基準電圧回路を使った低電圧検出回路



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■問題

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,ブロコウ・セル(基準電圧回路)を応用し,電源電圧が低くなるとアラートをだす低電圧検出回路です.この低電圧検出回路は,電源電圧が所定の電圧より高いと,OUT端子出力電圧はGNDに近い電圧(VL=Q6の飽和電圧)となります.反対に所定の電圧より低いとOUT端子は電源電圧(VH=VCC)となります.図1において,電源電圧(V1)が5Vから0Vにかけて徐々に低下したとき,OUT端子の出力電圧がVLからVHに切り替わる電源電圧は(a)~(d)のどれでしょうか.なお,トランジスタの熱電圧(VT)は26mVとし,計算を簡単にするため,トランジスタの電流増幅率(hFE)は無限大で考え,ベース電流は無視します.


図1 低電圧検出回路
電源電圧が低くなるとOUT端子の出力電圧はVLからVHに切り替わる.

(a)0.6V,(b)1.2V,(c)2.3V,(d)3.5V

■ヒント

 今回は,図1のブロコウ・セル(Q1a,Q1b,Q2,Q3,Q4,R1,R2)を応用した,低電圧検出回路について解説します.図1は,電源電圧が抵抗(R3,R4)の分圧回路により,REF端子の電圧としてブロコウ・セルに伝わります.ブロコウ・セルは,そのREF端子の電圧により,PNPトランジスタ(Q5)の導通を制御します.よって,OUT端子の出力電圧は,電源電圧に応じて,VHまたはVLとなります.

 低電圧検出回路は,回路システムの電源電圧が低下したときの誤動作防止として使われます.例をあげると,バッテリーを電源として動作する回路システムにおいて,電源電圧が動作電源電圧範囲より低くなったときの異常動作を防止する等です.また,低電圧の検出にヒステリシスを持たせた回路は,低電圧誤動作防止回路(UVLO:Under Voltage Lock Out)としてDC-DCコンバータで使われています.

■解答


(c)2.3V

 図1の回路において,PNPトランジスタ(Q5)を導通/非導通とする閾値は,REF端子に現れるブロコウ・セルのバンド・ギャップ・リファレンスの電圧となります.この閾値は以下の計算で求まります.抵抗(R1)の両端にかかる電圧は,NPNトランジスタ(Q1,Q2)のベースーエミッタ電圧差(VBE2-VBE1)となります.Q1とQ2のトランジスタの比は2:1(n=2)ですので,抵抗(R1)に流れる電流は,式1となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 抵抗(R2)に流れる電流は,Q3とQ4のカレントミラー回路により,式2となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式2の電流を使い,抵抗(R2)の電圧降下は式3となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 よって,REF端子の電圧は式4となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 電源電圧は,分圧回路(R3=100kΩ,R4=100kΩ)よりREF端子へ伝わります.したがって,出力電圧がVLからVHに切り替わる電源電圧(VCC)は式5であり,解答の(c)2.3Vとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

■解説

●低電圧検出回路の概要
 図1の解説を始める前に,回路動作が理解しやすい図2の低電圧検出回路から解説します.図2は,マイクロパワー(低消費電力)のレール・ツー・レール入出力OPアンプ(LT1782)と1.2Vのマイクロパワー電圧リファレンス(LT1004-1.2)を用いた低電圧検出回路です.図1と同じ回路機能となります.電源電圧から抵抗(R1,R2)の分圧回路により決まるDIV端子の電圧と,電圧リファレンスの出力であるREF端子の電圧をOPアンプで比較し,OUT端子はVHまたはVLとなります.


図2 オペアンプと基準電圧源を使った低電圧検出回路
図1と同様の回路機能.

 図2の電源電圧(V1)を5Vから0Vへ低くしたときのシミュレーション結果が図3です.図3には「DIV端子の電圧」,「REF端子の電圧」,「OUT端子の出力電圧」をプロットしました.図3より,電源電圧の変化に対するDIV端子とREF端子の応答が異なることを利用し,電源電圧が所定の電圧より低くなるとOUT端子はVL(ほぼGNDの電圧)からVH(ほぼ電源電圧)へ切り替わります.回路システムは,OUT端子の変化をアラート信号とし,低電圧になったときに誤動作しないようにします.検出する電源電圧は,分圧回路のR1とR2の抵抗値で任意に調整できます.また電圧リファレンスは温度補償されており,温度変化しても閾値は大きく変わりません.


