Y-Δ変換を使った積分回路



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■問題
アナログ回路の基礎 ― 初級

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,OPアンプ(U1)と抵抗(Ra,Rb,Rc,R1,R2,R3)とコンデンサ(C1)を用いた積分回路です.3つのY型に接続した抵抗(Ra,Rb,Rc)は,RaとRbが10kΩ,Rcが1kΩです.このY型の接続は,IN端子とOPアンプの反転端子間に,等価的な抵抗を作ります.図1の積分回路において,IN端子からOUT端子までのゲインが0dBとなる周波数は,次の(a)~(d)のどれでしょうか.なお,OPアンプは理想とします.


図1 OPアンプ,Y型に接続した3つの抵抗,コンデンサを使った積分回路
ゲインが0dBとなる周波数を求める.

(a)1.3kHz (b)8.0kHz (c)13.3kHz (d)14.6kHz

■ヒント

 Y型に接続した3つの抵抗(Ra,Rb,Rc)は,Y-Δ変換(スター・デルタ変換)を使い,IN端子とOPアンプの反転端子(-)間の等価的な抵抗へ置き換えることができます.ゲインが0dBとなる周波数は,Y-Δ変換後の抵抗ネットワークを図1へ適用し,入出力の伝達関数より求められます.Y-Δ変換は,3つの低い抵抗値で,等価的に高い抵抗を得ることができます.


■解答


(a)1.3kHz

 図1のY型に接続したRa,Rb,Rcは,Y-Δ変換すると図2となり,Δ型に接続したRab,Rbc,Rcaで表すことができます.


図2 Ra,Rb,RcをY-Δ変換

 ここで,Ra,Rb,Rcのアドミタンス(インピーダンスの逆数)は「Ya=1/Ra」,「Yb=1/Rb」,「Yc=1/Rc」となります.同じようにRab,Rbc,Rcaのアドミタンスは「Yab=1/Rab」,「Ybc=1/Rbc」,「Yca=1/Rca」となります.そこで,Rabは式1より120kΩとなります.

・・・・・(1)

 Rbcは,式2より12kΩとなり,

・・・・・(2)

 Rcaは,式3より12kΩとなります.

・・・・・(3)

 図1図2を比べると,a点は入力端子(IN),b点はOPアンプの反転端子(-),c点はグラウンドです.また,図1の非反転端子(+)は,OPアンプを理想とすれば電流は流れませんのでグラウンドです.よってb点はバーチャル・グラウンドとなり,Rbcの両端の電圧は同じとなります.以上より,図1の伝達関数「vOUT(s)/vIN(s)」は式4となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 ゲインは式4の絶対値をとって式5となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 式5が0dB(1倍)となる周波数は式6となります.そこで,解答は1.3kHzとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)


■解説

●Y-Δ変換について
 Y-Δ変換は,低いインピーダンスを用い,等価的に高いインピーダンスを得るときに用いる手法です.図3は,Y-Δ変換を計算するための回路で(a)がY型の接続,(b)がΔ型の接続です.(a)と(b)の回路の3つの端子(a,b,c)からみたアドミタンスが同じ,すなわちVa,Vb,Vcを印加したとき,流れ込む3つの電流(Ia,Ib,Ic)が等しくなる関係を導くと,変換式が得られます.


図3 Y-Δ変換の変換式を導くための回路

 図3(a)の中心ノードのKCL(キルヒホッフの電流則)より,式7となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 また,Va,Vb,Vc,V0の電圧を使い,3つの電流Ia,Ib,Icを求めると,式8となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 式7と式8より,中心ノードの電圧V0は式9となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 以上,図3(a)の3つの電流(Ia,Ib,Ic)は式10となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)

 次に,図3(b)のΔ型の3つの電流(Ia,Ib,Ic)は式11となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)

 式11を整理して式12とします.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)

 式10と式12の3つの電流(Ia,Ib,Ic)が各々等しいとして整理すると,解答の式1,式2,式3となります.このように,Y-Δ変換は3つの低い抵抗値(Ra,Rb,Rc)で,等価的にRabの高い抵抗値を得ることができます.

