電源の方式による効率の違い
図1の回路1~回路3は,3種類の降圧電源回路です.回路1は,トランジスタ(Q1)を使用した,エミッタ・フォロアによる簡易電源です.回路2は,ツェナー・ダイオード(D1)を使ったシャント・レギュレータです.回路3は,降圧スイッチング電源で,D1はショットキー・ダイオードです.それぞれの回路の入力電圧は20Vで,出力電圧が5Vとなるように定数が調整されています.それぞれの回路には,25Ωの負荷抵抗(RL)が接続されています.回路1~回路3の電源効率の値として正しいのは,A~Dのどれでしょう?ただし,数値は小数点以下で四捨五入したものとします.
それぞれの電源回路の効率の値はいくつか?
(B)回路1=25% 回路2=17% 回路3=95%
(C)回路1=17% 回路2=25% 回路3=90%
(D)回路1=20% 回路2=33% 回路3=95%
効率は,電源回路の重要な性能指標の1つです.効率の値は,出力電力を入力電力で割ったものを%表示としたものです.図1では,負荷抵抗(RL)で発生する電力が出力電力で,入力電源(Vin)から供給される電力が入力電力になります.それぞれの回路の出力電圧と負荷抵抗の値は同じなので,出力電力は3つの回路とも同じ値になります.あとは,それぞれの回路の入力電力の値を計算すれば,効率を計算することができます.それぞれの回路の動作は,「LTspice電源&アナログ回路入門 014 ―― エミッタ・フォロワによる簡易電源」,「LTspice電源&アナログ回路入門 025 ―― ツェナー・ダイオードを使ったシャント・レギュレータの基礎」,「LTspice電源&アナログ回路入門 016 ―― 降圧スイッチング電源の基礎」を参照してください.
図1の回路1~3とも,出力電圧が5Vで負荷抵抗の値が25Ωなので,出力電流は200mAとなり,出力電力は電圧と電流を乗算した1Wになります.回路1でVinに流れる電流はRLの電流とR1の電流を足した202mAなので,入力電力は4.04Wになり,効率を計算すると約25%になります.回路2でVinに流れる電流はRLの電流とD1の電流を足したものですが,R1に発生する電圧が15Vなので,300mAと計算できます.そのため入力電力は6Wとなり,効率を計算すると17%になります.回路3ではSW1の平均電流が52.5mAと提示されているので,入力電力は1.05Wとなり効率は95%になります.したがって正解は(B)ということになります.
●トランジスタを使用した,エミッタ・フォロアによる簡易電源の各素子の電流と効率
回路1は,出力電圧が5Vとなるように,R1とR2の値が設定されています.それを前提に,各素子の電流を計算してみます.まず,RLに流れる電流(IRL)は,出力電圧が5Vなので,式1のように簡単に計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
R3に流れる電流(IR3)も式2のように計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
Q1のベース電流(IB)が0.6mAと提示されているので,Q1のコレクタ電流(IC)は式3のように計算することができます.
・・・・・・・・・・・・(3)
トランジスタのベース・エミッタ電圧を0.7Vとすると,Q1のベース電圧(VB)は,5.7Vになります.そのため,R2に流れる電流(IR2)は,式4の値になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
R1に流れる電流(IR1)は,IR2とIBを足したものです.また,Vinから供給される電流(IVin)は,IR1とICを足したものなので,式5のように計算できます.
・・・・・・・(5)
回路1の効率(η)は,出力電力を入力電力で割ったものなので,式6のようにして計算できます.
・・・・・・・・・・・・・(6)
●トランジスタを使用した,エミッタ・フォロアによる簡易電源のシミュレーション
図2は,回路1のシミュレーション用の回路図で,シミュレーション実行後に各素子の電流を回路図上に表示させたものです.ほぼ計算通りの値となっていることがわかります.
ノード電圧や各素子の電流を表示している.
LTspiceでは,動作点解析(.op)を行った結果を回路図上に表示する機能があります.電圧を表示したい配線の上でマウス右クリックし,表示されたメニュー(図3)の中から,「Place .op Data Label」を選択するとノード電圧が回路図上に表示されます.
