非反転アンプの入力抵抗
図1は,ゲインが10倍の非反転アンプの回路です.OPアンプは,周波数が高くなるとオープン・ループ・ゲインが低くなる特性があるので,ゲインを低周波で100dBとします.また,2つの入力端子間の差動入力抵抗(Rd)は,1MΩで,グラウンド間にある同相入力抵抗(Rc+,Rc-)が1GΩです.
図1の回路定数のとき,IN端子からグラウンド間にみえる入力抵抗(zi)は,次の(a)~(d)のどれでしょうか.
入力抵抗はいくらか?
(a) 1MΩ (b) 1GΩ (c) 909MΩ (d) 500MΩ
図1の非反転アンプの入力抵抗は,負帰還の効果により高くなった差動入力抵抗とグラウンド間にある同相入力抵抗の並列で表せます.差動入力抵抗は,OPアンプのオープン・ループ・ゲイン(A)と負帰還の帰還率(β)に関係して変化します.
非反転アンプのとき,OPアンプの差動入力抵抗(Rd)は,負帰還のループ・ゲイン(Aβ)倍となります.また,非反転端子とグラウンド間に同相入力抵抗(Rc+)があることから,この2つの並列抵抗となります.非反転アンプの入力抵抗は式1となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
オープン・ループ・ゲイン(A)は100dB(=100000倍),帰還率(β)は1/10倍,差動入力抵抗(Rd)は1MΩ,非反転端子の同相入力抵抗(Rc+)は1GΩです.これらを式1へ入れると式2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
この計算より,非反転アンプの入力抵抗は,低周波で909MΩとなります.
●OPアンプの差動入力抵抗と同相入力抵抗について
図2(a)は,OPアンプの入力段に用いられる差動対の回路です.図2(b)は,差動入力抵抗と同相入力抵抗で表したOPアンプの入力段です.バイポーラ差動対にはベース電流があり,非反転端子と反転端子の小信号電圧の変化により,ベース電流の変化が生まれます.これが,差動入力抵抗(Rd)となります.また,非反転端子と反転端子に同相信号が印加されたときは,差動対のテール電流源の出力抵抗(RTAIL)が有限値のため,ベース電流が変化して同相入力抵抗(Rc+,Rc-)となります.回路以外で考えると,パッケージのピン間容量や,基板に対しての寄生容量,リーク電流なども加えられます.図1では計算しやすいように差動入力抵抗(Rd)を1MΩ,同相入力抵抗(Rc+,Rc-)を1GΩとしました.
(a) NPN差動対とテール電流で表したOPアンプの入力段回路
(b) 低周波の差動入力抵抗と同相入力抵抗のみで表した,OPアンプの入力段等価回路
●非反転アンプの入力抵抗
図3は,非反転アンプの入力抵抗を計算するため,差動入力抵抗(Rd)と,同相入力抵抗(Rc+,Rc-)をOPアンプの外に出した回路です.
図4は,図3のOPアンプ出力を電圧源で置き換えた等価回路です.図3の反転端子側のR1とRc-は並列です.また,図1の回路定数が「R1<<Rc-」の大小関係であることから,この並列の抵抗は,R1とみなせます.よって,図4ではRc-を無視し,R1のみとしています.
反転端子側のRc-は「R1<<Rc-」のため無視している.
そこで,ここでは,図4を用いて非反転アンプの入力抵抗を求めます.図4のε(s)は,OPアンプの非反転端子と反転端子間の電圧差であり,式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
図4の等価回路に流れる各電流を求めます.R1に流れる電流(i1)は,抵抗の両端にかかる電圧と抵抗値より,式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
R2に流れる電流(i2)は,式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
Rdに流れる電流(i3)は,式6となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
Rc+に流れる電流(i4)は,式7となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
負帰還回路の帰還率(β)は式8となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
式3から式8を用いて「ii(s)/vi(s)」を求めると,式9となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
式9より,非反転アンプの入力抵抗(zi)は式10となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
ここで「A(s)β>>1」ですので,式11の近似ができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)
また「(A(s)β+1)Rd>>(R1||R2)」ですので,式12の近似ができます.
・・・・・・・・・・・・・・・(12)
式10を,式11と式12の近似を使って整理したものが,式1となります.
●非反転アンプの入力抵抗をLTspiceで確認する
図5は,図1の非反転アンプの入力抵抗をシミュレーションする回路です.OPアンプは,図1のマクロモデルを使用し「.param Ao=100 fp1=1」を指定すると,オープン・ループ・ゲインが低周波で100dBで,周波数特性の 1st poleが1Hzになります.シミュレーションは,AC解析をおこない,IN端子からみた入力抵抗「V(in)/I(V1)」をプロットします.
AC解析で入力抵抗の周波数特性をシミュレーションする.
図6は,図5のシミュレーション結果です.式1の入力抵抗はループ・ゲイン(Aβ)に依存しますので,周波数が高くなるとOPアンプのオープン・ループ・ゲインが小さくなることから,入力抵抗も周波数特性を持つことが分かります.また,入力抵抗は,低周波での909MΩであり,解答の計算と一致します.
低周波の入力抵抗は計算値と一致する.
以上,解説したように,非反転アンプの入力抵抗は,ループ・ゲイン倍したOPアンプの差動入力抵抗と,同相入力抵抗の並列抵抗となります.低周波においては,ループ・ゲインが大きいため,OPアンプの差動入力抵抗は負帰還の効果により増大します.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_039.zip
●データ・ファイル内容
Non_Inv_Amp_Zin.asc:図5の回路
Ideal_OP1.asc:OPアンプのサブサーキット
Ideal_OP1.asy:OPアンプのシンボル
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