コイルに電圧を印加したときの電流変化
図1は,1H(henry)のコイル(L1)に電圧源(V1)が接続された回路です.L1の直列抵抗成分は1mΩで,電流値によってインダクタンスが変化することはありません.また,V1の初期値は0Vで,このときL1には電流は流れていないものとします.この回路で0VだったV1の電圧を1ns後に1Vになるよう,ステップ状に変化させたとき,L1に流れる電流の波形として正しいのは,図2の(a)~(d)のどれでしょうか.
0VだったV1の電圧を1ns後に1Vになるよう,ステップ状に変化させる
図1のコイルの電流波形として正しいのはどれか?
(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形
コイルには,流れる電流が変化すると,その電流変化に対応した電圧が発生する性質があります.そして,その発生した電圧と外部から加えた電圧がつりあうように,コイルの電流の変化量が決まります.これらの関係から,コイルの電流の時間変化を計算することができます.
コイルに流れる電流が変化したとき,コイルに発生する電圧(V)は「V=L*ΔI/Δt」となります.この電圧と印加した電圧が等しいとすると,電流変化率は「ΔI/Δt=V/L」となります.これより,電流の時間変化は「I(t)=(V/L)*t」と表すことができます.図1の定数を当てはめると,コイルの電流は,時間0のときは0Aで,2秒後に「I=(1/1)*2=2A」となるよう,直線的に変化することになります.このような変化をしているグラフは(d)なので,正解は(d)ということになります.
●コイルの構造と性質
コイルはインダクタとも呼ばれ,その基本構造は図3のように導線を巻いたものです.単純に導線を巻いただけのものや,コアと呼ばれる磁性体に導線を巻いたものがあります.コイルに電流(I)を流すと,磁界が発生します.この磁界の強さを表すものとして,磁束(φ)というものがあります.磁束は,式1のように電流に比例し,その比例係数がインダクタンス(L)になります.インダクタンスの単位にはH(henry:ヘンリー)が使用されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
このインダクタンスの大きさは,コイルの巻き数(N)の2乗に比例します.また,コイルの中の磁束が変化すると,コイルの両端に電圧(V)が発生します.その電圧の大きさは磁束の変化速度に比例します.式1からわかるように,コイルに流れる電流が変化すると,磁束が変化し,その磁束の変化速度は,電流の変化速度と同じです.その磁束変化によってコイルの両端には電圧が発生することになります.これを式で表すと,式2のようになります.ここで「ΔI/Δt」は電流の変化率を表しています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2より,1Hのインダクタンスを持つコイルに,1秒間に1Aの割合で変化する電流を流したときの電圧は,1Vになることが分かります.
コイルに電流を流すと磁束(φ)が発生し,磁束が変化すると電圧が発生する.
●コイルに電圧を加えたときの電流
次にコイルに電圧を加えた場合,流れる電流は,どのようになるかを考えます.コイルに直流電圧を加えた場合,流れる電流は,コイルの直列抵抗値で決まります.図1のコイルの場合,直列抵抗値が1mΩなので,1Vの電圧を加えた場合の電流(I)は「I=1/1m=1000A」となります.ただし,図1のように0Vだった電圧を1ns後に1Vになるように,ステップ状に変化させた場合,最初から1000Aが流れるわけではありません.
コイルに電圧を印加し,0Aだった電流が少し変化すると,電流と同じ速度で変化する磁束が発生します.するとその変化する磁束に対応した電圧がコイルの両端に発生します.コイルの直列抵抗成分での電圧降下が無視できる範囲では,コイルに発生した電圧と外部から加えた電圧がつりあうように,電流が変化することになります.式2より,1Hのインダクタンスを持つコイルに,1秒間に1Aの割合で変化する電流を流したときの電圧は1Vということが分かります.逆に,1Hのコイルに1Vの電圧を印加すると1秒間に1Aの割合で変化する電流が流れることになります.式2を変形し,電流の変化率を求めると,式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式3から,コイルに流れる電流は変化率「V/L」で,時間ととも増大していくことが分かります.時間(t)におけるコイルの電流をI(t)とすると,I(t)は式4のように表すことができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
図1の定数を当てはめると,コイルの電流は,時間0のときは0Aで,2秒後に「I=(1/1)*2=2A」となるよう,直線的に変化することになります.
●コイルにステップ状の電圧を加えた場合の電流
図4は,コイルにステップ状の電圧を加えたときの電流をシミュレーションするための回路です.電圧源V1は,PWLコマンドで0Vから1ns後に1Vに変化させます.
電圧源V1はPWLコマンドで0Vから1ns後に1Vに変化させる.
L1のインダクタンスは,1Hとなっています.図5がL1のパラメータ設定画面です.直列抵抗の欄に何も入力しない場合は,直列抵抗の値はデフォルトの1mΩになります.
直列抵抗のデフォルト値は1mΩとなっている.
図6は,図4のシミュレーション結果です.L1の電流は初期値が0Aで,電圧がステップ状に変化したあと,1秒間に1Aの割合で,直線状に増加しています.
L1の電流は1秒間に1Aの割合で,直線状に増加している.
L1の直列抵抗は1mΩと小さいため,電流が小さい場合は無視できます.しかし,電流が大きくなるとその影響が現れ始め,L1の電流は最終的には,直列抵抗の値で決まる電流値になります.図7は,図4の回路でシミュレーション時間を5000秒に伸ばしたときの結果です.
L1の電流は最終的には直列抵抗値で決まる1000Aになる.
電圧を加えた直後は電流が小さいため,直列抵抗の影響が表れず,1秒間に1Aの割合で電流が増加していきます.しかし,時間と共に電流増加量が減りはじめ,最終的に流れる電流は,直列抵抗値で決まる1000Aになります.
以上,コイルの基本的な性質について解説しました.シミュレーションで使用するコイルは,電流値が変わってもインダクタンスの値は変化しません.しかし,実際のコイルは,電流が大きくなるとコア材が磁気飽和し,インダクタンスが小さくなってしまうことがあります.そのため,使用できる最大電流のスペックに注意が必要です.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_013.zip
●データ・ファイル内容
Iinductor.asc:図4の回路
inductor_5000s.asc:図7をシミュレーションするための回路
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