三端子レギュレータの過熱保護回路




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■問題

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,LM7805という出力電圧5Vの三端子レギュレータICの内部回路です.このICには,基準電圧回路,過電流保護回路,過熱保護回路などが内蔵されています.図中の(A)~(D)の回路ブロックの中で,過熱保護回路はどれでしょう?


図1 5Vの三端子レギュレータIC(LM7805)の内部回路
(A)~(D)の回路ブロックの中で,過熱保護回路はどれ?

■ヒント

 図1の三端子レギュレータに内蔵されている過熱保護回路は,トランジスタのベース・エミッタ間電圧が,温度が高くなると小さくなることを利用しています.そして設定温度よりもチップ温度が高くなると,出力電圧が小さくなるようにコントロールします.このような動作をする回路ブロックはどれかを考えれば,答えが分かります.

 3端子レギュレータとは,入力端子,出力端子,GNDの3端子で構成されたシリーズ・レギュレータです.さまざまな出力電圧のものが開発されていて,手軽に安定した電源として利用できます.LM7805は,リニアテクノロジ社(現在はアナログ・デバイセズ社)創業メンバーの一人である,ボブ・ワイドラー氏が,ナショナルセミコンダクター社(現在はテキサス・インスツルメンツ社)在籍時代に開発した,LM109という3端子レギュレータがベースとなっています.
 今回,解説する回路例は,LTspiceXVIIに含まれるサンプル・ファイルで「Documents\LTspiceXVII\examples\Educational」フォルダにある「LM78XX.asc」を使用します.

■解答


(A)

 過熱保護回路ブロックは(A)になります.ツェナーダイオード(D1)で一定の電圧を作り,エミッタ・フォロアを介して分圧した電圧をトランジスタQ10に与えています.高温になるとQ10がONし,Q2のベース電圧を下げることで,出力電圧を小さくします.なお,(B)は過電流保護回路で,(C)と(D)は2つ合わせて基準電圧発生回路となっています.

■解説

●トランジスタの温度特性を確認する
 一定のコレクタ電流が流れているトランジスタのベース・エミッタ間電圧(VBE)は,温度が上昇すると小さくなります.一般的なトランジスタでは,温度が1℃上昇するとVBEが約2mV小さくなります.図2は,トランジスタのベース・エミッタ電圧の温度特性をシミュレーションするための回路です.コレクタ電流は「.stepコマンド」を使用して10μAと1mAの2種類でシミュレーションします.温度は「.DCコマンド」を使用し,-40℃~200℃まで1℃ステップで変化させています.


図2 ベース・エミッタ電圧の温度特性をシミュレーションするための回路
コレクタ電流は10μAと1mAの2種類でシミュレーションする.

 図3は,図2のシミュレーション結果です.下段がベース・エミッタ間電圧です.高温になると電圧が小さくなることが分かります.上段は,ベース・エミッタ間電圧を横軸の温度で微分したもので,ベース・エミッタ間電圧の温度係数を表しています.コレクタ電流が10μAのときの温度係数は-1.7mV/℃~-1.9mV/℃となっています.コレクタ電流が1mAのときの温度係数はこれよりも小さく,-1.3mV/℃~-1.5mV/℃となっています.これは,コレクタ電流が大きくなると,トランジスタのベース抵抗による電圧降下が無視できなくなるためです.


図3 ベース・エミッタ電圧の温度特性のシミュレーション結果
コレクタ電流が大きいと温度係数は小さくなる.

●過熱保護回路のシミュレーション
 図4は,図1の過熱保護回路のみを取り出したものです.トランジスタQ4に流す電流は理想電流源に置き換えています.ツェナーダイオード(D1)に一定の電流を流し,一定の電圧(VZ)を発生させます.その電圧はQ15によるエミッタ・フォロアに加えられます.そしてエミッタ・フォロア出力はR11とR12で分圧され,Q10のベースに加えられます.Q10のベース電圧(VBEQ10)は式1で計算することができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 R11の値を調整することで,過熱保護開始温度をコントロールすることができます.実際の回路ではQ10のコレクタとQ17のコレクタは接続されており,そこに出力段トランジスタQ2のベース接続されています.そのため,Q17のコレクタ電流よりも,Q10の電流が大きくなると,出力電圧が低下することになります.ここでは,電流の変化が分かりやすいよう,それぞれのコレクタは電源とGNDに接続しています.そして「.DCコマンド」で温度を-40℃~200℃まで変化させたシミュレーションを行います.


図4 過熱保護回路をシミュレーションするための回路
電流変化をわかりやすくするため,実際の回路とは一部変更している.

 図5図4のシミュレーション結果です.Q10のコレクタ電流は温度が80℃を超えると上昇を始め,156℃程度でQ17のコレクタ電流と等しくなります.つまり,この定数の場合156℃程度で過熱保護回路を動作させることができます.


図5 過熱保護回路のシミュレーション結果 156℃程度でQ10とQ17のコレクタ電流が等しくなる.

●実際の回路での過熱保護動作のシミュレーション
 図6は,実際の回路で過熱保護動作をシミュレーションするための回路です.元になった回路はLTspiceに含まれるサンプルファイルで「Documents\LTspiceXVII\examples\Educational」フォルダにある「LM78XX.asc」です.負荷抵抗や電源電圧および,R11の値を変更して,温度シミュレーションを行うようにしてあります.この回路はR3の値を変えることで,出力電圧を変えることができます.出力電圧(VOUT)は式2で計算することができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 実際の製品ではこのR3の値を変えることで,5V電源ICや12V電源IC,15V電源ICなどの製品ラインナップを作っています.そこで「.stepコマンド」でR3の値を905Ω,5.78kΩ,7.87kΩの3種類に変えて,各出力電圧のシミュレーションを行います.


図6 LM78XXシリーズの過熱保護機能シミュレーション用回路
R3の値を3種類変えて,各出力電圧のシミュレーションを行う.

 図7図6のシミュレーション結果です.R3の値に応じて,出力電圧が5V,12V,15Vに変化しています.また,いずれの電圧のときも,約160℃で過熱保護回路が動作し,出力電圧が0Vになっています.出力電圧を0Vとすることで,チップ温度がそれ以上上昇することを防ぎ,ICが破壊しないようにします.


図7 出力電圧と過熱保護動作のシミュレーション結果
R3の値に応じて出力電圧が変わり,約160℃で過熱保護回路が動作.

 以上,LM78XXシリーズICに内蔵された過熱保護回路の動作について解説しました.今回詳細な解説はしませんが,LM78XXには過電流保護回路も内蔵されており,過大電流によるICの破壊を防止するようになっています.この過電流検出回路は,出力電流に比例した電圧を,トランジスタのベース・エミッタ間に加えることで,電流を検出しています.そのため,過電流検出感度は高温になるほど高くなります.また,出力トランジスタのコレクタ・エミッタ電圧差が大きくなるほど,過電流検検出感度を高くするような工夫もあります.そのため,ICの保護機能としては過電流保護回路が優先的に働き,それでもチップの温度上昇が続いたとき,過熱保護回路が働くことになります.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_045.zip

●データ・ファイル内容
Vbe_Temp.asc:図2の回路
Thermal Shutdown.asc:図4の回路
LM78XX_m.asc:図6の回路

■LTspice関連リンク先


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