反転増幅回路のゲイン
図1は,OPアンプを使用した反転増幅回路です.20kΩの抵抗R1と10kΩの抵抗R2で帰還回路を構成しています.通常,OPアンプのオープン・ループ・ゲインは非常に大きいのですが,図1のOPアンプのオープン・ループ・ゲインは1倍(0dB)となっています.この反転増幅回路の入力(in)から出力(out)までのゲインは,下の(A)~(D)のどれでしょうか.
なお,ゲインが負の数字になっているのは入力と出力の位相が反転することを表しています.
この反転増幅回路の入力(in)から出力(out)までのゲインは?
図1のOPアンプは+入力(非反転端子)と-入力(反転端子)の差電圧をオープン・ループ・ゲイン倍します.また,-入力端子の信号は,出力電圧と入力電圧の差電圧を,抵抗R1とR2で分圧したものに入力電圧を足したものです.これらの関係から式を立てれば,入力(in)から出力(out)までのゲインを計算することができます.
図1の反転増幅回路のゲイン(G)は,OPアンプのオープン・ループ・ゲインを1とすると「G=-R1/(R1+2R2)」で計算することができます.図1の定数を代入すると「G=-20k/(20k+2*10k)=-0.5」となり,ゲインは,-0.5倍になり,正解は(C)になります.
●反転増幅回路のゲインを計算する
図2は,反転増幅回路のゲインを計算するためのブロック図です.OPアンプの-入力端子に加わる電圧をmとし,OPアンプのオープン・ループ・ゲインをAとしてinからoutまでのゲインを計算します.
OPアンプの反転入力端子に加わる電圧をmとし,オープン・ループ・ゲインをAとする.
-入力端子の電圧(m)は,OPアンプの出力電圧(out)と入力電圧(in)の差電圧をR1とR2で分圧したものに入力電圧を足したもので,式1で計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
OPアンプの出力電圧(out)は,+入力端子の電圧から反転入力端子の電圧(m)を引いたものを,オープン・ループ・ゲイン(A)倍することで求められます.図2では,+入力端子はGNDに接続されているため,outは式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式1を式2に代入すると式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式3をoutに対して解くと式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
ゲイン(G)は出力電圧を入力電圧で割ったものなので式4から式5のように求められます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5が図2の非反転増幅回路のゲインということになります.ここで,図1の定数でのゲインを計算してみます.
・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6から,図1のゲインは-0.5倍となることが分かります.
●反転増幅回路のゲインをシミュレーションする
図3は,図1の反転増幅回路のゲインをシミュレーションするための回路です.OPアンプの部分は簡単にゲインを設定できる電圧制御電圧源を使用しています.
OPアンプの部分は簡単にゲインを設定できる電圧制御電圧源を使用.
図4は,図3のシミュレーション結果です.V(out)は0.5Vとなっており,ゲインが式6で計算したように0.5倍となっていることが分かります.また,出力の位相も180度反転していることが分かります.
ゲインは0.5倍で位相が反転していることが分かる.
●反転増幅回路のゲインとオープン・ループ・ゲイン
非反転増幅回路のゲインは式5で表されますが,オープン・ループ・ゲインが十分大きく無限大とみなすと,(R1+R2)/Aは0となるため,式7のように変形できます.つまり,ゲインはR1とR2の比で計算することができます.通常OPアンプのオープン・ループ・ゲインは十分に大きいため,一般的にはこの式7が反転増幅回路のゲイン計算に使用されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
図5は,オープン・ループ・ゲインを変えたときの,反転増幅回路のゲインをシミュレーションするための回路です.R1が20kΩでR2が10kΩとなっているため,式6を使用して計算したゲインは2倍(6dB)となります.電圧制御電圧源のゲインをAという変数にして「.stepコマンド」で1倍(0dB)から10000倍(80dB)まで変化させてAC解析を行います.そして「.mearsコマンド」で1kHzのときのゲインをGという変数に格納します.「.mearsコマンド」の結果はCtrl+Lでエラーログを表示させ,マウス右クリックして表示されたメニューからグラフ表示させることができます.
オープン・ループ・ゲインは.stepコマンドで0dBから80dBまで変化させる.
図6がオープン・ループ・ゲインを変えたときの非反転増幅回路のゲインのシミュレーション結果です.オープン・ループ・ゲインが40dB以上あれば,式6を使用して計算したゲインである2倍(6dB)とほとんど同じになることが分かります.
オープン・ループ・ゲインが80dB以上あれば,計算式とほとんど同じ値.
●非反転増幅回路と反転増幅回路の特性
非反転増幅回路の動作に関しては「IoT時代のLTspiceアナログ回路入門 018 ―― 非反転増幅回路のゲイン」で解説しました.非反転増幅回路と反転増幅回路の最も大きな特性の違いは,入力電圧と出力電圧の位相です.そこで,それぞれの増幅回路の入力に正弦波を加えたときの,出力波形をトランジェント解析により,シミュレーションしてみます.
図7は,OPアンプの代わりにゲイン80dBの電圧制御電圧源を使用し,ともにゲイン20dBに設定した非反転増幅回路と反転増幅回路です.入力として0.2VPPで1kHzの正弦波を加えたときの出力をシミュレーションします.
入力として0.2VPPで1kHzの正弦波を加え出力をシミュレーション.
図8が図7のシミュレーション結果です.出力レベルは非反転増幅回路と反転増幅回路,ともに入力の10倍の2VPPとなっています.名称からも分かりますが,非反転増幅回路の出力は入力と同位相となっており,反転増幅回路の出力は入力とは逆位相になっています.
非反転増幅回路の出力は入力と同位相で,反転増幅回路は逆位相.
表1は,非反転増幅回路と反転増幅回路の特徴をまとめたものです.用途にあわせてどちらの増幅回路を使用するか選択することになりますが,一般的には大きな入力抵抗が必要な用途では非反転増幅回路を使用し,出力の位相を反転させたい時等に,反転増幅回路を使用します.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_020.zip
●データ・ファイル内容
inverting_0dB.asc:図3の回路
inverting_stepG.asc:図5の回路
noninverting_inverting.asc:図7の回路
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