ダイオードの原理と特性
図1は,ダイオード(D1)と抵抗(R1)を使用した回路です.この回路の入力電圧(V1)は,交流の正弦波で,0Vを中心に正負の電圧を回路へ与えます.このとき,OUT端子の波形として正しいのは,図2の(a)~(d)のどれでしょうか.
ダイオードは理想とし,D1に電流が流れても,ダイオードの電圧はないものとする.
ダイオードは,整流作用があり,2つの端子のどちらか片方の方向に向かって電流を通し,その逆は通しません.ダイオードをスイッチとみなせば,通す方向が導通(スイッチオン),通さない方向が非導通(スイッチオフ)と考えると,OUT端子の電圧波形が分かります.
ダイオードは,図1の「IN」から「OUT」の方向へ電流を通し,その逆は通さない作用があります.図3は,ダイオード(D1)が電流を通すときの説明図です.
(a)交流の正側の振幅のときを表す図 (b)ダイオードをスイッチオンの状態で示した図
図3(a)の電流の方向になるには,INの電圧がOUTの電圧より高いときです.この状態を入力電圧で考えると,交流の正側の振幅のときとなります.図3では正側の振幅という意味で,電池マークで表しました.この状態を分かりやすいように,ダイオードをスイッチで表したのが図3(b)です.ダイオードが電流を通すことは,スイッチはオンの状態となります.これより,OUT端子には交流の正側の振幅が現れます.
図4は,図3の反対の状態で,ダイオード(D1)が電流を通さないときを表します.図4(a)の電流の向きになる入力電圧は,INの電圧がOUTの電圧より低いときであり,交流の負側の振幅のときとなります.
(a)交流の負側の振幅のときを表す図 (b)ダイオードをスイッチオフの状態で示した図
図4では,負側の振幅という意味で,図3とは逆の電池マークで表しました.図3(a)のダイオードをスイッチで表したのが図4(b)です.ダイオード(D1)は,電流を通さないので,スイッチはオフとなり,R1に電流が流れないので,OUTの電圧は0Vとなります.これより,図1の出力波形は,交流の正側の振幅がOUT端子に現れ,負側の振幅のときは,0Vで一定となります.よって,(c)の波形がOUT端子に現れます.
●ダイオードの原理
ここではダイオードの原理について,その内部で起きていることを,簡略化した図を用いて解説します.ダイオードは,P型半導体とN型半導体を用いて作ります.図5にP型半導体とN型半導体を示します.P型半導体にはプラスマークの正電荷があり,N型にはマイナスマークの負電荷があります.正電荷は正孔(電子が欠如した箇所),負電荷は電子となります.
ダイオードは,図6のように,P型半導体とN型半導体を接触させたものです.接触させると,接合面で正電荷と負電荷の電気的な中立性を保つため,P型の正孔をN型の電子が埋めて,可動する電荷がない領域が生まれて安定します.この正孔を電子が埋めることを「再結合」と呼びます.また,可動できる電荷のない領域を「空乏層」と呼びます.
図7のように,ダイオードのP型を正,N型を負になるように電圧を与えます.そうすると,電圧の方向と同じ電界がダイオードの中に加えられ,図6の平衡状態を崩します.正の電界は負電荷を,負の電界は正電荷を呼び寄せるので,空乏層が狭くなり,正電荷と負電荷が出会って再結合を始めます.この再結合は連続して起こり,正電荷と負電荷の移動が続きます.電流の向きと電子の流れる向きは逆の関係ですので,ダイオードの電流は,P型からN型へ向かって流れます.この方向を順方向と呼び,電流のことを順方向電流,電圧のことを順方向電圧と呼びます.
この電圧の方向を順方向と呼ぶ.
次に,図8のように,ダイオードに与える電圧を逆にします.図7とは逆の電界により,正電荷はP型へ,負電荷はN型に寄り,空乏層は広くなります.この空乏層では再結合がなく,正電荷と負電荷の移動が止まり,電流は流れません.この方向を逆方向と呼び,電流のことを逆方向電流,電圧のことを逆方向電圧と呼びます.
この電圧の方向を逆方向と呼ぶ.
以上の動作により,ダイオードは順方向に電圧を加えると電流が通り,逆方向に電圧を加えると電流は止まります.これはスイッチの動作であり,解答の図3(b),図4(b)のように,ダイオードをスイッチで置き換えると,回路の動作が分かりやすくなります.
●ダイオードの記号
図9は,回路図で用いるダイオードの記号です.P型半導体の方をアノード(英:Anode),N型半導体の方をカソード(英:Cathode,独:Kathode)と呼びます.アノードの短縮はA,カソードの短縮はKを用います.カソードのKはドイツ語からきています.ダイオードはアノードからカソードに向けて電流を通します.
●ダイオードの特性
図10にLTspiceを使ったダイオードの特性を示します.グラフ中に測定回路を載せました.V1をスイープし,ダイオード(D1)の電流をプロットしています.電流の向きは,アノードからカソードに流れる方向が正となります.
問題では,ダイオードの電圧を0Vとしましたが,実際には図10のように,ダイオードの電流により,約0.6V~0.7Vの順方向電圧が発生します.この順方向電圧は,ダイオードの製品により変わります.同じ製品でもたくさん測定すると,1つ1つにわずかな差があります.また,シミュレータでは起こりませんが,実際のダイオードは,逆方向電圧を加えると,ブレークダウンを起こします.
横軸:ダイオードの両端の電圧,縦軸:ダイオードに流れる電流
●OUT端子の波形をLTspiceで確認する
図11は,図1をシミュレーションする回路です.入力電圧は正負の振幅が±10V,周波数が1Hzの正弦波です.シミュレーションは過渡解析を用い,0秒から1秒間の1周期を解析します.
入力電圧は,振幅10V,周波数1Hzの正弦波.
図12は,図11のシミュレーション結果で,入力電圧(赤)とOUT端子の電圧(青)をプロットしました.出力波形は,正解の(c)のように,入力電圧の正側を出力し,負側のときは0Vとなります.ダイオードは,図10のように順方向電圧があるため,図12では,OUT端子の電圧は,入力電圧より順方向電圧分だけ低くなります.
解説したように,ダイオードは,アノードからカソードへ電流を通し,カソードからアノードへは電流を通しません.これを整流作用といいます.ダイオードをスイッチに置き換えると,回路が理解しやすくなります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice5_006.zip
●データ・ファイル内容
Rectifier.asc:図11の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs
(7) IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(8) オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs