スイッチング電源のPWMコンパレータの動作
図1は,出力電圧安定化機能付きの降圧スイッチング電源のブロック図です.出力電圧は4Vで出力端子には4Ωの負荷抵抗が接続されています.この回路の入力電圧は5V~20Vまで変化します.スイッチ(SW1)はコントロール電圧(VC)がハイ・レベルのときにオンするようになっています.
この回路の出力電圧を入力電圧が変化しても,常に4Vとなるように,SW1をスイッチ制御回路でコントロールします.図1の(A)~(D)はそのスイッチ制御回路の内部等価回路です.抵抗(R1)とコンデンサ(C1)およびコンパレータ(Comp1)と基準信号(VS)から構成されています.VSは図中のように,のこぎり波および矩形波で,平均電圧が4V,振幅が0.1Vとなっています.入力電圧が5Vから20Vまで変化しても,出力電圧がほぼ4Vとなるスイッチ制御回路は(A)~(D)のどれでしょう?
入力電圧が変化しても出力電圧が4Vになるスイッチ制御回路は?
図1のような降圧スイッチング電源の出力電圧は,入力電圧にSW1のオン・デューティ比を掛け合わせたものになります.そのため,出力電圧を一定に保つためには,入力電圧が下がって出力電圧が下がったときは,スイッチのオン・デューティ比が大きくなり,入力電圧が上がって出力電圧が上がったときはオン・デューティ比が小さくなるように制御する必要があります.図1のコンパレータの出力がこのような動作をするのは,A~Dのどれかを考えれば答えが分かります.
コンパレータは,+入力端子の電圧が-入力端子の電圧よりも大きいときに出力がハイ・レベルになります.スイッチ制御回路の(B)と(D)は基準信号として矩形波が入力されています.そのため,出力電圧(VO)が変化しても,コンパレータ出力のデューティ比は変化しません.つまり,正解は(A)か(C)ということになります.(A)と(C)はどちらもVOが4Vのときにコンパレータ出力のオン・デューティ比が50%になります.ここで,(C)はVOが4Vよりも大きくなると,オン・デューティ比が小さくなり4Vよりも小さくなるとオン・デューティ比が大きくなります.(A)のオン・デューティ比は(C)とは逆の動きをします.入力電圧が変化したときに,出力電圧が一定になるようにオン・デューティ比が変化するのは,(C)なので,正解は(C)ということになります.
●PWMコンパレータの動作
図2は,図1スイッチ制御回路(C)のコンパレータ部分をシミュレーションするための回路です.コンパレータ(Comp1)の内部は,電圧制御電圧源になっています.出力電圧が制限されたコンパレータをLTspiceで表現するやりかたは色々な方法がありますが,ここでは,電圧制御電圧源のtableを使用しています.「table=0 0 10u 5」とすると,IN+とIN-の電圧差が0V以下のときは出力電圧が0Vになります.そして,IN+とIN-の電圧差が+10μV以上になると出力電圧は,5Vで一定になります.0V~10μVの間は,出力電圧がリニアに変化しそのゲインが「5V/10μV=114dB」ということになります.
コンパレータは電圧制御電圧源のtableで実現している.
図2は,Comp1の+入力端子に直流電圧が4V,振幅が0.1Vの,のこぎり波を加えています.のこぎり波は,LTspiceのパルス電源を使用し,PULSE(0 0.1 9.99u 5n 5n 10u)として作っています.周期を10μs,パルスの立ち上がり時間を9.99μsとし,立下り時間とオン時間を共に5nsとすると,のこぎり波の周波数は100kHzとなります.Comp1の-入力端子には3.96Vから4.04Vまで変化する直流電圧が加わっています.
図3は,図2のシュミレーション結果です.Comp1の+入力端子の電圧(V(saw))は,のこぎり波になっています.Comp1の-入力端子の電圧(V(fb))が低いときはコンパレータ出力電圧(V(pwm))のハイ・レベルになっている時間が長くパルス幅が広くなっています.V(fb)が高くなるとパルス幅が狭くなり,V(fb)によってパルス幅が変調されたPWM信号が作られていることが分かります.これを図1のスイッチング電源のスイッチ制御回路として使用することにより,出力電圧が低いときはパルス幅を広くし,出力電圧が高いときはパルス幅を狭くするような制御ができるようになります.図2では,のこぎり波を使用しましたが,三角波を使用しても同じ動作をします.
V(fb)によってパルス幅が変調されたPWM信号が作られている.
●出力電圧安定化機能付きの降圧スイッチング電源をシミュレーションする
図4は,図1の出力電圧安定化機能付きの降圧スイッチング電源をシミュレーションするための回路です.入力電圧はVINという変数を使用して,「.stepコマンド」で5Vから20Vまで5Vステップで変化させています.
入力電圧を5Vから20Vまで5Vステップで変化させてシミュレーションする.
図5は,図4のシミュレーション結果です.入力電圧が5Vから20Vまで変化しても,出力電圧はほぼ4Vとなっていることが分かります.
入力電圧が5Vから20Vまで変化しても,出力電圧はほぼ4Vとなっている.
ここで,入力電圧と出力電圧の関係を分かりやすくするため,グラフ化してみます.図4の回路図には「.meas TRAN Vout AVG V(out) FROM 90m」というコマンドが配置されています.これは入力電圧を変化させたそれぞれの解析結果で,90msから解析最後までの平均電圧をVoutという変数に格納する,という意味になります.「.measコマンド」は使いこなすのが難しいコマンドですが,LTspiceXVIIから内容の編集が簡単にできるように専用のウィンドウが用意されています.「.measコマンド」を右クリックすると,図6のような専用の編集画面が表示されます.
「.meas」コマンドを右クリックすることで表示される.
解析終了後,回路図ウィンドウで「Ctrl+L」を押してエラーログを表示させ,そのウィンドウの中で右クリックし「Plot .step'ed .meas data」を選択すると,図7のようなグラフが表示されます.横軸が「.stepコマンド」で変化させた入力電圧で,縦軸が出力電圧になります.
「.measコマンド」で90ms~100msの平均電圧を計算してプロット.
入力電圧の変化に対する出力電圧の変動はあまり大きくありませんが,それでも60mV程度の変化があることが分かります.これは,図4の回路では出力電圧がR1,C1によるローパスフィルタの後,直接コンパレータに加えられているためです.図3を見るとわかるように,パルス幅が変化するためには,コンパレータの-入力端子の電圧(電源の出力電圧)が変化する必要があります.オン・デューティ比が0%から100%まで変化するために必要な電圧変化はのこぎり波の振幅と同じ100mVです.入力電圧が5Vから20Vまで変化したとき,出力電圧が4Vとなるためにはオン・デューティ比が80%から20%まで変化する必要があります.そのためには出力電圧が60mV変化しなければなりません.
図1の回路は,PWM変調の動作が分かりやすいように出力電圧を直接コンパレータに加えています.そのため,出力電圧が多少変動してしまいます.製品化されているスイッチング電源ICは,もう1つアンプが追加され,入力電圧変動による出力電圧変動が小さくなっています.
このように出力電圧をフィードバックして出力電圧を安定化する回路では,ループが発振しないように位相補償が重要です.降圧スイッチング電源の位相補償の考え方に関しては,改めて解説する予定です.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_038.zip
●データ・ファイル内容
PWM_Comp.asc:図2の回路
LimitAmp.asy:図2の回路で使用しているコンパレータのシンボル
LimitAMP.asc:図2の回路で使用しているコンパレータの内部回路
Step_down_PWM.asc:図4の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs