電圧リミッタ回路の仕組み



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■問題
電気回路 ― 基礎

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,ダイオードと抵抗で構成した,電圧の出力信号振幅を制限する電圧リミッタ回路です.IN端子には,振幅5V,周波数1Hzの正弦波を入力信号として加えます.このとき,図2のように,OUT端子が±0.6V以上で出力電圧が一定となる電圧リミッタ回路は,(a)~(d)のうちどれでしょうか.


図1 ダイオードを使った電圧リミッタ回路
正電源は「V+=3V」,負電源は「V-=-3V」ダイオードのアノード(底辺)からカソード(頂点)に向けて,電流を通したときの順方向電圧は0.6Vとします.


図2 電圧リミッタの波形
出力は0Vを中心に±0.6Vで電圧リミッタとなる.

回路(a) 回路(b) 回路(c) 回路(d)


■ヒント

 図1の(a)~(d)の4つの回路は,電圧リミッタとして動作しますが,2つあるダイオードの接続先(V+,V-,GND)により,制限される電圧リミッタの値が変わります.正側と負側の電圧リミッタの値が共に0.6Vになる回路が正解です.

■解答


回路(d)

 出力信号が±0.6Vで制限がかかる電圧リミッタは,図1(d)となります.図3は,図1(d)の解説のため,正側[図3(a)]と負側[図3(b)]の電圧リミッタの値を図解したものです.
 図3(a)は,IN端子の入力電圧が0.6Vより大きい状態であり,電流は電圧が高い方から低い方へ流れます.IN端子からR4とD8を通りGNDへ流れます.このとき,D7はカソードからアノードへ電流を流さないためOFFとなります.OUT4の電圧は,ダイオード(D8)の順方向電圧が現れるのでGNDから0.6Vで一定となります.
 また,図3(b)は,正側とは逆のIN端子の入力電圧が-0.6Vより小さい状態のときであり,電流はGNDからD7とR4を通り,負電圧のIN端子へ流れます.このときのD8はカソードからアノードへ電流を流さないためOFFとなります.OUT4の電圧は,ダイオードの順方向電圧が現れるので,D7のアノードがGNDなので,そのカソード電圧となるOUT4の電圧は-0.6Vで一定となります.以上より,出力信号が±0.6Vで制限がかかり,解答は図1(d)となります.


図3 図1(d)の回路
(a)IN端子の電圧が0.6Vより大きいときを示す.
(b)IN端子の電圧が-0.6Vより小さいときを示す.

■解説

●電圧リミッタについて
 集積回路の端子は,仕様書の中に最大印加できる電圧の規定があります.電圧リミッタ回路は,その最大印加条件の範囲内になるように保護回路として用いられます.また,他の用途として,前段から後段への信号伝送において,信号振幅の制限などにも用いられます.ここでは,図1の(a)~(d)の電圧リミッタについて解説します.

●正電源で使う電圧リミッタ
 図1(a)は,正電源で使う電圧リミッタです.図4は,図1(a)を解説する回路です.図4(a)は,図1(a)の電圧リミッタの回路に,ダイオードがONする条件とそのときの電流の経路を加えました.図4(b)は,図1(a)のINの電圧対OUT1の電圧特性をプロットしました.図4(c)は,図4(b)の特性へ,正弦波の入力信号を加えたときの出力信号です.


図4 図1(a)を解説する回路
(a)図1(a)の回路
(b)INの電圧対OUT1の電圧の特性
(c)入力信号対出力信号

 図4(a)の2つのダイオードがOFFのときは,R1に電流は流れず,電圧効果もないため,IN端子とOUT1端子の電圧は等しく推移します.IN端子の電圧が正電源(V+)3Vからダイオードの順方向電圧(VF1)0.6V分だけ高くなったとき,D1がONします.このときの電圧をVHとすると,式1の3.6Vとなります.OUT1端子の電圧も式1であり,IN端子の電圧がさらに高くなってもOUT1端子は式1で制限されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 IN端子の電圧が負電源(V-)0V(GND)からダイオードの順方向電圧(VF2)0.6V分だけ低くなったとき,D2がONします.このときの電圧をVLとすると,式2の-0.6Vとなります.式1と同じように,OUT1端子の電圧も式2であり,IN端子の電圧がさらに低くなってもOUT1端子は式2で制限されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 このINの電圧対OUT1の電圧を示したプロットしたものが図4(b)となります.図4(b)の特性を持つ回路へ,正弦波を加えたときの出力波形を調べるには,図4(c)を用いると便利です.入力信号を90°傾け,正弦波の振幅方向を図4(b)のX軸に合わせます.そのときの出力波形は,図4(b)を通過した後ですので,正電源側は3.6Vの電圧リミッタ,負電源側は-0.6Vの電圧リミッタとして動作します.

●正と負の電源を使う両電源回路の電圧リミッタ
 図1(b)は,正と負の電源を使う両電源回路の電圧リミッタです.図5は,図1(b)を解説する回路です.図5(a)は,図1(b)の電圧リミッタの回路に,ダイオードがONする条件とそのときの電流の経路を加えました.図5(b)は,図1(b)のINの電圧対OUT2の電圧特性をプロットしました.図5(c)は,図5(b)の特性へ,正弦波の入力信号を加えたときの出力信号です.


