水晶振動子を使用した発振回路
図1は,水晶振動子とCMOSインバータを使用した発振回路です.この回路に使用している水晶振動子(Xtal)の等価回路として適切なものは,図2の(A)~(D)のどれでしょうか.
インバータの入力と出力間に水晶振動子が接続されている.
水晶振動子の等価回路として適切なものはどれ?
水晶振動子のインピーダンスの周波数特性には,インピーダンスが小さくなる共振周波数とインピーダンスが大きくなる反共振周波数があります.この2つの共振特性を表現している等価回路はどれか?ということを考えれば,答えがわかります.
(A)は,C2とL1が直列共振回路を構成し,L1とC1,C2が並列共振回路を構成しています.そのため,直列共振周波数ではインピーダンスが小さくなり,並列共振周波数ではインピーダンスが大きくなります.(B)と(C)は,直列共振回路しか存在しません.また,(D)は,並列共振回路しか存在しません.水晶振動子のインピーダンスの周波数特性には,インピーダンスが小さくなる共振周波数とインピーダンスが大きくなる反共振周波数が必要となるため,正解は,(A)ということになります.
●水晶振動子のインピーダンス特性を調べる
図3は,水晶振動子の等価回路のインピーダンス特性をシミュレーションするための回路です.
電流源I1のAC Amplitudeを1とし,Z端子の電圧を観察する.
この等価回路において,直列共振周波数(fS)は,L1とC2で決まり式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・(1)
また,並列共振周波数(fP)は,L1とC1,C2の直列容量値で決まり,式2で表されます.
・・・・・(2)
C1に比べてC2がかなり小さいため,直列容量値はC2に近い値となります.そのため,並列共振周波数は,直列共振周波数と非常に近い値になります.図3の回路でAC解析を実施します.電流源I1のAC Amplitudeを1とすることで,Z端子の電圧の値がインピーダンスの値と同じになります.
図4は,図3の水晶振動子等価回路のインピーダンス特性のシミュレーション結果です.インピーダンスが最も小さくなっているのが直列共振周波数で,3.997MHzとなっています.また,インピーダンスが最も大きくなっているのが並列共振周波数で4.003MHzです.並列共振周波数と直列共振周波数の間の位相は+90度となっており,この領域はコイルと等価です.それ以外の周波数の位相は-90度となっており,コンデンサと等価になります.
直列共振点と並列共振点の二つがある.
●水晶振動子のシンボル
LTspiceには,図5の左のような水晶振動子のシンボルが用意されています(Misc\Xtal).
シミュレーション上はコンデンサだが,図3の等価回路を表現できる.
シミュレーション上は,コンデンサとして扱われますが,様々な寄生素子を追加することができるため,図3の等価回路を表現することができます.シンボルを右クリックすると,図5の右のようなウィンドウが表示されるので,等価回路の値を設定します.Capacitanceの欄にC2の値を入れ,Series Resistanceの欄に,R1の値を入れます.Series Inductanceの欄にはL1の値を入れ,Parallel Capacitanceの欄にC1の値を入れます.
●水晶振動子を使用した発振回路のループ特性
図6は,CMOSインバータと水晶振動子を使用した発振回路のループ特性調べるための回路です.ループゲインのシミュレーションに,Middlebrook法と呼ばれる手法を使用するため,同じ回路を2種類用意し,それぞれに電圧信号源と電流信号源を加えています.この回路でシミュレーションを実行し,「((I(V3)/I(V4))*(-V(x)/V(y))-1)/((I(V3)/I(V4))+(-V(x)/V(y))+2)」をプロットすることで,ループゲインを表示することができます.
Middlebrook法と呼ばれる手法を使用してループ特性をシミュレーションする.
図7は,図6でMiddlebrook法を使用してシミュレーションしたループ特性です.一般的にMiddlebrook法は,帰還をかけたOPアンプ回路の発振安定性(位相余裕)を調べるために使用されますが,ここでは発振回路が発振するかどうかという観点で使用します.位相が回転し,-180度となって正帰還になる周波数は,水晶振動子の共振周波数よりも若干高い3.9982MHzになっています.この周波数のゲインは54dB程度となっています.そのため,この回路は,この周波数で発振することがわかります.
3.9982MHzで位相が-180度となっており,この周波数で発振する.
●水晶振動子を使用した発振回路の出力
図8は,CMOSインバータと水晶振動子を使用した発振回路を実際に発振させて,出力波形を調べるための回路です.トランジェント解析を行いますが,発振のきっかけを作るために,startupオプションを追加し,電源を0Vから5Vに立ち上げるようにしています.
発振のきっかけを作るために,startupオプションを追加している.
図9は,図8の水晶振動子を使用した発振回路のシミュレーション結果です.時間軸を拡大し,最後の1usを表示したものを重ねて表示しています.電源電圧が立ち上がってもすぐに発振波形は現れず,0.6ms程度経過してから発振振幅が立ち上がっています.「.MEASコマンド」で計算した発振周波数は,エラーログに表示されますが,その結果は3.99796MHzとなっており,図7の発振周波数の結果と近い値になっています.
MEASコマンドで計算した発振周波数は3.99796MHz.
以上,水晶振動子を使用した発振回路について解説しました.今回は水晶振動子を使用した発振回路として最も一般的な,CMOSインバータと組み合わせた回路を取り上げましたが,水晶振動子を使用した発振回路には,トランジスタを使用したコルピッツ発振回路と組み合わせたものもあります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_041.zip
●データ・ファイル内容
Xtal_inp.asc:図3の回路
Xtal_LoopGain.asc:図6の回路
Xtal_LoopGain.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
Xtal_OSC.asc:図8の回路
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