OPアンプを使った信号のスイッチ回路



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■問題
アナログ回路の基礎 ― 中級

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,OPアンプ(U1)と抵抗(R1,R2)とNチャネルJFET(J1,J2)を使い,IN端子からOUT端子への信号をON/OFFするスイッチ回路です.この回路において,IN端子に振幅2Vの正弦波を印加したとき,スイッチのコントロール電圧(VC1,VC2)とOUT端子の出力振幅(VOUT)の関係は,次の(a)~(d)のどれでしょうか.なお,NチャネルJFETは,オン抵抗が120Ω,オフ抵抗が1GΩ以上で,VGS(OFF)が最大で-3Vのデバイスです.また,スイッチのコントロール電圧(VC1,VC2)は,High側が+5V,Low側が-5Vを印加して制御します.


図1 IN端子からOUT端子への信号をON/OFFするスイッチ回路

(a) VC1=+5V,VC2=-5Vのとき,VOUT=1V
(b) VC1=-5V,VC2=+5Vのとき,VOUT=1V
(c) VC1=+5V,VC2=-5Vのとき,VOUT=1.06V
(d) VC1=-5V,VC2=+5Vのとき,VOUT=1.06V

■ヒント

 図1は,スイッチのコントロール電圧(VC1,VC2)を適切に与えると,OUT端子に信号が「伝わる/伝わらない」の2つの状態となります.NチャネルJFETの特徴は,ゲート・ソース電圧(VGS)が0Vのとき,最大の電流となります.また,ゲート・ソース電圧を負にすることで,ドレイン電流が減るデプレッション型となります.VGS(OFF)は,ドレイン電流(ID)がゼロになる電圧を表します.2つのJFETはスイッチとして働き,各々のJFETのON/OFFにより回路の接続が変るため,そのときの回路動作より解答を求めることができます.


■解答


(b) VC1=-5V,VC2=+5Vのとき,VOUT=1V

 図1のNチャネルJFETは,スイッチのコントロール電圧(VC1,VC2)が+5VのときONし,-5VのときOFFとなります.「VC1=+5V,VC2=-5V」のときJ1がON,J2がOFFとなり,OPアンプ(U1)は,0Vを出力するボルテージ・ホロワ回路となります.よって,OUT端子は,0Vなので,IN端子からの信号はOUT端子に伝わりません.「VC1=-5V,VC2=+5V」のとき,J1がOFF,J2がONとなり,OPアンプの反転端子(-端子)はバーチャル・グラウンドなので,R2の一端がGNDとなります.この場合,IN端子からの信号は,同じ抵抗値であるR1とR2の分圧回路を通り出力されます.なので,IN端子に印加した2Vの信号は,1Vとなって出力端子に現れます.よって,解答は(b)となります.


■解説

●NチャネルJFETを1素子使った,簡単なスイッチ回路
 図2は,スイッチ1つを使った簡単な信号ON/OFF回路のブロック図です.SWがOFFのとき,IN端子に入力した信号は,R1とR2の分圧回路を通り,出力に信号が現れます.SWがONのとき,OUT端子は常に0Vとなり,信号はOFFとなる簡単なスイッチ回路です.


図2 スイッチで信号をON/OFFする簡単なスイッチ回路

 図3は,図2のスイッチをNチャネルJFETで実装した回路です.NチャネルJFETは,デプレッション型であり,ゲート・ソース間の電圧がVGS(OFF)の電圧より低くなるとJ1がOFFとなります.このときの出力端子の電圧は,J1のオフ抵抗をROFFとすれば,式1となり,ROFFは1GΩ以上なので無視できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 NチャネルJFETは,ゲート・ソース間の電圧が0Vに近づくと,スイッチがONとなります.実際にはスイッチのコントロール電圧(VC)を+5Vにすることにより,ダイオードD1が逆バイアスとなり,ゲートがオープンとなって,ドレインとソース間のオン抵抗は,最小値になります.このときの出力端子の電圧は,J1のオン抵抗をRONとすれば,式2となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 NチャネルJFETのオン抵抗は有限であり0Ωではありません.スイッチに使用した2N5484のオン抵抗を調べると120Ωです.このことから,R2とJFETのオン抵抗の並列抵抗(R2||RON)があるため,OUT端子は完全にOFFにならず,僅かに信号が現れます.


図3 図2のスイッチをJFETで実装した回路

 図4は,図3のシミュレーション結果です.図3はIN端子へ周波数1kHz,振幅2Vの信号を印加しています.J1がOFFのとき,同じ抵抗値(R1=R2=1kΩ)の分圧回路なので,式1のようにOUT端子は振幅1Vの信号が現れます.J1がONのとき,OUT端子に信号が伝わらないのが理想ですが,NチャネルJFETのオン抵抗があるため,式2のように信号がOFFにならないことが分かります.


図4 図3のシミュレーション結果

●JFETを2素子使い,信号をON/OFFするスイッチ回路
 図5は,スイッチ2つを使い,信号をON/OFFするスイッチ回路のブロック図です.SW1がOFF,SW2がONのとき,OPアンプ(U1)の反転端子(-端子)はバーチャル・グラウンドなので,R2の一端がグラウンドとなり,R1とR2の分圧回路を通った信号がOUT端子に現れます.SW1がON,SW2がOFFのとき,0Vを出力するボルテージ・ホロワ回路となり,OUT端子は常に0Vとなるため,IN端子の電圧はOUT端子に現れません.


図5 2つのスイッチで信号をON/OFFするスイッチ回路

 図6は,図5の2つのスイッチをNチャネルJFET(J1,J2)で実装した回路です.NチャネルJFETにはオン抵抗がありますが,負帰還の効果により反転端子(-端子)はバーチャル・グラウンドであること,また,OPアンプの入力バイアス電流は少ないことから,オン抵抗は無視できます.


図6 図5のスイッチをJFETで実装した回路

 図7は,図6のシミュレーション結果です.図6は,図3と同様に,IN端子へ周波数1kHz,振幅2Vの信号を印加しています.コントロール電圧(VC1,VC2)によりNチャネルJFETのON/OFFを制御し,J1がOFF,J2がONのときOUT端子の信号は,振幅1Vになるのが分かります.また,J1がON,J2がOFFのとき,OUT端子は0Vになり信号は現れません.


図7 図6のシミュレーション結果

●反転アンプへの応用
 図8は,反転アンプへスイッチ回路を実装し,増幅した信号をON/OFFする回路です.


図8 反転アンプへスイッチ回路を実装した例

 図9は,図8のシミュレーション結果です.入力信号(V1)は,周波数1kHz,振幅0.5Vの正弦波を印加しています.J1がON,J2がOFFのとき,信号ゲインが2倍の反転アンプとして機能し,OUT端子には振幅1Vの信号が現れます.J1がOFF,J2がONのとき,OPアンプ(U1)の出力は0Vとなり,OUT端子に信号は現れないため,出力信号のON/OFF機能がついた反転アンプとなります.


図9 図8のシミュレーション結果

 このように,OPアンプの負帰還を利用した信号をON/OFFするスイッチ回路は,オン抵抗の影響が少なくなります.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_021.zip

●データ・ファイル内容
JFET_SW.asc:図3の回路
Analog_SW.asc:図6の回路
Inv_Amp_with_Analog_Switch.asc:図9の回路

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