非反転増幅回路のゲイン
図1は,OPアンプを使用した非反転増幅回路です.39kΩの抵抗(R1)と1kΩの抵抗(R2)で帰還回路を構成しています.使用しているOPアンプのオープン・ループ・ゲインは40倍(32dB)です.この非反転増幅回路の入力(in)から出力(out)までのゲインとして適切なのは,下の(A)~(D)のどれでしょうか.
この非反転増幅回路の入力(in)から出力(out)までのゲインは?
図1のOPアンプは非反転入力端子(+入力)と反転入力端子(-入力)の差電圧をオープン・ループ・ゲイン倍します.また,-入力端子の信号は,出力電圧を抵抗R1とR2で分圧したものです.これらの関係から式を立てれば,入力(in)から出力(out)までのゲインを計算することができます.
非反転増幅回路のゲイン(G)は,OPアンプのオープン・ループ・ゲインをAとし,帰還抵抗による分圧比をHとすると「G=A/(1+AH)」で計算できます.図1の定数を代入すると,「G=40/(1+40/40)=20」となり,ゲインは20倍になります.したがって正解は(C)ということになります.
●非反転増幅回路のゲインを計算する
図2は,非反転増幅回路のゲインを計算するためのブロック図です.抵抗R1とR2による分圧比をHとし,OPアンプのオープン・ループ・ゲインをAとしてinからoutまでのゲインを計算します.
抵抗R1とR2による分圧比をHとし,オープン・ループ・ゲインをAとする
-入力端子の電圧(fb)はOPアンプの出力電圧(out)に分圧比(H)を掛け合わせたものなので,式1で計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
抵抗R1とR2による分圧比(H)は式2で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
OPアンプの出力電圧(out)は,+入力端子の電圧(in)から-入力端子の電圧(fb)を引いたものを,オープン・ループ・ゲイン(A)倍することで求められ,式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式1を式3に代入すると式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式4をoutに対して解くと式5になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
ゲイン(G)は出力電圧を入力電圧で割ったものなので式5から式6のように求められます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6が図2の非反転増幅回路のゲインということになります.ここで,図1の定数を使用し,式7で分圧比を計算し,
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
また,式8でゲインを計算します.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
式8から,図1のゲインは20倍(26db)となることが分かります.
●非反転増幅回路のゲインをLTspiceで確認する
図3は,図1の非反転増幅回路のゲインをシミュレーションするための回路です.OPアンプの部分は簡単にゲインを設定できる電圧制御電圧源を使用しています.
OPアンプの部分は簡単にゲインを設定できる電圧制御電圧源を使用.
図4は,図3のシミュレーション結果で,V(out)は20Vとなっています.LTspiceのAC解析は,微小信号を入力したときの出力信号を解析します.しかし,シミュレーション結果は,入力に1Vを加えたときの出力レベルとして表示されます.そのため,出力電圧の数値がゲインの値となります.図4の結果からゲインは式8で計算したように20倍となっていることが分かります.
ゲインは20倍となっていることが分かる.
LTspiceでは,AC解析の結果表示の縦軸はデシベル表示がディフォルトとなっています.図4のようにリニアな電圧として表示させる場合は,縦軸の目盛の部分を右クリックして表示されたメニュー画面で図5のようにLinearを選択する必要があります.
縦軸をリニア表示とするため,Linearを選択する.
●非反転増幅回路のゲインとオープン・ループ・ゲイン
非反転増幅回路のゲインは式6で導き出されますが,オープン・ループ・ゲインが十分大きく無限大とみなすと,1/Aは0となるため,式9のように変形できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
つまり,ゲインは帰還抵抗による分圧比(H)の逆数になり,式10のように帰還抵抗の値のみで計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
通常OPアンプのオープン・ループ・ゲインは十分に大きいため,一般的にはこの式10が非反転増幅回路のゲイン計算に使用されます.
図6は,オープン・ループ・ゲインを変えたときの,非反転増幅回路のゲインをシミュレーションするための回路です.電圧制御電圧源のゲインをAという変数にして「.stepコマンド」で10倍(20dB)から100000倍(100dB)まで変化させてAC解析を行います.そして「.measコマンド」で1kHzのときのゲインをGという変数に格納します.「.measコマンド」の結果は,Ctrl+Lでエラーログを表示させ,マウス右クリックして表示されたメニューからグラフ表示させることができます.
オープン・ループ・ゲインは.stepコマンドで20dBから100dBまで変化させる.
図7がオープン・ループ・ゲインを変えたときの非反転増幅回路のゲインのシミュレーション結果です.オープン・ループ・ゲインが80dB以上あれば,式10で計算したゲインである40倍(32dB)とほとんど同じになることが分かります.
オープン・ループ・ゲインが80dB以上あれば,計算式とほとんど同じ値.
以上,非反転増幅回路のゲインについて解説しました.OPアンプは周波数が低い領域では十分大きなゲインがありますが,周波数が高くなるとゲインが低下するため,式10の計算結果とは一致しなくなることがあることを把握しておく必要があります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_018.zip
●データ・ファイル内容
noninverting_40.asc:図3の回路
noninverting_stepG.asc:図6の回路
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