●基本的な積分回路の特性
 まず始めに,図4(a)に示す抵抗(R1)とコンデンサ(C1)とOPアンプ(U1)で構成した,基本的な積分回路から解説します.図4(b)は,図1をY-Δ変換した積分回路で,図4(a)の基本的な積分回路との回路動作を比べるために用います.また,(b)の非反転端子(+)に接続した抵抗は,OPアンプの入力バイアス電流等の直流誤差を補償するための抵抗で,図4(a)の反転端子(-)からみた抵抗と同じになるようにしています.


図4 (a)が基本的な積分回路,(b)が図1をY-Δ変換した積分回路

 図4(a)の記号を用い,OPアンプのオープン・ループ・ゲインをA(s)として,積分回路の伝達関数を求めます.OPアンプの反転端子(-)の電圧をv’(s)とすれば,キルヒホッフの電流則(KCL)より,R1に流れる電流とC1に流れる電流は,式13の関係となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・(13)

 OPアンプの非反転端子(+)は,電流が流れませんので0V(GND)となります.よって,両入力端子の電圧差はv’(s)となり,OUT端子の電圧(VOUT)は式14となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(14)

 式13と式14より,基本的な積分回路の伝達関数は式15となります.

・・・・・・・・・・・・(15)

 ここで帰還率(β)は,式16となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・(16)

 なので,式15は式17で表せ,式17より,積分回路の伝達関数は,ループ・ゲインA(s)β(s)が誤差の要因となります.一般にOPアンプのオープン・ループ・ゲインA(s)は,非常に大きく,ループ・ゲインも1より十分大きいため,無視できます.

・・・・・・・・・・・・・・・(17)

 次に図4(a)の基本的な積分回路と,図4(b)のY-Δ変換した積分回路と比べます.図4(b)のRabは,図4(a)のR1に相当します.RcaはIN端子に接続する信号源の負荷となり,信号源が十分ドライブできる能力があれば,伝達関数に影響しません.Rbcは,バーチャル・グラウンドとなるOPアンプの反転端子(-)とGND間にあり,抵抗の両端の電圧差は,ほぼゼロと考えることができるため,こちらも無視できます.図4(a)図4(b)は帰還率が異なりますが,OPアンプのオープン・ループ・ゲインA(s)が十分大きければ,ループ・ゲインも大きく,誤差は僅かとなります.よって,図4(b)のY-Δ変換した積分回路の伝達関数も「VOUT(s)/VIN(s)=-1/sC1Rab」で近似できます.

●積分回路の特性をシミュレーションで確認する
 図5(a)図1をシミュレーションする回路,図5(b)はY-Δ変換後の積分回路で,(a)との比較に用います.図5(b)のY-Δ変換した抵抗値(Rab,Rbc,Rca)は,解答の式1,式2,式3で求めた値です.


図5 (a)は基本的な積分回路,(b)は図1をY-Δ変換した積分回路

 図6は,図5のAC解析の結果です.図5(a)の出力(OUT1)と図5(b)の出力(OUT2)の周波数特性は重なっており,(a)と(b)は同じ周波数特性であることが分かります.また,ゲインが0dBとなる周波数は,解答の1.3kHzであることも確認できます.積分回路として動作する周波数範囲は,入力に対し出力の位相が90度遅れるところです.図6の位相周波数特性より,おおよそ1Hz~10kHzの範囲となります.


図6 図5のシミュレーション結果

 図7は,図5の回路を用い,振幅が±1V,立ち上がりと立ち下がり時間が1μs,周波数1kHzの矩形波「PULSE(-1 1 0 1u 1u 499u 1m)」を入力した解析結果です.回路が落ち着くまでの時間がかかるので,過渡解析の指定を「.tran 50 startup」と長くし,49.995秒~50秒までをプロットしました.矩形波を積分すると三角波になりますが,図7でも同様の波形が確認できます.


図7 過渡解析で積分回路へ矩形波を入力し出力をプロット

 以上,解説したように,Y-Δ変換を用いることにより,等価的に高い抵抗値を得ることができます.またアプリケーション例として,スターデルタ変換を積分回路へ応用しました.ここでは詳細を示しませんでしたが,OPアンプを使った回路ですので,時間に対する出力電圧の最大変化は,OPアンプのスルーレートで制限されます.また負帰還安定性を評価するループ・ゲイン周波数特性の高周波側は,OPアンプの周波数特性となります.よって,積分回路が発振せずに安定に動作させるためには,OPアンプが十分に位相補償されていることが必要です.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_017.zip

●データ・ファイル内容
Integrator_with_Star_Delta_Conv.asc:図5の回路

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