OPアンプを使った高精度レギュレータ



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■問題

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,OPアンプ(U1),ツェナー・ダイオード(D1),抵抗(R1,R2,R3,R4)で構成した高精度レギュレータです.IN端子には入力電圧(V1)を印加し,OUT端子から一定の電圧(VOUT)を出力します.OUT端子には負荷抵抗(RL)を接続しています.ツェナー・ダイオード(D1)の電圧(VZ)は,流れる電流を1mAにすると,温度係数が最小となるデバイスです.
 図1でツェナー電圧(VZ)が6.2Vのとき,ツェナー・ダイオードに流れる電流(IZ)を1mAとするR4の抵抗値は,(a)~(d)のどれでしょうか.なお,計算を簡単にするため,OPアンプは理想とします.


図1 ツェナー・ダイオードの電圧を増幅する高精度レギュレータ回路
ツェナー・ダイオードに流れる電流は抵抗(R4)で調整する.

(a)5.1kΩ,(b)5.6kΩ,(c)5.9kΩ,(d)6.2kΩ

■ヒント

 今回は,OPアンプを使った高精度レギュレータについて解説します.図1の回路は,ツェナー・ダイオードの電圧(VZ)を,OPアンプ(U1)を使った増幅器により,任意の出力電圧(VOUT)を得られます.ツェナー・ダイオード(D1)に流れる電流(IZ)は,抵抗(R4)から流れます.R4の両端の電圧は,入力電圧に関係なく一定であり,安定した電流をツェナー・ダイオード(D1)に供給します.回路の計算は,OUT端子の出力電圧を算出し,R4の両端の電圧と電流(図1では1mA)で求められます.

 高精度レギュレータは,ハイブリッドIC(Hybrid Integrated Circuit)の回路にも用いられていました.抵抗比が重要な箇所はレーザ・トリミングで調整して,ゲインのバラツキを抑えます.また,ツェナー電圧の温度ドリフトを小さくするため,ツェナー・ダイオードに流れる電流をR4で調整して,安定したツェナー電圧を得るよう工夫しています.

■解答


(c)5.9kΩ

 図1の回路は,ツェナー・ダイオード(D1)の電圧(VZ)を, OPアンプ(U1)と抵抗(R1,R2)で構成した非反転増幅器の入力へ印加します.非反転増幅器のゲインは,2つの抵抗(R1,R2)で与えられるため,図1の抵抗値とツェナー電圧(VZ=6.2V)より,OUT端子の出力電圧(VOUT)は式1となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 次に,抵抗(R4)の値を計算します.ツェナー・ダイオードに流れる電流(IZ)を1mA,式1のOUT端子の出力電圧(VOUT)と,ツェナー・ダイオードの電圧(VZ=6.2V)より式2となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 以上より,式2の抵抗値に近いのは,(c)の5.9kΩとなります.なお,(c)の5.9kΩにしたとき,ツェナー・ダイオード(D1)に流れる電流(IZ)は,式3となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

■解説

●ツェナー・ダイオードの電圧を温度補償する電流値
 図2は,ツェナー・ダイオードの電圧(VZ)と電流(IZ)を,-25℃,25℃,75℃の3つの温度についてプロットしました.ツェナー・ダイオードのブレーク・ダウンは,原因が2つあります.1つ目は低い逆電圧のツェナー・ブレークダウン,2つ目は高い逆電圧のアバランシェ・ブレークダウンです.2つのブレーク・ダウンの温度係数は,低い逆電圧のツェナー・ブレークダウンは負の温度係数,高い逆電圧のアバランシェ・ブレークダウンは正の温度係数となります.これにより,図2に示すように温度係数がゼロとなるところがあり,そのときのツェナー・ダイオードの電流(IZ)は1mAとなります.
 図1のツェナー・ダイオード(D1)に流れる電流(IZ)を1mAにしたのはこの理由です.このときのツェナー・ダイオードの電圧(VZ)は6.2Vとなります.なお,図2はシミュレーションから求めたものです.実際のツェナー・ダイオードでも図2と同じになるか調べる必要があります.


