エミッタ接地回路の入力抵抗の算出
図1は,NPNトランジスタ(Q1)を使ったエミッタ接地回路です.コレクタ電流(IC)が1mAとなるようにベースーエミッタ間電圧(VBE)を調整しています.この回路でVBEを僅かに変化させたときのエミッタ抵抗は「re=ΔVBE/ΔIE=26Ω」でした.電流増幅率を「β=100」とすると,ベースからGND間の入力抵抗「rin=ΔVBE/ΔIB」の値は(a)~(d)のどれでしょうか.
ベースからみた入力抵抗はいくらか.
(a)2.6kΩ (b)5kΩ (c)26kΩ (d)500kΩ
信号源が電圧で出力抵抗をもつとき,トランジスタの入力抵抗は,高い方が信号の減衰が無く,良い増幅器となります.そこで,実際の回路設計では,最適な回路とするため,入力抵抗の計算が度々出てきます.ここでは,その入力抵抗の算出方法を解説します.
エミッタ抵抗は,NPNトランジスタのベースーエミッタ間のダイオードの小信号抵抗です.オームの法則より「ΔVBE/ΔIE」となります.一方,ベースからみた入力抵抗は「ΔVBE/ΔIB」で表せます.ΔVBEは共通であり,違いは僅かな電流の変化であるΔIEとΔIBとなります.ベース電流はエミッタ電流より電流増幅率(β)だけ減少していることから,この関係を用いると求められます.
エミッタ抵抗が「re=ΔVBE/ΔIE=26Ω」,入力抵抗が「rin=ΔVBE/ΔIB」となり,ΔVBEは共通の項となります.なので,ベース電流の僅かな変化分ΔIBは,エミッタ電流の僅かな変化分ΔIEより電流増幅率(β)だけ減少します.ベースからみた入力抵抗は,エミッタ抵抗reをβ倍(100倍)した値となり,「26Ω×100」で解答は(a)となります.
●ベースからみた入力抵抗について
図2は,エミッタ接地回路のベースからみた入力抵抗を解説する図です.図1のQ1をNPN構造で示し,電流の流れとエミッタ抵抗を記入しました.NPNトランジスタのエミッタ抵抗(re)は,ベースのP型とエミッタのN型の順方向ダイオードの小信号における抵抗(ΔVBE/ΔIE)です.エミッタ抵抗(re)に流れる電流(IE)は,ベース電流(IB)とコレクタ電流(IC)の和です.しかし,ベース電流はコレクタ電流の電流増幅率(β)だけ減少した小さな電流となます.また,コレクタ電流とエミッタ電流はほぼ等しくなります.ベースからみた入力抵抗(rin=ΔVBE/ΔIB)は,ベース電流がコレクタ電流よりβだけ減少しているので,エミッタ抵抗(re)を電流増幅率(β)倍した抵抗値となります.
●入力抵抗の計算
最初に,トランジスタのベース電流(IB),コレクタ電流(IC),エミッタ電流(IE)と電流増幅率(β)の関係を調べます.電流増幅率はコレクタ電流(IC)とベース電流(IB)の比ですので,式1となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
エミッタ電流(IE)はコレクタ電流(IC)とベース電流(IB)の和ですので,式2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式1をIBで整理して式2へ代入すると式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
コレクタ電流とエミッタ電流の比をαとおけば,式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
まとめると,式1より,電流増幅率が「β=100」のとき,ベース電流はコレクタ電流の電流増幅率(β)だけ減少した小さな電流となります.また,式4より,αは「α=0.99」となり,コレクタ電流とエミッタ電流はほぼ等しくなり,βが大きいほどαは1に近づきます.
次にエミッタ抵抗を求めます.エミッタ抵抗はNPNトランジスタのベースーエミッタ間のダイオードの小信号抵抗で式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
電流増幅率(β)が大きければ,エミッタ電流はコレクタ電流とほぼ等しく「ΔIE=ΔIC」となることから,エミッタ抵抗の計算には式6のトランジスタの相互コンダクタンスを利用できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6を使って式5のエミッタ抵抗を表すと式7となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
VTは,熱温度で,常温の27℃では「VT=約26mV」,図1のコレクタ電流は1mAの条件ですので,エミッタ抵抗は式8から求まり,26Ωとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
ベースからみた入力抵抗「ΔVBE/ΔIB」は式1,式6,式7より式9となり,エミッタ抵抗を電流増幅率(β)倍した値となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
電流増幅率「β=100」,エミッタ抵抗「re=26Ω」より,入力抵抗は式10より2.6kΩとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
●ベースからみた入力抵抗をシミュレーションする
図3は,図1をシミュレーションする回路です.シミュレーションはDC解析を用い,図1のVBEに相当するV1の電圧を0.75V~0.79Vを0.1mVの間隔でスイープさせます.また,VCEに相当するV2の電圧は直流電圧5Vです.
図4は,横軸をコレクタ電流とし,縦軸を電流増幅率(コレクタ電流/ベース電流)をプロットしました.この結果より,電流増幅率は「β=100」であることが分かります.
電流増幅率は「β=100」であることが分かる.
図5は,横軸をコレクタ電流,縦軸は,LTspiceの導関数d()を使い,エミッタ抵抗「ΔVBE/ΔIE」をプロットしました.エミッタ電流は端子から外へ電流が流れる向きとするため,マイナスがついています.図5より,コレクタ電流1mAのとき,エミッタ抵抗は26Ωであり,式8と同じであることが分かります.
コレクタ電流が1mAのとき,エミッタ抵抗は26Ω.
図6は,横軸をコレクタ電流,縦軸をLTspiceの導関数d()を使い,ベースからみた入力抵抗「ΔVBE/ΔIB」をプロットしました.図5より,コレクタ電流1mAのとき,エミッタ抵抗は2.6kΩであり,式10と同じであることが分かります.
コレクタ電流が1mAのとき,入力抵抗は2.6kΩ.
以上,解説したように,エミッタ接地回路のベースからみた入力抵抗は,エミッタ抵抗を電流増幅率(β)倍した値となります.また,図5と図6より,コレクタ電流が小さくなると,エミッタ抵抗と入力抵抗は大きくなります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_018.zip
●データ・ファイル内容
Input_Resistance.asc:図3の回路
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