電圧源回路と等価な電流源回路



『LTspice Users Club』のWebサイトはこちら

■問題
アナログ回路の基礎 ― 初級

小川 敦 Atsushi Ogawa

 電圧源を使用した回路は,電流源を使用して,まったく等価な回路に置き換えることができます.図1の点線内の回路は,出力電圧が1.5V,出力抵抗が100Ωの電源です.1.5Vの直流電圧源(V1)に100Ωの抵抗(R1)が直列に接続され,その抵抗を介して負荷抵抗(RL)が接続されています.図1とまったく等価な働きをする電流源を使用した回路は,図2の(A)~(D)のどれでしょうか.


図1 電圧源を使用した回路
点線内は出力電圧が1.5V,出力抵抗が100Ωの電源.


図2 電流源を使用して構成した回路
図1とまったく等価な回路はどれ?

■ヒント

 図1の回路と等価な働きをする回路とは,負荷抵抗(RL)の値を変えた場合でも,RLに加わる電圧やRLに流れる電流が,図1と同じになる回路のことです.無負荷時(RL=∞のとき)の出力電圧(VOUT)と,RLが100ΩのときのVOUTを計算して比較すれば,簡単に答えが分かります.


■解答


(C)

 図1の回路の無負荷時(RL=∞のとき)の出力電圧(VOUT)は1.5Vです.また,RLの値が100ΩのときのVOUTは0.75Vになります.図2の(A)~(D)の中で無負荷時の出力電圧が1.5Vになるのは,(A)と(C)なので,正解は(A)か(C)のどちらかです.次に,RLが100ΩのときのVOUTを計算すると(A)が約1.5Vで(C)が0.75Vになります.つまり,図1と等価な働きをするのは(C)ということになります.


■解説

●電圧源を使用した回路の負荷抵抗値と出力電圧の関係
 まず,図1の回路の負荷抵抗の値と出力電圧の関係が,どのようになっているか計算してみます.図1の回路の出力電圧(VOUT)は,V1をR1とRLで分圧したものなので,式1で計算することができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 無負荷時(RL=∞)の出力電圧は式2のようにV1と同じ1.5Vになります.

(RL=∞)・・・・・・・(2)

 負荷抵抗の値が100Ωのとき(RL=R1)の出力電圧は式3のようにV1の半分の0.75Vになります.

(RL=R1)・・・・・・・・・・・(3)

●電流源とR1が並列接続された回路の負荷抵抗値と出力電圧の関係
 次に,図2の(A)と(C)の回路の負荷抵抗の値と出力電圧の関係が,どのようになっているか計算してみます.(A)と(C)の回路は,R1とRLの並列回路に電流源I1の電流が流れることになります.したがって,出力電圧(VOUT)は,R1とRLの並列接続抵抗値に電流I1を掛け合わせたもので,式4となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 「I1R1=V1」となるようにV1を定義すると,式4は,式5のように変形することが可能です.式5は,式1とまったく同じになることが分かります.

・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 つまり,図2の(A)と(C)の回路で,I1R1の値が図1のV1と同じ値で,R1の値が図1のR1の値と等しくなっていれば,両者は全く等価な働きをします.図2の数値を代入すると,(A)と(C)の回路は共に「I1R1=1.5V」となります.一方,R1の値が図1と同じ100Ωなのは(C)なので,図1と等価な働きをするのは(C)ということが分かります.
 確認のために,RLの値が100ΩのときのVOUTを計算すると,(A)のVOUTは約1.5Vで式6となります.

・・・・・・・・(6)

(C)のVOUTは,式7のように0.75Vになります.

・・・・・(7)

●電流源とR1が直列接続された回路の負荷抵抗値と出力電圧の関係
 次に(B)と(D)の回路の負荷抵抗値と出力電圧の関係を考えます.(B)と(D)の回路は電流源I1とR1とRLがすべて直列になっています.そのため,負荷抵抗(RL)に流れる電流はI1と同じ値になり,出力電圧(VOUT)は式8で計算することができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 式8を見ると分かるように,(B)と(D)の回路の無負荷時(RL=∞)の出力電圧は無限大となってしまいます.また,RLが100ΩのときのVOUTを計算すると(B)のVOUTは150Vで式9となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

(D)のVOUTは,式10のように1.5Vになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)

●電圧源回路と電流源回路の等価変換
 式5と式1が同じ形となることから分かるように,図3のような電圧源回路と電流源回路は,相互に等価変換することができます.それぞれの回路の抵抗値を,同じ値とし,電圧源回路を電流源回路に変換するときは「I=V/R」とします.また,電流源回路を電圧源回路に変換するときは「V=I*R」とします.


図3 電圧源回路と電流源回路の等価変換
I=V/RまたはV=I*Rとすることで,相互に変換することができる.

●負荷抵抗値と出力電圧の関係をシミュレーションする
 図4は,図1図2の回路をシミュレーションするための回路です.同時にシミュレーションできるよう,すべての回路を一枚の回路図にまとめています.これらの回路で負荷抵抗RLの値を変えてVOUTの値をシミュレーションします.負荷抵抗の値はRという変数にして「.step」コマンドで変化させます.


図4 負荷抵抗値と出力電圧の関係をシミュレーションするための回路
「.step」コマンドで抵抗値を10Ωから1kΩまで一桁あたり10ポイントで変える.

 「.step」コマンドを入力するときは,LTspiceの補助機能を利用すると便利です.まず「.op」アイコンをクリックして図5のような編集画面を表示させ,エディット領域を右クリックしてメニューを表示します.そのメニューから「Help me Edit」,「.step Command」を選択します.


図5 SPICEコマンド入力画面
エディット領域を右クリックしてメニューを表示する.

 すると,図6のような「.step」コマンドを編集するための画面が表示されるので,スイープする変数名やスイープの方法,開始値,終了値,ステップ数を入力します.今回はRという変数を10から1kまで一桁あたり10ポイントで変化させます.


図6「.step」コマンド入力画面
Rという変数を10から1kまで一桁あたり10ポイントで変化させる.

 図7図4のシミュレーション結果です.横軸は対数目盛としてあります.最上段が電圧源を使用した回路のVOUTの値です.2段目が電流源を使用した回路(A)と回路(C)のVOUTの値ですが,回路(C)のシミュレーション結果は,電圧源を使用した回路のシミュレーション結果と完全に一致していることが分かります. 回路(A)はR1が1Ωとなっており,出力抵抗が小さいためVOUTはRLの値によらず,ほぼ1.5Vとなっています.3段目,4段目は回路(B)と回路(D)ですが,図1の回路とはまったく異なった結果となっています.


図7 図4のシミュレーション結果
電流源を使用した回路(C)は,電圧源を使用した回路と完全に一致.

 以上,電圧源回路と電流源回路の等価変換について解説しました.複雑な回路の動作を理解するとき,電流源回路を電圧源回路に変換すると,直観的に理解しやすくなることがあります.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_002.zip

●データ・ファイル内容
RL_Vout.asc:図4の回路

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報


近日発売

Interface 2025年 2月号

ラズパイで作り学ぶ Dockerコンテナ

CQ ham radio 2025年 1月号

2025年のアマチュア無線

HAM国家試験

第4級ハム国試 要点マスター 2025

HAM国家試験

第3級ハム国試 要点マスター 2025

トランジスタ技術 2025年 1月号

注目のロボット センサ&走行制御!

アナログ回路設計オンサイト&オンライン・セミナ