カレント・ミラー回路を使用した最大値検出回路
図1は,OPアンプ(U1,U2)と抵抗(R1,R2,R3,R4,R5)とダイオード(D1,D2)を用いた最大値検出回路で,端子IN1とIN2の入力電圧(VIN1とVIN2)の高い方を出力します.
図1が正しく動作するR5の抵抗値は,(a)~(d)のどれでしょうか.なお,この回路の抵抗値の関係は「R1=R3」,「R2=R4」とし,OPアンプは理想とします.
OPアンプ(U1)と抵抗(R2,R4)で構成する回路は,カレント・ミラー回路として働き,R2に流れる電流は,R2/R4のカレント・ミラー比でR4に流れます.OPアンプの2つの入力端子はバーチャル・ショートなので,R1とR3に流れる電流は,2つの入力電圧(VIN1,VIN2)に依存します.ダイオード(D1,D2)はスイッチとして働き,R3とR4の接続ノードからダイオード側に流れる電流の向きにより,回路の状態が変わります.以上の動作により,D1がオン(導通)で,D2がオフ(非導通)の状態より求まります.
OPアンプ(U1)と抵抗(R2,R4)で構成する回路は,OPアンプの2つの入力端子はバーチャル・ショートなので,R2とR4の両端の電圧は同じになります.また,R2に流れる電流は,R1に流れる電流かつ「R2=R4」の関係より,R1に流れる電流がR4に流れるカレント・ミラー回路となります.さらに,R1とR3に流れる電流は,抵抗の一端がバーチャル・ショートで同じ電圧なので,「R1=R3」とすれば,VIN1とVIN2の入力電圧に比例して変化します.
この電流の動きにより,VIN1>VIN2のとき,D2からR3とR4の接続ノードへ向かって電流が流れ,D1のダイオードがオフとなり,R5に電流は流れません.なので,VIN1の電圧の方が高いときは,VIN1の電圧がOPアンプU2のボルテージ・フォロワ回路を通って出力電圧となります.また,VIN1<VIN2のとき,R3とR4の接続ノードからD1のダイオードを通ってR5に「(VIN2-VIN1)/R1」の電流が流れます.
さらに,R5をR1と同じ値に設定すれば,R5の電圧降下は「VIN2-VIN1」となります.このときの出力電圧は,「VOUT=VIN1+(VIN2-VIN1)=VIN2」であり,VIN2の電圧の方が高いとき,出力電圧はVIN2となります.よって,解答は(c)のR1となります.以上の回路動作より,2入力のうち,どちらか高い方の電圧を出力する最大値検出回路となります.
●OPアンプを使ったカレント・ミラー回路について
図1の回路中に使われているOPアンプを使ったカレント・ミラー回路から解説します.図2は図1からカレント・ミラーとなる回路を抜き出しました.OPアンプを使ったカレント・ミラー回路は,バーチャル・ショートにより,R2とR4の2つの抵抗の両端の電圧差が等しくなることを利用し,R2側に流れる電流を鏡(ミラー)の様にR4側にも流します.
図2の記号を用いて,入力電流(I1)が流れたとき,負荷抵抗に流れる電流(IL)を計算し,カレント・ミラー回路の動作を確かめます.OPアンプの2つの入力端子はバーチャル・ショートで同じ電圧となり,この電圧をVO,OPアンプの出力電圧をVaとします.カレント・ミラーの入力側は式1の関係が成り立ちます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
また,カレント・ミラーの出力側は式2の関係が成り立ちます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式1と式2より,負荷電流(IL)は式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式3より,R2とR4でミラー比を調整できるカレント・ミラー回路であることが分かります.図1の回路は「R2=R4」なので,ミラー比が1のカレント・ミラー回路として動作します.
●カレント・ミラー回路をLTspiceで確認する
カレント・ミラー回路は,電流源なので,負荷抵抗の変化で負荷電流が変わらないことを調べるため,図2では「.stepコマンド」で負荷抵抗を100Ω,1kΩ,10kΩと変化させました.
図3がシミュレーション結果です.3種類の負荷抵抗に対し,入力電流-出力電流の特性をプロットしました.「R2=R4」としており,ミラー比が1で動作していることが分かります.また負荷抵抗を変化させても出力電流の変化が無い,電流源であることが分かります.
●2入力の最大値検出回路の解析
図4は,回路解析のため,カレント・ミラー回路の出力電圧(VO)と電流(I1,I2,I3,IL)の記号を加えました.これらの記号を使い,回路の解析をします.抵抗値は「R1=R3=R5=1kΩ」,「R2=R4=1kΩ」としました.
カレント・ミラー回路の出力電圧となるVOは,OPアンプのバーチャル・ショートの電圧でもあり,IN1端子の電圧とR1の抵抗より,流れる電流は式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
同様に,IN2端子の電圧とR3の抵抗より,流れる電流は式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
負荷電流(IL)はキルヒホッフの電流則より,式6となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
カレント・ミラー回路の入力側は式4を使うと,式7が成り立ちます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
同様に,カレント・ミラー回路の出力側は,式5と式6を使うと,式8が成り立ちます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
式7と式8より,負荷電流(IL)は式9となります.このように負荷電流(IL)は,2つの入力電圧の差とR1の抵抗で決まります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
2つの入力端子の電圧の関係がVIN1<VIN2のとき,負荷電流(IL)はD1のダイオードを通り,R5に電圧降下を発生します.このときの出力電圧(VOUT)は式10となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
解答のように「R5=R1」とすれば,VIN1<VIN2のとき,出力電圧は式11となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)
VIN1>VIN2のとき,負荷電流はD2側から流れ,D1はオフします.よってR5の電圧降下はゼロとなり,式12となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)
以上のように,2つの入力電圧のうち,高い電圧を出力する最大値検出回路として動作します.
●2入力の最大値検出回路をLTspiceで確認する
図5は,図4をシミュレーションした結果です.シミュレーションは最大値を検出する様子を視覚的に分かりやすいように,IN1端子へ周波数1kHz,振幅4Vの正弦波を入力し,IN2端子へは直流2Vを入力します.図5の上段が2つの入力電圧,下段が最大値検出回路の出力です.このように,IN2端子の2Vを境にIN1端子の正弦波をスライスしたような波形となり,2つの入力のどちらか高い電圧を検出していることが分かります.
OUT端子の電圧は,2入力のうち,どちらかの最大値を検出して出力していることが分かる.
以上,解説した通り,OPアンプのカレント・ミラー回路を使い,2つの入力電圧に応じた電流変化を,ダイオードのスイッチで切り替え,「R5=R1」とすれば,2入力の最大値検出回路になります.回路で波形の加工をするときや,直流電圧の比較,互いに逆相の正弦波を入力すれば全波整流回路などに使用できます.注意点は,OPアンプの最大出力電圧は正負の電源に以内であることです.それを超えるような回路定数の設定はできません.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_019.zip
●データ・ファイル内容
OPAmp_Current_Mirror.asc:図2の回路
Maximum_value_detection.asc:図4の回路
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