周波数の変化によりゲインを求める
図1の破線内は,理想積分器で,入力(vi)と出力(vo)の周波数の変化によるゲイン「vo(s)/vi(s)」を調べる回路です.理想積分器の1Hzのゲインは,小数点以下を切り捨てると「-16dB」です.また,周波数の変化によるゲインの変化は-20dB/decで,周波数が10倍変化すると,ゲインが-20dB(1/10倍)変化します.図1において,周波数が32Hzのとき,ゲインは(a)~(d)のどれでしょうか.
電圧制御電圧源の伝達関数を1/sとしている.
今回は,周波数の変化が2倍(1オクターブ)離れているときのゲインと10倍(1ディケード)離れているときのゲインの関係を「.ACコマンド」で解説します.理想積分器の伝達関数が「1/s」のとき,周波数が1ディケード離れるとゲインは-20dB変化します.これは,1オクターブ離れたときの変化に置き換えると簡単に計算できます.
図1のゲインは,-20dB/decの傾きで減衰します.この減衰は,小数点以下を切り捨てると-6dB/octであり,周波数が2倍(1オクターブ)離れると,ゲインは-6dB(1/2倍)変化します.
1Hzから32Hzまでは,1Hz→2Hz→4Hz→8Hz→16Hz→32Hzと5オクターブ離れています.よって,1Hzのゲインが-16dBなので,その値から-30dB(-6dB/oct×5オクターブ)の変化となり,(c)の-46dBとなります.
●よく使うゲイン変化の表記
フィルタの設計,OPアンプの周波数特性など,周波数の関数を片対数グラフへプロットし,ゲインや位相の変化を調べることがあります.このときのゲイン変化の表記として,1次遅れ系のシステムは図2のように,-20dB/dec,また,同意の-6dB/octを使います.
この2つのゲインの変化が同じであることは,下記の計算より求められます.式1より,f1とf2が1ディケード離れているとき,3.32オクターブ離れています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
よって,式2より-20dB/decは,-6.02dB/octとなり小数点以下を切り捨て-6dB/octとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
●理想積分器の周波数の変化によるゲインの変化
図1の理想積分器のゲインをG(s)とすると「G(s)=vo(s)/vi(s)=1/s」です.周波数(f)のデシベルで表したゲイン(G)は,ラプラス演算子を「s=jω(ここでω=2πf)」とおいて計算すると式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式3を用いて,1Hz,2Hz,10Hz,32Hzの具体的な周波数におけるゲインは式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式4より,1Hzと2Hzのゲインの差は-6dBです.同様に10Hzのゲインの差は-20dBなので,-6dB/octと-20dB/decが同意であることが分かります.また,32Hzのゲインは-46dBなので,解答が(c)であることもわかります.
●AC解析のコマンド
今回の図1のシミュレーションでは,32Hzのゲインをカーソルや「.measコマンド」で探すのではなく,LTspiceのAC解析結果をテキスト・ファイルへエクスポートして値を読むことにします.LTspiceでのAC解析の記述は「Syntax: .ac <oct,dec,lin> <Nsteps> <StartFreq> <EndFreq>」となります.
周波数のスイープは,oct,dec,linの3種類があります.今回はoct(オクターブ)を用います.また,<Nsteps>は,解析スイープがoctのとき,1オクターブあたりの解析ステップ数となります.また,<StartFreq>は,解析を始める周波数<EndFreq>の解析を終える周波数です.
図3へAC解析の解析周波数について図示しました.図1のシミュレーションは「.ac oct 2 1 64」を用い,logの底が2の周波数スイープで,log軸上で均等のステップで解析します.具体的には1Hzから64Hzの周波数で,1オクターブあたり2ステップの解析となります.
表1は,図3中の計算で求めたf0~f12の周波数です. この例はoctですが,decのときは,logの底が10となります.
●理想積分器をLTspiceで確認する
図4は,図1をシミュレーションする回路です.電圧制御電圧源(E1)には「Laplace=1/s」を入れ理想積分器としています.また,AC解析のコマンドは前述の「.ac oct 2 1 64」としました.
図5は図4のシミュレーション結果です.
テキスト・ファイルへエクスポートするときは,図5のプロット上で右クリックし,図6に示す「Export date as text」にて任意のファイル名に保存します.
図7は,保存したテキスト・ファイルのスナップショットです.
AC解析の周波数は表1に示したものと同じです.また,1Hz,2Hz,4Hz,8Hz,16Hz,32Hz,64Hzのオクターブの変化において,ゲインの変化は,-6dB/octとなります.32Hzのゲインをみると解答(c)の-46dBとなることがわかります.「Export date as text」を使うと,シミュレーション結果をテキスト・ファイルへ保存でき,他のグラフソフトへデータを移せますので,実測値とシミュレーションの比較などに利用できます.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_005.zip
●データ・ファイル内容
Ideal_Integrator.asc:図4の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs