一次遅れ回路のゲインと位相



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■問題
アナログ回路の基礎 ― 初級

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,抵抗(R1)とコンデンサ(C1)を使った一次遅れ回路に負荷抵抗(RL)がついた回路です.回路定数は,抵抗R1とRLが1kΩで,コンデンサ(C1)が1μFとします.図1の回路において,入力vi(s)から出力vo(s)までの伝達特性で,1Hzのゲインと位相が-45°遅れになる周波数の値として正しい組み合わせは(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 R1とC1の一次遅れ回路に負荷抵抗RLがついた回路

(a)ゲイン:0dB,周波数:159Hz
(b)ゲイン:0dB,周波数:318Hz
(c)ゲイン:-6dB,周波数:159Hz
(d)ゲイン:-6dB,周波数:318Hz

■ヒント

 R1とC1の一次遅れ回路へ負荷抵抗(RL)を接続すると,出力のゲインと位相は,負荷抵抗の影響を受けて,R1とC1で決まるゲインと位相から変化します.回路の伝達関数vo(s)/vi(s)を求め,その絶対値であるゲインと,位相の関係を計算すると求められます.
 ゲインと位相を図式で表すのは,ベクトル軌跡とボード線図があります.ここでは,前者のベクトル軌跡を用いて解説します.ベクトル軌跡は,角周波数(ω)を0~∞までスイープしたときのベクトル先端の軌跡をプロットしたものです.調べたい角周波数(ω)を入れることにより,回路のゲインと位相が分かります.


■解答


(d)ゲイン:-6dB,周波数:318Hz

 図1の伝達関数vo(s)/vi(s)を求めるとき「R1=RL=R」としました.伝達関数vo(s)/vi(s)で「s=jω」とし,その絶対値をとると式1となります.1Hzのゲインは,0.5倍なので,デシベルで表すと小数点以下を切り捨てると-6dBとなります.

・・・・・・・・(1)

 また,位相が-45°となるのは,式2で「ω=2/C1R」のときですのでC1が1μF,Rが1kΩなので「f=2/2πC1R=318Hz」となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)


■解説

●基本的な一次遅れ回路について
 図2は,抵抗(R1)とコンデンサ(C1)で構成した基本的な一次遅れ回路です.ここでは,図2をベクトル軌跡を用いて,周波数の変化に対するゲインと位相を解説します.図2の一次遅れ回路は,ロー・パス・フィルタとしてよく用いられる回路です.また,ベクトル軌跡は,角周波数(ω)の変化に対し,ゲインと位相の変化を図式で表現するものです.


図2 R1とC1の基本的な一次遅れ回路

 まず,出力のゲインと位相を調べるため,図2の伝達関数vo(s)/vi(s)を求めると「s=jω」と置換して式3となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 ベクトル軌跡は,X軸を実軸,Y軸を虚軸とした複素平面で表し,角周波数(ω)が0~∞へ変化したときの,ベクトルの先端をプロットしたものです.このベクトルの長さがゲインであり,実軸との角度が,入力から出力への位相差となります.
 ベクトル軌跡を描くため,式3を式4のように変形し,角周波数(ω)が0~∞へ変化させます.このときのベクトル軌跡が図3となります.図2の基本的な一次遅れ回路は,実軸が0.5,虚軸が0を中心とした半円となります.

・・・・・・・・・・・(4)


図3  vo(jω)/vi(jω)=1/jωC1R1のベクトル軌跡

 式4より,ゲインは,複素関数の絶対値であり,1Hzの周波数では,式5のようにゲインが約1倍(0dB)となります.

・・・・・・・・・・(5)

 また,位相は実軸からの角度なので,式6のように,-45°になるのは「ω=1/C1R1」であり,周波数fに直すと「f=1/2πC1R1=159Hz」となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 図3の青色で示したベクトルは「ω=1/C1R1」の場合です.底辺が青色のベクトルとした三角形とすれば,0.5の等しい辺を持った二等辺三角形です.その底角は45°であることが分かります.また,「ω=1/C1R1」のときのゲインは,青色の底辺の長さなので,0.5*√2倍,すなわち1/√2倍(-3.01dB)になります.

●一次遅れ回路のゲインと位相を伝達関数で確認する
 図1についても,C1とRLの合成インピーダンスとR1の分圧回路より伝達関数を求め,角周波数(ω)が0~∞へ変化したときのゲインと位相の変化を調べます.C1とRLの合成インピーダンスは式7となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 式7を使い,入力から出力への伝達関数vo(s)/vi(s)を求めると式8となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 ここで,図1は,R1とRLの抵抗値が等しいため「R1=RL=R」として「s=jω」と置換して,式9となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 式9と,前述のRLが無いときの式3を比べると,図1の直流に近い低周波のゲインは,式3より1/2倍(-6.02dB)となり,また,位相が-45°になる周波数は,2倍の318Hzとなります.なお,式9の複素関数の絶対値とその位相を計算したものが,解答の式1と式2となります.

●一次遅れ回路のゲインと位相をLTspiceで確認する
 図4は,図1図2のゲインと位相をAC解析でシミュレーションする回路です.


図4 図1と図2をシミュレーションする回路

 図5がそのシミュレーション結果のプロットです.


図5 図3のシミュレーション結果

 図1の出力に相当するOUT1を調べると,1Hzのゲインが-6dBで,位相が-45°になる周波数は318Hzで,解答と同じであることが分かります.図2の出力であるOUT2と比べると,負荷抵抗(RL=1kΩ)により,ゲインと位相が影響を受け,低周波(ここでは1Hz)のゲインが0dBから-6.02dB(1/2倍)へ低くなります.位相が-45°になる周波数は,159Hzから318Hz(2倍)へ高くなって,式9と式3を比較した結果と一致しています.
 また,負荷抵抗を接続したとき,図3の基本的な一次遅れ回路のゲインと位相を保つには,基本的な一次遅れ回路と負荷抵抗(RL)の間に,ゲインが1で,入力インピーダンスが1kΩより十分高いバッファ回路が必要となります.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_007.zip

●データ・ファイル内容
LPF.asc:図4の回路

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