始めています.このようにショットキー・ダイオードは,順方向に使用したときの電圧ドロップが小さくなっています.電圧ドロップと流れている電流を掛けたものが,ダイオードで消費する電力になります.そのため,スイッチング電源などにショットキー・ダイオードを使用した場合,ダイオードで消費する無駄電力が小さく,電源の効率を高くすることができます.
●3種類のダイオードの整流特性をLTspiceで確認する
図7は,図1の回路を3種類のダイオードでシミュレーションする回路です.一般的なダイオードの用途として,交流信号の片側の電圧だけを取り出すための整流回路があります.図1はその最もシンプルな整流回路です.図1と同様に,V1にピーク電圧10Vで1kHzの正弦波を発生させ,それぞれの抵抗の電圧をシミュレーションします.
V1にピーク電圧10Vで1kHzの正弦波を発生させ,抵抗の電圧を調べる.
図8は,図7のシミュレーション結果です.上段は,整流ダイオードを使用したときの抵抗の電圧(V(recti))と,ショットキー・ダイオードを使用したときの抵抗の電圧(V(schottky))です.V(recti)は正の半サイクルだけ電圧が発生し,負の半サイクルでは電圧は0Vとなっています.これが半波整流波形です.
一方,ショットキー・ダイオードのほうが整流ダイオードよりも電圧ロスが小さいため,正の半サイクルの波形は,より入力電圧に近くなっています.ただし,逆方向電流が大きいため,負の半サイクルで0Vとならず,若干電圧が発生しています.
V(zener)は負の半サイクルでも入力電圧に対応した電圧が表れている.
下段が入力電圧(V(in))と,ツェナー・ダイオードを使用したときの抵抗の電圧波形(V(zener))です.正の半サイクルはV(recti)と同等の波形ですが,負の半サイクルで,ブレーク・ダウン電圧を越えるとツェナー・ダイオードが導通するため,入力信号に対応した電圧が表れています.これは,図2の(d)と同じ波形です.
以上,3種類のダイオードの特性について解説しました.図1ではツェナー・ダイオードを整流回路に使用していますが,通常はこのような使い方はしません.ツェナー・ダイオードは基準電圧の発生や,電圧振幅を制限する回路などに使用されます.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_021.zip
●データ・ファイル内容
diode_DC.asc:図5の回路
diode_Tran.asc:図7の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs
(7) IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(8) オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs