トランジスタの原理と特性



『LTspice Users Club』のWebサイトはこちら

■問題
電気回路 ― 基礎

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,NPNトランジスタ(Q1)と負荷抵抗(R1)で構成するエミッタ接地増幅器です.Q1の電流増幅率が100倍の場合,Q1のベースへ直流の1μAを流したとき,OUT端子の電圧が1V以下となる負荷抵抗(R1)は,(a)~(d)のどれでしょうか.ここで,V1は直流の5Vとします.


図1 抵抗負荷のエミッタ接地回路
OUT端子の電圧が1V以下になるR1の抵抗は何Ω以上が必要になるか.

(a)1kΩ以上 (b)4.7kΩ以上 (c)22kΩ以上 (d)47kΩ以上

■ヒント

 Q1の電流増幅率(β)は,コレクタ電流を(IC),ベース電流を(IB)とすると「β=IC/IB」で求められます.また,ICは,「IB×β」となります.図1の負荷抵抗の一端は,NPNトランジスタのコレクタ,もう一端は5Vの直流電圧に接続しています.よって,コレクタ電流と負荷抵抗を使い,オームの法則を用いて抵抗の電圧降下を求めれば,OUT端子の電圧が分かります.

■解答


(d) 47kΩ以上

 トランジスタのコレクタ電流(IC)は,「ベース電流(IB)×電流増幅率(β)」です.図1のコレクタ電流は,ベース電流が「IB=1μA」,電流増幅率が「β=100」を用いると式1となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 OUT端子の電圧は,V1の電圧から,負荷抵抗(R1)の電圧降下を引いた値です.R1の電圧降下はオームの法則より,ICとR1の積ですので,OUT端子の電圧は式2となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式2を使い(a)~(d)のOUT端子の電圧を求めます.(a)の「R1=1kΩ」を用いると,式3となります.

・・・・・・・・・・・・(3)

(b)の「R1=4.7kΩ」を用いると,式4となります.

・・・・・・・・・・(4)

(c)の「R1=22kΩ」を用いると,式5となります.

・・・・・・・・・・・・(5)

(d)の「R1=47kΩ」を用いると,式6となります.

・・・・・・・・・・・(6)

 式3~式6の結果より,OUT端子が1V以下となるのは,(d)となります.


■解説

●トランジスタの呼称
 トランジスタという名は,ベル研究所のJohn R.Pierce氏が「トランスファ・レジスタ」から作り出した呼称です.電子デバイスの特性を表す似た言葉に,相互コンダクタンス(Transconductance)があります.これは「入力電圧の変化に対する出力電流の変化」を表し,単位は「電流/電圧」の「A/V」です.John R.Pierce氏のトランジスタは,相互コンダクタンスとは逆の「入力電流の変化に対する出力電圧の制御」をする素子と考え,単位は「電圧/電流」の「V/A」となります.「V/A」はオームの法則の「抵抗=電圧/電流」と同じであることから「トランスファ・レジスタ」となり,のちに「トランジスタ」となりました.
 端子の呼称は,負電荷を注入(emit)するものとしてエミッタ,その負電荷を収集(Colect)するものとしてコレクタが付けられました.ベースは,当時のトランジスタはゲルマニウムのベースウェハ上にエミッタとコレクタを形成したので,ベースという名が残りました.

●トランジスタの原理
 トランジスタは,P型半導体とN型半導体を,NPN,または,PNPの並びで接合した素子となります.図2は,NPNトランジスタを解説する図で,中央にあるP型は物理的に薄く作られます.P型半導体には正電荷(+)があり,N型には負電荷(-)があります.
 正電荷は正孔(電子が欠如した箇所),負電荷は電子となります.接触させると,接合面で正電荷と負電荷の電気的な中立性を保つため,P型の正孔をN型の電子が埋めて,可動する電荷がない領域が生まれて安定します.この正孔を電子が埋めることを「再結合」と呼びます.また,可動できる電荷のない領域を「空乏層」と呼びます.


図2 P型半導体をN型半導体で挟んだ,NPNトランジスタの構造図

 図3は,NPNトランジスタのベースのP型を電源の+,エミッタのN型を電源の-に接続するように,電圧を与えた図になります.ベースとエミッタは順方向のダイオード接続であり,電圧の方向と同じ電界がダイオードの中に加えられ,図2の平衡状態を崩します.正の電界は負電荷を,負の電界は正電荷を呼び寄せるので,空乏層が狭くなり,正電荷と負電荷が出会って再結合を始めます.この再結合は連続して起こり,正電荷と負電荷の移動が続きます.電流の向きと負電荷である電子の移動の向きは逆の関係ですので,ベースからエミッタへ向かって電流が流れます.


図3 ベースのP型を電源の+,エミッタのN型を電源の-に接続した図

 図4は,図3の状態から,コレクタのN型を電源の+,エミッタのN型を電源の-に接続するように,電圧を与えました.このときの電圧は,ベース・エミッタの電圧よりも高い電圧とし,ベースのP型とコレクタのN型は逆バイアスのダイオード接続となります.コレクタとエミッタには電圧の方向と同じ高い電界があります.また,ベースのP型は薄いため,エミッタの負電荷は,コレクタとエミッタの高い電界に引き寄せられ,収集されます.このためベース電流は小さく,コレクタ電流が大きくなります.


図4 コレクタのN型を電源の+,エミッタのN型を電源の-に接続した図
コレクタとエミッタの高い電界により,エミッタの多くの負電荷はコレクタへ引き寄せられる.

 図5は,図4からベース・エミッタ間の電圧源を取り外したときの電荷の様子を示しました.ベースのP型とエミッタのN型の再結合は無くなりベース電流は流れません.2つの接合面には,可動できる電荷のない空乏層があり,エミッタからコレクタへの負電荷の移動は無くなり,コレクタからエミッタへの電流も流れません.


図5 図4からベース・エミッタ間の電圧源を取り除いたときの電荷の図
電荷の移動が停止し,電流は流れない.

 トランジスタは,ベース・エミッタ間をダイオード接続で電流を通すと,小さなベース電流で,大きなコレクタ・エミッタ間の電流を制御できることになります.

●トランジスタの静特性
 トランジスタの静特性は,トランジスタの動作を表す大変重要な特性となります.図6は,LTspiceでトランジスタの静特性をシミュレーションする回路です.シミュレーションはDC解析を用い,トランジスタ(Q1)のコレクタとエミッタ間の電圧をスイープさせたときのコレクタ電流をプロットします.これをベース電流毎に複数回シミュレーションしたプロットが静特性となります.
 図6では,1つのベース電流の条件で,コレクタとエミッタ間の電圧を0Vから5V間を10mVステップでスイープし,コレクタ電流をプロットします.これをベース電流が0μAから5μAを1μAステップで計6回シミュレーションします.


図6 トランジスタの静特性をシミュレーションする回路

 図7は,図6のシミュレーション結果です.まず,図1のベース電流の条件「IB=1μA」のときの電流増幅率を調べます.図7より,ベース電流が1μAのときコレクタ電流は100μAですので,トランジスタ(Q1)の電流増幅率(β)は,コレクタ電流をベース電流で割った値なので「β=100」となります.また,ベース電流が1μA毎に増加すると,「β=100」の電流増幅率でコレクタ電流が変化するのが分かります.このようにトランジスタは,小さなベース電流変化で,大きなコレクタ電流を制御することができます.


図7 図6のシミュレーション結果

●エミッタ接地増幅器をLTspiceで確認する
 図8は,図1をシミュレーションする回路です.ベース電流は1μA,V1は5Vとし,負荷抵抗(R1)の値を「RLOAD」の変数としています.RLOADは,100Ωから1MΩ間を,2倍の変化あたり10ポイントで変化させ,そのときのOUT端子の電圧をプロットします.


図8 図1をシミュレーションする回路
負荷抵抗はRLOADという変数で変化させる.

 図9は,図8のシミュレーション結果です.分かりやすいように,負荷抵抗(R1)が1kΩ,4.7kΩ,22kΩ,47kΩの4種類に丸印を付けました.OUT端子の電圧は解答で計算した値であることが分かり,1V以下となるのは47kΩであることも確認できます.


図9 図8のシミュレーション結果
OUT端子の電圧が1V以下となるのは,負荷抵抗が47kΩ以上.

 今回解説したように,トランジスタは,小さなベース電流で大きなコレクタ電流を制御できます.この特性を用いると増幅器や論理回路のインバータなどの用途で使われます.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_014.zip

●データ・ファイル内容
VCE_IC.asc:図6の回路
Resistively_loaded_common_emitter_amplifier.asc:図8の回路

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs
(7) IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(8) オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報


近日発売

Interface 2025年 2月号

ラズパイで作り学ぶ Dockerコンテナ

CQ ham radio 2025年 1月号

2025年のアマチュア無線

HAM国家試験

第4級ハム国試 要点マスター 2025

HAM国家試験

第3級ハム国試 要点マスター 2025

トランジスタ技術 2025年 1月号

注目のロボット センサ&走行制御!

アナログ回路設計オンサイト&オンライン・セミナ