容量値が大きいフォト・ダイオードの電流電圧変換回路
図1の(A)~(D)は,高感度なセンサなどに利用される,3000pFと容量値が大きい,大面積なフォト・ダイオード(PD)用の電流電圧変換回路です.PDの出力電流を電圧に変換し,出力電流に比例した電圧をOUT端子に出力します.Nチャンネル・ジャンクションFET(J1)は,この回路の周波数特性を改善する働きをします.J1のゲート・ソース電圧が0Vのときのドレイン電流(IDSS)は13mAです.図1の(A)~(D)の中で,正しくOUT端子に電圧が出力される回路ははどれでしょうか.
正しくOUT端子に電圧が出力される回路ははどれ?
図1で正しくOUT端子に電圧が出力される回路は,Nチャンネル・ジャンクションFET(J1)がブートストラップ動作により,フォト・ダイオードの容量を見かけ上小さくする働きをします.(A)~(D)の回路の中で,J1が正常にブートストラップ動作をする回路はどれかということを考えれば,答えが分かります.
図1の回路(A)~(D)でJ1がブートストラップとして動作する接続となっているのは(B)と(C)です.J1は,ソース・フォロアとして動作しますが,IDSSが13mAとなっているため,ソースの電圧はGNDよりも高くなります.そのため(B)はフォト・ダイオードが順バイアスとなって電流がOPアンプの入力に流れ込むため,OPアンプの出力が飽和してしまします.(C)は,フォト・ダイオードが逆バイアスととなり,J1は正常にブートストラップとして働きます.
●一般的な面積の小さなフォト・ダイオードの電流電圧変換回路
図2は,基本的なフォト・ダイオード用の電流電圧変換回路です.一般的な面積の小さなフォト・ダイオードの場合はこの回路が使用されます.
面積の小さなフォト・ダイオードの場合はこの回路が使用される.
フォト・ダイオードの電流をIPDとするとOUT端子の電圧は式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
また,Cfは,フォト・ダイオードの容量(CPD)により,OPアンプが発振してしまうことを防止するためのコンデンサです.OPアンプのゲイン帯域幅積をGBWとすると,Cfの容量値は式2のように決定します.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
例としてCPDが10pFでGBWを50MHzとすると,Cfは式3のように0.18pF以上とすればよいことになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
一方,CPDが3000pFの場合はCfは式4のように3pF以上とする必要があります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
図3は,基本的なフォト・ダイオード用電流電圧変換回路の周波数特性をシミュレーションするための回路です.フォト・ダイオードの容量値(CPD)とCfの値を「.stepコマンド」で「CPD=10p,Cf=0.3p」,「CPD=3000p,Cf=0.3p」,「CPD=3000p,Cf=3p」と3通りに変えて周波数特性をシミュレーションします.
フォト・ダイオードの容量値(CPD)とCfの値を変えて周波数特性をシミュレーションする.
図4は,基本的なフォト・ダイオード用電流電圧変換回路の周波数特性のシミュレーション結果です.CPDの値が10pFのときは,Cfの値を0.3pFとすることでピーク無く,高域のカットオフ周波数は1.3MHz程度まで伸びています.CPDの値が3000pFのときにCfの値を0.3pFとすると,大きなピークが発生しており,OPアンプが発振してしまうことが分かります.Cfの値を3pFとすれば,ピークは無くなりますが,高域のカットオフ周波数は80kHz程度となっています.
CPDの値が3000pFのときはカットオフ周波数が80kHz程度となっている.
●ジャンクションFETによるブートストラップの効果
図5は,図1の(C)で使用されている,ジャンクションFETによるブートストラップの効果を確認するための回路です.
ハイカット・フィルタのカットオフ周波数特性を比較する.
抵抗とコンデンサによりハイカット・フィルタを構成し,通常のハイカット・フィルタとジャンクションFETによるブートストラップを使用したハイカット・フィルタのカットオフ周波数特性を比較します.図5左のR1とCPD1によるハイカット・フィルタのカットオフ周波数は,式5のように1kHzに設定してあります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
図5右のジャンクションFETは,ソース・フォロアとなっており,バッファ・アンプとして動作します.ゲート端子(OUT2)からソース端子(S)までのゲインをKとします.ソース・フォロアなので,Kは1よりも小さくなります.CPD2の片側はGNDではなく,バッファアンプの出力であるソース端子に接続されています.このように接続したものをブート・ストラップと呼びます.
CPD2の両端に加わる電圧はOUT2(1-K)となり,仮にKが0.9であれば,OUT2の1/10の電圧になります.コンデンサに加わる電圧が1/10になればコンデンサに流れる電流も1/10になります.これは1/10の容量値のコンデンサと等価な働きをします.つまり,ジャンクションFETによるブートストラップにより,見かけ上のコンデンサの容量値を小さくすることができます.
図6は,図5のシミュレーション結果です.通常のハイカット・フィルタのカットオフ周波数が1kHzなのに対し,ブートストラップを使用したハイカット・フィルタのカットオフ周波数は18kHzになっています.これはCPD2の容量値が見かけ上1/18になっていることを表しています.
ブートストラップを使用したハイカット・フィルタのカットオフ周波数は18kHz.
●ジャンクションFETによるブートストラップの直流動作点
図7は,ジャンクションFETによるブートストラップを使用した電流電圧変換回路の直流動作点をシミュレーションするための回路です.ジャンクションFETによるブートストラップを使用する場合,フォト・ダイオードを接続する向きに注意する必要があります.図7上の回路はフォト・ダイオードを正しい向きで接続したものです.
J1のソースの電圧は1.37Vとなっており,PDは逆バイアスで動作します.そのため光が当たっていないときのOPアンプの出力電圧は,-8μVとほぼGND電位になっています.一方,図7下の回路はフォト・ダイオードの向きが不適切なため,OPアンプの出力電圧は-5Vに張り付いてしまっています.
下の回路はPDの向きが不適切なため,OPアンプの出力が飽和している.
●ブートストラップを使用した電流電圧変換回路の周波数特性
図8は,ジャンクションFETによるブートストラップを使用した電流電圧変換回路の周波数特性をシミュレーションするための回路です.ブートストラップが無い場合は式4のようにCfの値は3pF以上とする必要がありますが,図8では1/10の0.3pFにしています.
ブートストラップを使用しているため,Cfの値は0.3pFと小さくなっている.
図9は,ブートストラップを使用した電流電圧変換回路の周波数特性のシュミレーション結果です.高域のカットオフ周波数は260kHz程度まで伸びており,図3の回路の3倍以上となっています.
高域のカットオフ周波数は260kHz程度まで伸びている.
以上,ブートストラップを使用した大面積フォト・ダイオード用の電流電圧変換回路について解説しました.ブートストラップ技術は今回紹介した用途以外でも,さまざまな応用が可能です.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_026.zip
●データ・ファイル内容
Pd_IVamp.asc:図3の回路
JFET_Bts.asc:図5の回路
JFET_Bts_IVamp_DC.asc:図7の回路
JFET_Bts_IVamp_AC.asc:図8の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs