周波数の変化によりゲインを求める



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■問題
アナログ回路の基礎 ― 初級

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1の破線内は,理想積分器で,入力(vi)と出力(vo)の周波数の変化によるゲイン「vo(s)/vi(s)」を調べる回路です.理想積分器の1Hzのゲインは,小数点以下を切り捨てると「-16dB」です.また,周波数の変化によるゲインの変化は-20dB/decで,周波数が10倍変化すると,ゲインが-20dB(1/10倍)変化します.図1において,周波数が32Hzのとき,ゲインは(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 理想積分器の伝達特性を調べる回路
電圧制御電圧源の伝達関数を1/sとしている.

(a) -34dB,(b) -40dB,(c) -46dB,(d) -52dB


■ヒント

 今回は,周波数の変化が2倍(1オクターブ)離れているときのゲインと10倍(1ディケード)離れているときのゲインの関係を「.ACコマンド」で解説します.理想積分器の伝達関数が「1/s」のとき,周波数が1ディケード離れるとゲインは-20dB変化します.これは,1オクターブ離れたときの変化に置き換えると簡単に計算できます.

 理想積分器は,電圧に依存する電圧制御電圧源を使い,その値にラプラス演算子(s)を使って「Laplace=1/s」としました.LTspiceは,ラブラス演算子を使い,伝達関数を回路中に入れることができます.この機能を使うと,該当する回路を入力せずに伝達関数で与え,全体システムの検証などに役立ちます. 手計算による周波数(f)での周波数応答は「s=jω(ω=2πf)」と置換して計算できます.

■解答


(c) -46dB

 図1のゲインは,-20dB/decの傾きで減衰します.この減衰は,小数点以下を切り捨てると-6dB/octであり,周波数が2倍(1オクターブ)離れると,ゲインは-6dB(1/2倍)変化します.
 1Hzから32Hzまでは,1Hz→2Hz→4Hz→8Hz→16Hz→32Hzと5オクターブ離れています.よって,1Hzのゲインが-16dBなので,その値から-30dB(-6dB/oct×5オクターブ)の変化となり,(c)の-46dBとなります.


■解説

●よく使うゲイン変化の表記
 フィルタの設計,OPアンプの周波数特性など,周波数の関数を片対数グラフへプロットし,ゲインや位相の変化を調べることがあります.このときのゲイン変化の表記として,1次遅れ系のシステムは図2のように,-20dB/dec,また,同意の-6dB/octを使います.


図2 -20dB/dec,-6dB/octを片対数へプロット

 この2つのゲインの変化が同じであることは,下記の計算より求められます.式1より,f1とf2が1ディケード離れているとき,3.32オクターブ離れています.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 よって,式2より-20dB/decは,-6.02dB/octとなり小数点以下を切り捨て-6dB/octとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

●理想積分器の周波数の変化によるゲインの変化
 図1の理想積分器のゲインをG(s)とすると「G(s)=vo(s)/vi(s)=1/s」です.周波数(f)のデシベルで表したゲイン(G)は,ラプラス演算子を「s=jω(ここでω=2πf)」とおいて計算すると式3となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式3を用いて,1Hz,2Hz,10Hz,32Hzの具体的な周波数におけるゲインは式4となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 式4より,1Hzと2Hzのゲインの差は-6dBです.同様に10Hzのゲインの差は-20dBなので,-6dB/octと-20dB/decが同意であることが分かります.また,32Hzのゲインは-46dBなので,解答が(c)であることもわかります.

●AC解析のコマンド
 今回の図1のシミュレーションでは,32Hzのゲインをカーソルや「.measコマンド」で探すのではなく,LTspiceのAC解析結果をテキスト・ファイルへエクスポートして値を読むことにします.LTspiceでのAC解析の記述は「Syntax: .ac <oct,dec,lin> <Nsteps> <StartFreq> <EndFreq>」となります.
 周波数のスイープは,oct,dec,linの3種類があります.今回はoct(オクターブ)を用います.また,<Nsteps>は,解析スイープがoctのとき,1オクターブあたりの解析ステップ数となります.また,<StartFreq>は,解析を始める周波数<EndFreq>の解析を終える周波数です.
 図3へAC解析の解析周波数について図示しました.図1のシミュレーションは「.ac oct 2 1 64」を用い,logの底が2の周波数スイープで,log軸上で均等のステップで解析します.具体的には1Hzから64Hzの周波数で,1オクターブあたり2ステップの解析となります.


図3 周波数スイープが「.ac oct 2 1 64」のとき,LTspiceが解析する周波数を図示

 表1は,図3中の計算で求めたf0~f12の周波数です. この例はoctですが,decのときは,logの底が10となります.

表1 f0~f12の解析周波数

●理想積分器をLTspiceで確認する
 図4は,図1をシミュレーションする回路です.電圧制御電圧源(E1)には「Laplace=1/s」を入れ理想積分器としています.また,AC解析のコマンドは前述の「.ac oct 2 1 64」としました.


図4 図1をシミュレーションする回路

 図5図4のシミュレーション結果です.


図5  図4のシミュレーション結果

 テキスト・ファイルへエクスポートするときは,図5のプロット上で右クリックし,図6に示す「Export date as text」にて任意のファイル名に保存します.


図6 図5のプロット上で,右クリックし,シミュレーションのデータをテキスト・ファイルへ保存

 図7は,保存したテキスト・ファイルのスナップショットです.


図7 保存したテキスト・ファイルのスナップショット

 AC解析の周波数は表1に示したものと同じです.また,1Hz,2Hz,4Hz,8Hz,16Hz,32Hz,64Hzのオクターブの変化において,ゲインの変化は,-6dB/octとなります.32Hzのゲインをみると解答(c)の-46dBとなることがわかります.「Export date as text」を使うと,シミュレーション結果をテキスト・ファイルへ保存でき,他のグラフソフトへデータを移せますので,実測値とシミュレーションの比較などに利用できます.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_005.zip

●データ・ファイル内容
Ideal_Integrator.asc:図4の回路

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