負帰還回路で発生するゲインの誤差
図1は,理想の信号ゲインが10倍の非反転アンプです.OPアンプのオープン・ループ・ゲイン周波数特性は,直流ゲインが100dB,1st pole周波数が10Hz,それ以降の高周波側では-20dB/decの傾きで減衰します.また,その他のOPアンプの特性は理想とします.図1において,信号周波数が10kHzのとき,R1とR2の抵抗比「1+R2/R1=10」で決まる理想の信号ゲインからの誤差は,次の(a)~(d)のどれでしょうか.
OPアンプの直流ゲインは100dB,1st pole周波数は10Hzの特性.
(a) -0.005% (b) -0.5% (c) -1% (d) -9%
図1の非反転アンプは,負帰還回路のループ・ゲインが有限値であることから,R1とR2の抵抗比で決まる理想ゲインから誤差を生じます.ループ・ゲインは,オープン・ループ・ゲインと帰還率の積です.よって,オープン・ループ・ゲインが周波数特性を持つことから,ループ・ゲインも周波数により値が違います.図1の10kHz時のループ・ゲインを調べ,負帰還回路の信号ゲインに与える影響を調べると分かります.
OPアンプのオープン・ループ・ゲインをA(s),帰還率をβとすれば,非反転アンプのループ・ゲイン「A(s)β」を考慮した信号ゲインは式1となります.「1+R2/R1」が抵抗比で決まる理想の信号ゲイン,「A(s)β」を含む項が誤差項になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
OPアンプのオープン・ループ・ゲインは,式2となります.ただし,Aoは,オープン・ループ・ゲインの直流ゲイン,τ1は,1st pole周波数(fp1)の時定数であり「τ1=1/2πfp1」です.また,sはラプラス演算子で「s=jω」となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2を「τ1=1/2πfp1」,「s=jω」,「ω=2πf」を使って整理すると式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
帰還率βは,式4となり,抵抗性ですので周波数に関係なく一定値となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式1へ式3と式4を代入し,理想の信号ゲインからの誤差を計算します.「1<<1/A(jf)β」となれば,理想の信号ゲインに近づきます.図1の信号ゲインを求めるため,具体的な値「Ao=100dB=105」,「β=1/10」,「fp1=10Hz」,「f=10kHz」を使い,複素数を含む式の絶対値を計算すると式5となります.よって,10kHzの周波数における信号ゲインの誤差は,理想の信号ゲインである10倍から-0.5%となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
●ループ・ゲインを考慮した非反転アンプのゲイン
図1の非反転アンプについて,オープン・ループ・ゲイン(Ao)と帰還率(β)を考慮した信号ゲインを求めます.反転端子の電圧をv’とすれば,出力電圧と帰還率より式6となります.ここで,帰還率(β)は,抵抗性なので周波数特性を持ちません.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
出力端子の電圧は,OPアンプの2つの入力端子間の電圧差を,オープン・ループ・ゲイン倍した電圧なので,式7となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
式6と式7を使い,入力から出力までの伝達関数を求めると,解答の式1となります.式1より,非反転アンプの信号ゲインは,R1とR2の抵抗比で決まる理想ゲインに,ループ・ゲイン「A(s)β」が関係する誤差項で表されるのが分かります.式1のように,R1とR2の抵抗比でゲインを決めても,ループ・ゲインA(s)βが有限値のため,抵抗比で決まる理想ゲインから誤差を生じます.
●ループ・ゲインの周波数依存
図2は,ループ・ゲインの周波数依存を示すボード線図です.図1の非反転アンプの場合,ノイズ・ゲインは信号ゲインと等しくなります.ループ・ゲインをデシベルで表すと,オープン・ループ・ゲインとノイズ・ゲインの差となります.オープン・ループ・ゲインは,周波数特性を持つことから,ループ・ゲインも周波数により値が変わり,高い周波数になるほどループ・ゲインは小さくなります.このため,信号ゲインも高い周波数になるほど,理想の信号ゲインからの誤差が大きくなります.
図1の非反転アンプにおいて,周波数10kHzのときの信号ゲインを調べたのが解答の計算であり,理想の信号ゲインから-0.5%となります.また,ボード線図のオープン・ループ・ゲインとノイズ・ゲインが交わる100kHzの周波数が,信号ゲインのコーナ周波数(fc)です.この周波数の誤差を求めると式8となり,理想の信号ゲインから1/√2倍ですので,デシベルに直すと-3dBとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
●信号ゲインの誤差をLTspiceで確認
図3(a)は,信号ゲインの誤差をシミュレーションする回路です.また,図3(b)は,OPアンプのオープン・ループ・ゲインを調べる回路です.
(a) 信号ゲイン,(b) オープン・ループ・ゲイン
OPアンプは理想素子を使ったマクロモデルで,オープン・ループ・ゲインはAoの変数,1st poleはfp1の変数を使い,「.paramステートメント」で与えています.シミュレーションは,1Hz~10MHzをAC解析します.
図4は,図3のシミュレーション結果です.上段は縦軸がデシベルで表した信号ゲインとオープン・ループ・ゲインの周波数特性,下段は縦軸を倍率で表した信号ゲインの周波数特性です.上段のオープン・ループ・ゲインと信号ゲインの関係は,図2のボード線図と同じになることが分かります.また,下段に示す信号ゲインの10kHzの増幅率は9.95倍であり,式5と一致します.これは抵抗比で決まる理想の信号ゲインから,-0.5%の誤差となります.
上段は縦軸をデシベルで表した周波数特性,下段は縦軸を倍率で表した周波数特性.
以上,解説したように,非反転アンプの信号ゲインの誤差は,ループ・ゲインが有限値であるため発生します.ループ・ゲインは,高い周波数になると,ゲインが低くなる周波数依存があり,信号ゲインの誤差が増します.今回は非反転アンプを例にしましたが,反転アンプでも同じことが起こります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_042.zip
●データ・ファイル内容
gain_error.asc:図3の回路
Ideal_OP1.asc:OPアンプのサブサーキット
Ideal_OP1.asy:OPアンプのシンボル
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