OPアンプに小信号を入力した時の立上り時間
図1は,R1とR2の抵抗比で直流の信号ゲインが20dB,コーナ周波数が92kHzの非反転アンプです.コーナ周波数より高い周波数帯では,-20dB/decの傾きでゲインは減衰します.この回路に,振幅が±5mV,周期が200μs,デューティ比が50%の小信号な矩形波を入力したときの立上り時間は,(a)~(d)のどれでしょうか.
入力に±5mVの矩形波を入力したとき,出力の立上がり時間はいくらか.
(a)3.6μs (b)3.8μs (c)22.6μs (d)23.4μs
OPアンプに小信号(内部回路が飽和しない)の矩形波を入力したとき,出力信号の過渡応答はアンプの周波数特性に依存します.その立上り時間は,振幅が10%から90%へ変化したときの時間であり,コーナ周波数で決まる時定数に関係します.
図1の非反転アンプは,コーナ周波数から高い周波数帯では-20dB/decの傾きで減衰する1次遅れ系の周波数応答です.1次遅れ系の過渡応答で,振幅が10%から90%へ変化したときの立上り時間は式1であり,コーナ周波数を92kHzとすると,立上り時間は3.8μsとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
●小信号周波数応答と小信号過渡応答の関係
OPアンプの内部回路が飽和するような大信号の過渡応答は,スルーレートによって制限を受けます.しかし,内部回路が飽和しない小信号の過渡応答は,小信号周波数応答によって決まります.
図2の(a)と(b)は小信号周波数応答と小信号過渡応答の関係を示す図です.
(b)の立上り時間と立下り時間は,(a)のコーナ周波数に関係する.
多くのOPアンプは,ゲインが1倍のボルテージ・フォロア回路で負帰還が発振しないように設計されています.これは,OPアンプの周波数特性が1次遅れ系の周波数特性とすることで実現されます.また,オープン・ループ・ゲインは,-20dB/decの傾きで減衰します.これらのOPアンプに抵抗で負帰還をすると,図2の(a)のように,コーナ周波数(fc)より高い周波数帯では-20dB/decで減衰する1次遅れ系の周波数応答となり,そのコーナ周波数から定まる時定数(τ)は式2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
図2の(a)の周波数特性を持つアンプへ矩形波を入力すると,出力の立上りと立下がりの応答は,時定数(τ)の影響を受けて,図2の(b)になります.このときの時間の変化に対する立上りの応答は,波高値をVとすると,式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
また,立下がりの応答は式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
●立上り時間とコーナ周波数の関係
立上り時間(tr)は,出力の振幅が10%から90%へ変化するときの時間であり,式2と式3を使い、その関係が導けます.出力電圧が10%のときの時間をt1とすると,式3は式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5を整理すると,式6となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6の両辺の自然対数をとり,出力電圧が10%のときの時間(t1)を調べると式7となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
同様の方法で,出力電圧が90%のときの時間(t2)は式8となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
立上り時間(tr)は,t2とt1の差の時間ですので,式9となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
式9へ式2の時定数を使うと,立上り時間(tr)は,式10となり,式1の関係が導けます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
また,立下がり時間についても,式4を使い上記と同じ方法で調べると式11となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)
式10を使い,図1の立上り時間を計算したものが,解答の式1となります.このように,小信号周波数応答のコーナ周波数がわかれば,矩形波を入力したときの立上り時間,立ち下がり時間を計算で予測できます.
●立上り時間のシミュレーション
図3は,図1の小信号周波数応答と小信号過渡応答をシミュレーションする回路です.
小信号周波数応答は,解析の指定を「.ac dec 100 10 1meg」と指定し,出力端子のゲイン周波数特性を調べます.小信号過渡応答は「.tran 300μs」と指定し,出力端子の立上り時間と立下がり時間を調べます.
図4は,図3のゲイン周波数特性のシミュレーション結果です.シミュレーション結果より,直流ゲインから-3dBとなるコーナ周波数を調べると,92kHzであることが分かります.
図5は,解答となる,振幅が±5mV,周期が200μs,デューティ比が50%の矩形波を入力したとき,出力の振幅が10%から90%へ変化する図3の立上り時間のシミュレーション結果です.図5より,立上り時間は式1のとおり,3.8μsであることが分かります.
10%から90%へ変化する立上り時間は3.8μs.
図6は,90%から10%へ変化する立下がり時間のシミュレーション結果です.
90%から10%へ変化する立上り時間は3.8μs.
立下がり時間は式11を使って求めると,同じく3.8μsとなり,シミュレーション結果も3.8μsとなります.以上,解説したように,OPアンプを使った負帰還アンプの小信号過渡応答は,小信号周波数応答に関係があり,式1の簡単な計算より予測できます.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_044.zip
●データ・ファイル内容
Non_Inverting_20dB_Amp.asc:図3の回路
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