図3 図2のシミュレーション結果
OPアンプは,DIV端子の電圧とREF端子の電圧を比較し,OUT端子の出力電圧はVLからVHに切り替わる.

 低電圧検出回路はバッテリー用途を考えると,低消費電流であることが望ましいため,OPアンプと電圧リファレンスはマイクロパワーの部品を使用しました.同様に抵抗(R1,R2,R3)に流れる電流も少なくするため,高抵抗を用いています.図2の回路の消費電流は,電源電圧(V1)が5Vのとき,約90μAとなります.

●ブロコウ・セルを使った低電圧検出回路
 次にブロコウ・セルを使った低電圧検出回路について解説します.ブロコウ・セルはバンド・ギャップ・リファレンス回路であり,基準電圧回路として広く使われます.「LTspice電源&アナログ回路入門 021 ―― ブロコウ・セル 基準電圧源の温度補償」,「LTspice電源&アナログ回路入門 023 ―― 高精度な基準電圧源の出力電圧誤差と補正」でも紹介しました.
 図4は,図1をシミュレーションする回路で,電源電圧(V1)を5Vから0Vへ低くしたときの状態をシミュレーションします.


図4 ブロコウ・セルを使った低電圧検出回路をシミュレーションする
電源電圧を5Vから0Vへスイープし,OUT端子の出力電圧変化を調べる.

 図5は,図4のシミュレーション結果です.「Q1コレクタ電流」や「Q2コレクタ電流」,「OUT端子の電圧」をプロットしました.図5よりブロコウ・セルを使った低電圧検出回路は,電源電圧に対するQ1のコレクタ電流とQ2のコレクタ電流の応答の差を利用し,PNPトランジスタ(Q5)の導通/非導通を制御します.この導通/非導通により,OUT端子の電圧は,VHまたVLとなります.2つのコレクタ電流が交差するときのREF端子の電圧は式4であり,これが閾値電圧となります.よって,図4のOUT端子の電圧がVLからVHに切り替わる電源電圧は,式5となります.また,図4の回路の消費電流は,電源電圧(V1)が5Vのとき,約75μAとなります.


図5 図3のシミュレーション結果
Q1のコレクタ電流とQ2のコレクタ電流の応答の差を利用して低電圧を検出する.

●検出する電圧を温度補償するR1とR2の抵抗値
 OUT端子の電圧がVLからVHに切り替わる閾値の電圧は,式4であり,VBE2の負の温度係数を,VR2の正の温度係数で打ち消して温度補償ができます.ここでは,温度補償するR1とR2の抵抗値を計算します.  まず,低消費電流とするため,R1に流れる電流は約4μAを目標とし,式1のように選びやすい抵抗として「R1=4.7kΩ」としました.次に式4のVREFを式1と式2の一般式を使い,整理したのが式6です.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 その温度変化は式7となります.

・・・・・・・・・・・・・(7)

 ここで,トランジスタの特性から調べたVBE2の温度変化は「∂VBE2/∂T=-2.2mV/℃」です.ただし,ボルツマン定数は「k=1.38×10-23[J/K]」で,電子電荷は「q=1.6×10-19[C]」です. 以上の定数を使い,VREFの温度変化がゼロ(∂VREF/∂T=0)とするR2の抵抗値を求めると式8となります.

・・・・・(8)

●ブロコウ・セルを使った低電圧検出回路の温度シミュレーション
 図6は,ブロコウ・セルを使った低電圧検出回路の動作を-25℃,25℃,75℃,100℃の温度でシミュレーションする回路です.抵抗の温度係数は,全て+100ppm/℃としました.


図6 ブロコウ・セルを使った低電圧検出回路を温度シミュレーション
-25℃,25℃,75℃,100℃の4つの温度で調べる.

 図7図6のシミュレーション結果です.式8のとおり「R2=86kΩ」とすることで,4つの温度における低電圧検出回路の閾値変化は小さく,温度補償されています.


図7 図6のシミュレーション結果
VLからVHに切り替わる付近を拡大した.

■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_043.zip

●データ・ファイル内容
UVD_using_OPAmp.asc:図2の回路
UVD_Using_BrokawCell_DC.asc:図4の回路
UVD_Using_BrokawCell_TEMP.asc:図6の回路

■LTspice関連リンク先


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