図2 ツェナー・ダイオードの電圧-電流特性
温度係数がゼロになるポイントがある.

●高精度レギュレータをLTspiceで確認する
 図3は,図1をシミュレーションする回路です.DC解析でV1を0V~20V間をスイープします.OPアンプの2つの入力端子が繋がるノードには,「IN+」,「IN-」のラベルをふりました.


図3 図1をシミュレーションする回路
DC解析で,V1を0V~20V間をスイープする.

 図4は,図3のシミュレーション結果です.回路内の電圧と電流を上段と下段に分けてプロットしました.なお,ツェナー・ダイオードの電流は,電流の向きをカソードからアノードとするため,「-1」を乗じています.
 図4下段の電流のプロットで,ツェナー・ダイオード(D1)に流れる電流は0.98mAであり,この値は式3と同じです.次に上段の電圧のプロットをみると,ツェナー・ダイオードの電圧はラベルIN+の電圧であり,6.199Vとなります.これは図2のツェナー・ダイオードの「電圧-電流特性」より,ツェナー・ダイオードの温度係数がゼロとなる電流値と電圧値です.出力電圧は,OPアンプ(U1)と抵抗(R1,R2)で構成する非反転増幅器で,ツェナー・ダイオードの電圧(図3ではVIN+の電圧)を増幅します.このときの出力電圧(VOUT)は式1と同じであることが分かります.


図4 図2のシミュレーション結果
回路内の電圧と電流をプロット.

 図3のOUT端子の出力電圧温度特性を調べるため,解析を「.dc TEMP -25 125 0.1」へ変更し,温度を-25℃~125℃をスイープさせた結果が図5です.OUT端子の電圧(VOUT)は,温度変化に対して変化が少なく,温度補償していることが分かります.


図5 図4の温度シミュレーション結果

●トランジスタを追加して出力電流を増加する
 図6は,トランジスタ(Q1)を追加した高精度レギュレータの例です.トランジスタ(Q1)を追加することにより,出力電流を増加することができます.


図6 高精度レギュレータの例
トランジスタ(Q1)を追加して出力電流を増す.

 図6の回路についてOUT端子の出力電圧(VOUT)と,ツェナー・ダイオードの電流(IZ)を求めます.なお,ツェナー・ダイオードの電圧(VZ)は6.2Vとします.OPアンプの非反転端子の電圧(VIN+)と反転端子の電圧(VIN-)は式4と式5となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 非反転端子と反転端子はバーチャル・ショート(VIN+=VIN-)です.よって,式4と式5を使い,出力電圧(VOUT)について解くと,式6となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 次に,ツェナー・ダイオードに流れる電流を求めます.非反転端子の電圧(VIN+)は式4と式6より,式7となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 非反転端子と反転端子はバーチャル・ショート(VIN+=VIN-)ですので,ツェナー・ダイオードに流れる電流(IZ)は式8となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

●トランジスタを追加した高精度レギュレータをLTspiceで確認する
 図7は,図6をDC解析でV1を0V~20V間でスイープしたシミュレーション結果です.上段の出力電圧(VOUT)は,式6で求めた電圧となります.また,下段のツェナー・ダイオードに流れる電流は,式8で求めた電流となります.入力電圧が14V~20Vまで変化しても,出力電圧(VOUT)は一定です.同様に,ツェナー・ダイオードに流れる電流(IZ)も0.98mAで一定となります.


図7 図6のシミュレーション結果
回路内の電圧と電流をプロット.

 図8は,OUT端子の出力電圧温度特性をシミュレーションした結果です.OUT端子の電圧(VOUT)は,温度変化に対して電圧の変化が少なく,温度補償していることが分かります.


図8 図6の温度シミュレーション結果
温度変化に対して電圧の変化が少ない.

■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_037.zip

●データ・ファイル内容
precision_regulator_1.asc:図3の回路
precision_regulator_2.asc:図6の回路

■LTspice関連リンク先


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