基準電圧回路を使った低電圧検出回路
図1は,ブロコウ・セル(基準電圧回路)を応用し,電源電圧が低くなるとアラートをだす低電圧検出回路です.この低電圧検出回路は,電源電圧が所定の電圧より高いと,OUT端子出力電圧はGNDに近い電圧(VL=Q6の飽和電圧)となります.反対に所定の電圧より低いとOUT端子は電源電圧(VH=VCC)となります.図1において,電源電圧(V1)が5Vから0Vにかけて徐々に低下したとき,OUT端子の出力電圧がVLからVHに切り替わる電源電圧は(a)~(d)のどれでしょうか.なお,トランジスタの熱電圧(VT)は26mVとし,計算を簡単にするため,トランジスタの電流増幅率(hFE)は無限大で考え,ベース電流は無視します.
電源電圧が低くなるとOUT端子の出力電圧はVLからVHに切り替わる.
今回は,図1のブロコウ・セル(Q1a,Q1b,Q2,Q3,Q4,R1,R2)を応用した,低電圧検出回路について解説します.図1は,電源電圧が抵抗(R3,R4)の分圧回路により,REF端子の電圧としてブロコウ・セルに伝わります.ブロコウ・セルは,そのREF端子の電圧により,PNPトランジスタ(Q5)の導通を制御します.よって,OUT端子の出力電圧は,電源電圧に応じて,VHまたはVLとなります.
図1の回路において,PNPトランジスタ(Q5)を導通/非導通とする閾値は,REF端子に現れるブロコウ・セルのバンド・ギャップ・リファレンスの電圧となります.この閾値は以下の計算で求まります.抵抗(R1)の両端にかかる電圧は,NPNトランジスタ(Q1,Q2)のベースーエミッタ電圧差(VBE2-VBE1)となります.Q1とQ2のトランジスタの比は2:1(n=2)ですので,抵抗(R1)に流れる電流は,式1となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
抵抗(R2)に流れる電流は,Q3とQ4のカレントミラー回路により,式2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2の電流を使い,抵抗(R2)の電圧降下は式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
よって,REF端子の電圧は式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
電源電圧は,分圧回路(R3=100kΩ,R4=100kΩ)よりREF端子へ伝わります.したがって,出力電圧がVLからVHに切り替わる電源電圧(VCC)は式5であり,解答の(c)2.3Vとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
●低電圧検出回路の概要
図1の解説を始める前に,回路動作が理解しやすい図2の低電圧検出回路から解説します.図2は,マイクロパワー(低消費電力)のレール・ツー・レール入出力OPアンプ(LT1782)と1.2Vのマイクロパワー電圧リファレンス(LT1004-1.2)を用いた低電圧検出回路です.図1と同じ回路機能となります.電源電圧から抵抗(R1,R2)の分圧回路により決まるDIV端子の電圧と,電圧リファレンスの出力であるREF端子の電圧をOPアンプで比較し,OUT端子はVHまたはVLとなります.
図1と同様の回路機能.
図2の電源電圧(V1)を5Vから0Vへ低くしたときのシミュレーション結果が図3です.図3には「DIV端子の電圧」,「REF端子の電圧」,「OUT端子の出力電圧」をプロットしました.図3より,電源電圧の変化に対するDIV端子とREF端子の応答が異なることを利用し,電源電圧が所定の電圧より低くなるとOUT端子はVL(ほぼGNDの電圧)からVH(ほぼ電源電圧)へ切り替わります.回路システムは,OUT端子の変化をアラート信号とし,低電圧になったときに誤動作しないようにします.検出する電源電圧は,分圧回路のR1とR2の抵抗値で任意に調整できます.また電圧リファレンスは温度補償されており,温度変化しても閾値は大きく変わりません.
OPアンプは,DIV端子の電圧とREF端子の電圧を比較し,OUT端子の出力電圧はVLからVHに切り替わる.
低電圧検出回路はバッテリー用途を考えると,低消費電流であることが望ましいため,OPアンプと電圧リファレンスはマイクロパワーの部品を使用しました.同様に抵抗(R1,R2,R3)に流れる電流も少なくするため,高抵抗を用いています.図2の回路の消費電流は,電源電圧(V1)が5Vのとき,約90μAとなります.
●ブロコウ・セルを使った低電圧検出回路
次にブロコウ・セルを使った低電圧検出回路について解説します.ブロコウ・セルはバンド・ギャップ・リファレンス回路であり,基準電圧回路として広く使われます.「LTspice電源&アナログ回路入門 021 ―― ブロコウ・セル 基準電圧源の温度補償」,「LTspice電源&アナログ回路入門 023 ―― 高精度な基準電圧源の出力電圧誤差と補正」でも紹介しました.
図4は,図1をシミュレーションする回路で,電源電圧(V1)を5Vから0Vへ低くしたときの状態をシミュレーションします.
電源電圧を5Vから0Vへスイープし,OUT端子の出力電圧変化を調べる.
図5は,図4のシミュレーション結果です.「Q1コレクタ電流」や「Q2コレクタ電流」,「OUT端子の電圧」をプロットしました.図5よりブロコウ・セルを使った低電圧検出回路は,電源電圧に対するQ1のコレクタ電流とQ2のコレクタ電流の応答の差を利用し,PNPトランジスタ(Q5)の導通/非導通を制御します.この導通/非導通により,OUT端子の電圧は,VHまたVLとなります.2つのコレクタ電流が交差するときのREF端子の電圧は式4であり,これが閾値電圧となります.よって,図4のOUT端子の電圧がVLからVHに切り替わる電源電圧は,式5となります.また,図4の回路の消費電流は,電源電圧(V1)が5Vのとき,約75μAとなります.
Q1のコレクタ電流とQ2のコレクタ電流の応答の差を利用して低電圧を検出する.
●検出する電圧を温度補償するR1とR2の抵抗値
OUT端子の電圧がVLからVHに切り替わる閾値の電圧は,式4であり,VBE2の負の温度係数を,VR2の正の温度係数で打ち消して温度補償ができます.ここでは,温度補償するR1とR2の抵抗値を計算します.
まず,低消費電流とするため,R1に流れる電流は約4μAを目標とし,式1のように選びやすい抵抗として「R1=4.7kΩ」としました.次に式4のVREFを式1と式2の一般式を使い,整理したのが式6です.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
その温度変化は式7となります.
・・・・・・・・・・・・・(7)
ここで,トランジスタの特性から調べたVBE2の温度変化は「∂VBE2/∂T=-2.2mV/℃」です.ただし,ボルツマン定数は「k=1.38×10-23[J/K]」で,電子電荷は「q=1.6×10-19[C]」です. 以上の定数を使い,VREFの温度変化がゼロ(∂VREF/∂T=0)とするR2の抵抗値を求めると式8となります.
・・・・・(8)
●ブロコウ・セルを使った低電圧検出回路の温度シミュレーション
図6は,ブロコウ・セルを使った低電圧検出回路の動作を-25℃,25℃,75℃,100℃の温度でシミュレーションする回路です.抵抗の温度係数は,全て+100ppm/℃としました.
-25℃,25℃,75℃,100℃の4つの温度で調べる.
図7は図6のシミュレーション結果です.式8のとおり「R2=86kΩ」とすることで,4つの温度における低電圧検出回路の閾値変化は小さく,温度補償されています.
VLからVHに切り替わる付近を拡大した.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_043.zip
●データ・ファイル内容
UVD_using_OPAmp.asc:図2の回路
UVD_Using_BrokawCell_DC.asc:図4の回路
UVD_Using_BrokawCell_TEMP.asc:図6の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs