OPアンプのオープン・ループ・ゲインと周波数特性
図1の(A)~(D)の回路を使用して,OPアンプ(AD8691)のオープン・ループ・ゲインの周波数特性をシミュレーションしようとしています.(A)~(D)の中で,オープン・ループ・ゲインをシミュレーションする回路として適切なものはどれでしょうか.
シミュレーションする回路として適切なものはどれ?
OPアンプは,直流領域(低周波領域)で非常に大きなゲインがあります.また,理想OPアンプ以外は,入力オフセット電圧も無視できません.これらのことを考慮すれば,オープン・ループ・ゲインの周波数特性がシミュレーションできる回路はどれかが分かります.
図1の(A)~(C)は,直流ゲインが非常に大きいため,オフセット電圧により,出力が電源電圧まで振りきれてしまいます.そのため,本来のゲインよりも,かなり小さくなってしまいます.(D)は,出力から反転入力端子に100%帰還がかかるため,OPアンプは直流ゲイン1倍で動作します.そのため,出力電圧は,振り切れることがなく,オープン・ループ・ゲインは「-v(X)/v(Y)」という式で計算することができます.
●シミュレーションできない回路
一見すると,図1の(A)や(B)を使用して,シミュレーションができそうですが,実際はできません.それは,LTspiceのシミュレーションで使用するAD8691は,マクロ・モデルとなっており,微小なオフセット電圧が発生します.そのため,オフセット電圧が,OPアンプの直流ゲイン倍され,出力が電源に張り付いてしまうからです.また,(C)は,抵抗(R1,R2)による帰還回路が追加されています.しかし,計算上の直流ゲインが約80dBとなり,これも,出力が電源に張り付いてしまいます.
図2は,図1の(A)~(C)を確認する回路です.電源は±2.5Vとしています.回路図上にOPアンプの出力端子電圧を表示していますが,どの回路も電源に張り付いてしまいます.
図3は,図2のシミュレーション結果です.(A)~(C)の回路は,全てすべてゲインが小さく,オープン・ループ・ゲインがシミュレーションできていません.
●シミュレーションできる回路
図2の回路では,うまくシミュレーションできないことが分かりました.OPアンプのオープン・ループ・ゲインをシミュレーションするためには,OPアンプの出力が飽和しないようにした状態で行う必要があります.そのためには,帰還回路が接続された状態で計算すればよいことになります.
図4は,帰還回路が接続された状態で,OPアンプのオープン・ループ・ゲインやループ・ゲインを計算する原理図です.
帰還回路が接続された状態でゲインを求める.
OPアンプのオープン・ループ・ゲインをAとし,負帰還の係数をβとします.図1の(D)ではβが1となっています.OPアンプの出力v(X)はOPアンプのプラス入力端子とマイナス入力端子の差電圧をA倍したものなので,式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
また,マイナス入力端子の電圧v(Z)は,v(Y)に帰還係数βを掛けたものなので,式2で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2を式1に代入したものが式3です.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
オープン・ループ・ゲインのAは,式1を変形した式4で求めることができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
また,負帰還量を表すループゲインは,3を変形した式5で求めることができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
βが1のときは,オープン・ループ・ゲインとループ・ゲインは等しくなります.
●オープン・ループ・ゲインをLTspiceで確認する
図5は,帰還回路が接続された状態でオープン・ループ・ゲインをシミュレーションできる回路です.図1の(D)と同じ回路です.入力信号源はOPアンプの出力とマイナス入力端子の間に接続されています.
入力信号源はOPアンプの出力とマイナス入力端子の間に接続されている.
図6は,図5のシミュレーション結果です.[Plot Settings]メニューから[Add Trace]を選択し「-v(X)/v(Y)」と打ち込むことでオープン・ループ・ゲインが表示されます.図6より,高周波でのAD8691のオープン・ループ直流ゲインは120dB程度あり,カットオフ周波数は10Hz程度であることが分かります.
直流ゲインは120dB程度あり,カットオフ周波数は10Hz程度.
●帰還回路が構成されたループ・ゲインのシミュレーション
図5は,100%帰還(帰還係数のβが1)の場合のシミュレーションだったため,オープン・ループ・ゲインとループ・ゲインは同じでした.次は帰還回路がある場合の,ループ・ゲインのシミュレーションを行います.
図7は,抵抗(R1,R2)とC1で帰還回路を構成し,ループ・ゲインをシミュレーションする回路です.OPアンプのプラス入力端子に信号を加えた場合は,ゲイン20dBの非反転増幅回路になります.
プラス入力端子に信号を加えた場合は,ゲイン20dBの非反転増幅回路となる.
図8は,図7のシミュレーション結果です.「-v(X)/v(Y)」がループ・ゲインで,「-v(X)/v(Z)」がオープン・ループ・ゲインを表しています.ループ・ゲインはオープン・ループ・ゲインに帰還係数βをかけたものです.図7は,抵抗(R1,R2)の分圧回路で帰還係数が決められており,C1の影響が無視できる低い周波数でβが0.1(-20dB)となっています.そのため,ループ・ゲインはオープン・ループ・ゲインよりも20dB小さい値となっています.オープン・ループ・ゲインは図6とまったく同じ結果です.
ループ・ゲインはオープン・ループ・ゲインよりも20dB小さい.
以上,OPアンプのオープン・ループ・ゲインおよびループ・ゲインをシミュレーションで確認する方法を解説しました.また,今回紹介した方法は,OPアンプの出力インピーダンスが大きい場合,シミュレーション結果に誤差が発生する可能性があります.そのような誤差を少なくする解析手法として『Middlebrook法』というものがあります.LTspiceXVIIの「\LTspiceXVII\examples\Educational」フォルダーの中の,LoopGain.ascというファイルが解析事例となっていますので,興味のある方は参考にしてください.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_040.zip
●データ・ファイル内容
OpenL_G_A-C.asc:図2の回路
OpenL_G_D.asc:図5の回路
OpenL_G_D.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
OpenL_G_NF.asc:図5の回路
OpenL_G_NF.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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