負帰還による出力抵抗低減効果



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■問題
アナログ回路の基礎 ― 中級

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,大電流出力が可能なOPアンプを使った電源回路です.1Vの基準電圧(Vref)を使用し,出力電圧5Vの電源を構成しています.使用しているOPアンプのゲインは,500倍(54dB)とします.OPアンプの出力端子からOut端子までのプリント基板の配線抵抗は,200mΩです.また,帰還抵抗(R2)は,Out端子とOPアンプの反転入力端子に接続されています.
 そこで,この電源で負荷電流(ILoad)が0Aから5Aに変化したときの,Out端子の電圧変化は,次の(A)~(D)のどれでしょうか.ただし,大電流出力OPアンプ自体の出力抵抗は,十分小さいものとします.


図1 大電流出力が可能なOPアンプを使った電源回路
負荷電流(ILoad)が0から5Aに変化したときのOut端子の電圧変化は?

(A) 1V (B) 200mV (C) 10mV (D) 2mV


■ヒント

 図1の回路は,Out端子から負帰還がかかっています.負帰還には,出力抵抗を低減する効果があります.負帰還がかかった状態での出力抵抗の値を計算し,負荷電流を乗じれば電圧降下の大きさが分かります.


■解答


(C) 10mV

 負帰還がかかった状態の出力抵抗は,OPアンプのゲインをA,帰還係数をβとすると,もともとの出力抵抗の1/(1+A*β)になります.図1では「A=500,β=1/5」なので,もとの出力抵抗の1/101になります.もとの出力抵抗が200mΩなので,帰還がかかった状態の出力抵抗は,約2mΩです.負荷電流が5A流れると「2mΩ*5A=10mV」の電圧降下が発生します.これがOut端子の電圧変化量なので,正解は,(C)の10mVということになります.

■解説

●帰還OPアンプの出力抵抗を計算する
 図2は,負帰還のかかった増幅回路の出力抵抗を計算するための回路図です.OPアンプのオープン・ループ・ゲインをAとし,出力抵抗をROとします.また,Out端子から反転入力端子に帰還する帰還係数をβとします.


図2 帰還OPアンプの出力抵抗を計算するための回路
出力にioutという電流を流し込んだときの出力電圧をvoutとする.

 ここで,Out端子にioutという電流を流し込んだときの,Out端子の電圧をvoutとします.帰還回路に電流が流れないものとすると,ROには,ioutという電流が流れます.このときvoutは,式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 また,OPアンプ出力のvopは,式2になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 ここで「vin=0」として,式1,式2からvoutを求めたものが式3です.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 Out端子から見た出力抵抗(Rout)は,式4で計算することができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 式4から分かるように,負帰還をかけることで出力抵抗を1/(1*βA)にすることができます.

●電源回路の出力抵抗を計算する
 図1の帰還回路は,R1とR2の分圧回路で構成されています.このとき帰還係数βは,式5で計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 出力抵抗は,式6で計算することができ,200mΩの1/101で約2mΩになります.

・・・・・・・・・・・・・・(6)

 出力電流(ILoad)が0Aから5Aに変化したときの出力電圧変化(ΔV)は,式7のように10mVになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

●出力電圧の変化をLTspiceで確認する
 図3が負荷電流が変化したときの出力電圧の変化をシミュレーションするための回路です.図3(a)は,配線抵抗(ROX)が負帰還の外側にあります.図3(b)は,配線抵抗(RO)が負帰還の内側にあります.使用しているOPアンプは,電圧制御電圧源を使用したサブサーキットで,ゲインをAというパラメータで変更できるようにしてあります.出力電流は「PWLコマンド」で,1msecまで0Aで,1.1msecから5Aに増加するように設定しています.


図3 負荷電流が変化したときの出力電圧の変化をシミュレーションするための回路
図3(a)は,配線抵抗(ROX)が負帰還の外側にあり,図3(b)は,配線抵抗(RO)が負帰還の内側にある.

 図4図3の負荷電流が変化したときの,出力電圧変化のシミュレーション結果です.下段の図3(a)の回路の出力電圧は,電流が5Aになると1V電圧が低下しています.図3(b)の回路の出力電圧は,負帰還による出力抵抗低減効果により10mVしか低下していません.この電圧は,式7で計算したものと同じです.


図4 図3の負荷電流が変化したときの,出力電圧変化のシミュレーション結果
図3(b)は,配線抵抗を負帰還の中にしたので,電圧ドロップが10mVと非常に小さい.

●出力抵抗をLTspiceで確認する
 図5は,OPアンプのゲインを変えたときの出力抵抗をシミュレーションするための回路です.帰還係数βが1となっているため,理論上の出力抵抗は「Rout=RO/(1+A)」になります.ROは,分かりやすくするため1Ωとしています.Out端子に1A相当のAC信号電流を加えているので,Out端子の電圧の値が出力抵抗の値と同じになります.OPアンプのゲイン(A)を「.stepコマンド」で1から1000まで変化させ,それぞれの1kHzのときの出力電圧を「.mearsコマンド」でRという変数に格納しグラフ化します.


図5 OPアンプのゲインを変えたときの出力抵抗をシミュレーションするための回路
Out端子にAC信号電流を加え,Out端子の電圧を読み取る.

 図6は,図5のOPアンプのゲインを変えたときの出力抵抗のグラフです.解析終了後「SPICE Error Log」を表示し,そのウィンドウで右クリックして表示されたメニューからグラフを描画します.ゲインが1のとき0.5Ωで,ゲインが大きくなるほど0に近づいていくことが分かります.


図6 図5のOPアンプのゲインを変えたときの出力抵抗
ゲインが1のときは0.5Ωで,ゲインが大きくなるほど0に近づく.

 以上,負帰還による出力抵抗低減効果について解説しました.負帰還用の信号の取り出し位置を,実際に負荷が接続されている場所にすることで,配線抵抗等の影響を軽減することができます.この技術をリモート・センシングと呼ぶことがあります.リモート・センシングは,配線抵抗による電圧ドロップを補償することができます.しかし,OPアンプ出力から負荷接続ポイントまでの間に,大きなインダクタンスや容量成分がある場合,負帰還が不安定になることがあるので注意が必要です.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_036.zip

●データ・ファイル内容
NFB_R.asc:図3の回路
EAmp.asy:図3の回路で使用しているOPアンプのシンボル
EAmp.asc:図3の回路で使用しているOPアンプのサブサーキット
NFB_R_A.asc:図5の回路

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