図5 図1(b)を解説する回路
(a)図1(b)の回路
(b)INの電圧対OUT2の電圧の特性
(c)入力信号対出力信号

 IN端子の電圧が正電源(V+)3Vからダイオードの順方向電圧(VF3)0.6V分だけ高くなったとき,D3がONします.このときの電圧をVHとすると,式3の3.6Vとなります.OUT2端子の電圧も式3であり,IN端子の電圧がさらに高くなってもOUT3端子は式3で制限されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 IN端子の電圧が負電源(V-)-3Vからダイオードの順方向電圧(VF4)0.6V分だけ低くなったとき,D4がONします.このときの電圧をVLとすると,式4の-3.6Vとなります.OUT2端子の電圧も式4であり,IN端子の電圧がさらに低くなってもOUT2端子は式4で制限されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 図5(b)はINの電圧対OUT2の電圧特性,図5(c)は正弦波を加えたときの出力波形です.出力信号は0Vを中心に±3.6Vで制限がかかる電圧リミッタとなります.

●負電源で使う電圧リミッタ
 図1(c)は負電源で使う電圧リミッタです.図1(a)を負電源用にしたものです.図6は,図1(c)を解説する回路です.図6(a)は,図1(c)の電圧リミッタの回路に,ダイオードがONする条件とそのときの電流の経路を加えました.図6(b)は,図1(c)のINの電圧対OUT3の電圧特性をプロットしました.図6(c)は,図6(b)の特性へ,正弦波の入力信号を加えたときの出力信号です.


図6 図1(c)を解説する回路
(a)図1(c)の回路
(b)INの電圧対OUT3の電圧の特性
(c)入力信号対出力信号

 IN端子の電圧が正電源(V+)0V(GND)からダイオードの順方向電圧(VF5)0.6V分だけ高くなったとき,D5がONします.このときの電圧をVHとすると,式5の0.6Vとなります.OUT3端子の電圧も式5であり,IN端子の電圧がさらに高くなってもOUT3端子は式5で制限されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 IN端子の電圧が負電源(V-)-3Vからダイオードの順方向電圧(VF6)0.6V分だけ低くなったとき,D6がONします.このときの電圧をVLとすると,式6の-3.6Vとなります.OUT3端子の電圧も式6であり,IN端子の電圧がさらに低くなってもOUT3端子は式6で制限されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

●GNDを基準に±0.6Vで制限がかかる電圧リミッタ
 図1(d)はGNDを基準に±0.6Vで制限がかかる電圧リミッタです.図7は,図1(d)を解説する回路です.図7(a)は,図1(d)の電圧リミッタの回路に,ダイオードがONする条件とそのときの電流の経路を加えました.図7(b)は,図1(d)のINの電圧対OUT4の電圧特性をプロットしました.図7(c)は,図7(b)の特性へ,正弦波の入力信号を加えたときの出力信号です.


図7 図1(d)を解説する回路
(a)図1(d)の回路
(b)INの電圧対OUT4の電圧の特性
(c)入力信号対出力信号

 D7のアノードとD8のカソードは,同じ電圧のGNDへ接続しています.IN端子の電圧がGNDからダイオードの順方向電圧(VF8)0.6V分だけ高くなったとき,D8がONします.このときの電圧をVHとすると,式7の0.6Vとなります.OUT4端子の電圧も式7であり,IN端子の電圧がさらに高くなってもOUT4端子は式7で制限されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 IN端子の電圧がGNDからダイオードの順方向電圧(VF7)0.6V分だけ低くなったとき,D7がONします.このときの電圧をVLとすると,式8の-0.6Vとなります.OUT4端子の電圧も式8であり,IN端子の電圧がさらに低くなってもOUT4端子は式8で制限されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 図7(b)に示すように,INの電圧対OUT4の電圧は,GNDを基準に±0.6Vで制限がかかる電圧リミッタとなり,正弦波を加えたときの出力波形は図7(c)となります.

●電圧リミッタ回路をLTspiceで確認する
 図8は,過渡解析を用いて図1の(a)~(d)をシミュレーションする回路です.IN端子には振幅が5V,周波数が1Hzの正弦波を加えます.そのときのOUT1,OUT2,OUT3,OUT4の波形をプロットします.


図8 図1をシミュレーションする回路

 図9図8のシミュレーション結果で,上からOUT1,OUT2,OUT3,OUT4の出力波形をプロットしました.また比較のため,IN端子の入力波形もプロットしています.このように,図4(c)図5(c)図6(c)図7(c)の出力波形と同じ電圧リミッタであることがわかります.


図9 図8のシミュレーション結果

 以上,解説したように,ダイオードと抵抗を用いると,電圧リミッタを構成できます.この回路は集積回路の端子が,過電圧の印加を防ぐ保護回路として使われます.ダイオードを直列に接続すれば,電圧リミッタの値を調整できます.また,ショットキー・バリア・ダイオードやツェナー・ダイオードを使うと,さらに電圧リミットの値を細かく設定できます.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_010.zip

●データ・ファイル内容
Voltagae_Limitter.asc:図8の回路

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