「Place .op Data Label」を選択するとノード電圧が回路図上に表示される.
素子の電流を表示する場合は,そのノード電圧ラベルをコピーしてから右クリックします.すると図4のようなメニューが表示されるので,表示したい電流を選択します.
表示したい素子の電流を選択する.
●シリーズ・レギュレータの効率
回路1は,ベース電圧を変化させ,Q1のコレクタ・エミッタ間の電圧を変化させることで,出力電圧を調整することができます.このように電源と負荷の間に,直列に電圧調整素子を入れて出力電圧を安定化したものをシリーズ・レギュレータと呼びます.制御回路等に必要な電流を無視すると,シリーズ・レギュレータの効率(η)は入力電圧(VIN)と出力電圧(VOUT)を使用して,式7のようにシンプルに計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
式7から分かるように,入力電圧と出力電圧の値が近いほど効率は良くなります.
●ツェナー・ダイオードを使ったシャント・レギュレータの各素子の電流と効率
回路2のRLに流れる電流は,回路1と同じく式1で計算できます.Vinが供給する電流とR1に流れる電流は等しく,式8で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
ツェナーダイオード(D1)にはIR1からIRLを引いた100mAが流れることになります.回路2の効率(η)は,式9のようにして計算できます.
・・・・・(9)
このように,シャント・レギュレータの効率はシリーズ・レギュレータよりも悪くなります.特に,負荷抵抗を大きくして,出力電流が小さい状態で使用すると,効率は極端に悪くなります.回路2でRLを10倍の250Ωにすると,出力電流は20mAになり,ツェナー・ダイオードに流れる電流は300m-20m=280mAとなります.この状態の効率は式10のように1.7%となってしまいます.
・・・・・・・・・・・(10)
●ツェナー・ダイオードを使ったシャント・レギュレータのシミュレーション
図5が回路2をシミュレーションするための回路図に動作点を表示させたものです.ZDという名前でツェナー・ダイオードのモデルを定義しています.Vrevがブレーク・ダウン電圧でRrevがブレークダウンした後の直列抵抗値です.各素子の電圧は上で計算したものと同じ値となっていることが分かります.
ZDというツェナー・ダイオードモデルを定義して使用.
●ショットキー・ダイオードを使った降圧スイッチング電源の効率とシミュレーション
回路3の効率を手計算で求めるのは困難です.図1ではスイッチ(SW1)に流れる平均電流が52.5mAと提示されています.この電流とVinが供給する電流は同じものなので,この電流と式11を使用して効率を計算することができます.
・・・・・・・・・・・・(11)
図6は,回路3のシミュレーション用の回路図です.SW1をコントロールするパルス電源のオン・デューティー比を26.1%として,出力電圧が5Vになるように調整しています.
出力電圧が5Vとなるようオン・デューティー比を26.1%に調整.
図7は,図6のシミュレーション結果です.シミュレーション最後の30μSだけをを表示しています.IRLは200mAでISW1の平均電流は52.5mAとなっており,式11で使ったものと同じ値になっています.
シミュレーション最後の30μSを表示している.
●3種類の電源の効率と特徴
表1は今回解説した3つの電源の効率と特徴をまとめたものです.
シャント・レギュレータは,単独の電源として使われることは少なく,主に,別の回路の基準電圧源として使用されます.そのため,降圧電源としては,シリーズ・レギュレータか降圧スイッチング電源のどちらかを選択することになります.降圧スイッチング電源は高効率ですが,出力にスイッチングノイズが混入しやすいという弱点があます.また,出力電流が小さい場合は効率が低下することもあります.一方,シリーズ・レギュレータは低ノイズですが,入出力間電圧差が大きい場合は効率が低くなります.そのため,電源の方式を選択する場合は効率,出力ノイズ,部品点数,コストなどを総合的に判断して決めることになります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_032.zip
●データ・ファイル内容
20V_5V_EF_op.asc:図2の回路
20V_5V_ZD_op.asc:図5の回路
20V_5V_SWPS.asc:図6の回路
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