シャント・レギュレータの基準電圧
図1は,シャント・レギュレータ回路を用いた並列型電圧安定化回路です.図のNPNトランジスタは,Q3が8倍,その他は全て1倍の比率です.また,トランジスタの熱電圧(VT)は25.8mVです.Q1のベース-エミッタ電圧(VBE1)が617mV,Q2,Q4,Q8のベース-エミッタ電圧(VBE2,VBE4,VBE8)をそれぞれ600mVとします.また,計算を簡単にするため,トランジスタの電流増幅率(hFE)は無限大で考え,ベース電流は無視します.その場合,図1において,REF端子の電圧(VREF)は次の(a)~(d)のうちどれでしょうか.
出力電圧(VO)は基準電圧(VREF)で定電圧となる.
今回は,トランジスタを使ったシャント・レギュレータについて解説します.シャント・レギュレータには「REF端子」,「アノード端子」,「カソード端子」があります.REF端子の電圧は温度補償した基準電圧(VREF)です.また,カソード端子とREF端子は,ショート(VREF=VO)しているので,電圧源(V1)の電流は回路を通り,アノード端子のGNDへ流れ,出力電圧(VO)が基準電圧(VREF)で定電圧となります.
図1の基準電圧源は,NPNトランジスタ(Q1,Q2,Q3,Q4)と抵抗(R1,R2,R3,R4)で構成するバンド・ギャップ・リファレンスを使っています.抵抗R1とR2は,同じ抵抗値であり,負帰還の効果により,それらに流れる電流(IR1,IR1)が等しくなるところで回路は落ち着きます.この電流をR3の両端の電圧とその抵抗から求め,赤字で示したNPNトランジスタのベース-エミッタ電圧と複数ある抵抗の電圧降下よりREF端子の電圧(VREF)が求められます.
図1の回路において,抵抗(R3)の両端の電圧は,NPNトランジスタQ2,Q3のベース-エミッタ電圧差(VBE2-VBE3)となります.よって,抵抗(R3)に流れる電流(IR3)は式1となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
NPNトランジスタ(Q1,Q2,Q3,Q4)と抵抗(R1,R2,R3,R4)で構成するバンド・ギャップ・リファレンスは,R1とR2に流れる電流(IR1,IR1)が等しくなるところで落ち着きます.そのときの電流は,抵抗(R3)に流れる電流(IR3)と同じになります.
REF端子の電圧(VREF)は,NPNトランジスタ(Q1,Q4)のベース-エミッタ電圧(VBE1,VBE4)と,抵抗(R2,R4)の電圧降下(VR2,VR4)の総和ですので,式1の電流を用い計算すると式2となります.よって,(d)の2.4Vとなります.
・・・・・(2)
●シャント・レギュレータの内部回路について
図2(a)はトランジスタと抵抗を使ったシャント・レギュレータ回路です.図2(b)は図2(a)をツェナー・ダイオードのシンボルを使って表したブロック図です.シャント・レギュレータには,3つの端子があり,それぞれREF端子,カソード端子,アノード端子と呼ぶのが一般的です.REF端子は,Referenceの短縮であり,アノード(ANODE)とカソード(CATHODE)はダイオードの端子名です.これは図2(b)のブロック図をみると分かるとおり,シャント・レギュレータがツェナー・ダイオードの働きのようにみえるからです.
次にシャント・レギュレータの内部回路について解説します.図2(a)は,3つのブロックで構成されており,バンド・ギャッップ・リファレンスを使った基準電圧源,抵抗(R1,R2)に流れる電流(IR1,IR1)が等しくなるように働く誤差増幅器,カソードからアノードへの電流パス経路となる出力回路です.
電源電圧(V1)を0Vから上げていくと,出力電圧(VO)が定電圧になる前の状態は,R2に流れる電流がR1に流れる電流より多くなります.そのため,トランジスタQ4のベース電圧がQ8のベース電圧より低くなり,Q9のベース電圧が0V付近となり,出力回路は電流を流しません.よって,出力電圧(VO)は電源電圧(V1)に依存して推移します.
出力が定電圧出力を開始するときは,抵抗(R1,R2)の電流が等しくなるときです.さらに,電源電圧(V1)が高くなると,出力回路が電流を流し,抵抗R1とR2の電流が等しくなるように負帰還がかかるため,出力電圧(VO)はREF端子の電圧(VREF)で定電圧となります.
(a)トランジスタと抵抗で構成したシャント・レギュレータ回路
(b)ツェナー・ダイオードのシンボルを使って表したブロック図
●REF端子の電圧を計算から導く
解答では具体的な数値で計算しましたが,ここでは,図2(a)の記号を使い,式2で示したREF端子の電圧(VREF)の一般式を導きます.なお,トランジスタの電流増幅率(hFE)は無限大とし,ベース電流は無視します.回路に負帰還がかかり,出力電圧(VO)が定電圧となるときは,Q4のベース電圧とQ8のベース電圧が等しくなります.よって,Q2コレクタ電流(IC2),Q3コレクタ電流(IC3)と,抵抗R1とR2の関係は式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
トランジスタQ2とQ3の倍率を「Q2:Q3=1:n」とすると,抵抗(R3)の両端の電圧(VR3)は式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式4を使い,抵抗(R3)に流れる電流(IR3)を求めると,式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
抵抗(R2)の電圧降下(VR2)は,式5を用いると,式6となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
次に,抵抗(R4)の電流(IR4)を求めると式7となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
抵抗(R4)の電圧降下(VR4)は,式5,式7を用いると,式8となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
式2に示した,REF端子の電圧(VREF)の一般式は,式6と式8を使い,式9となります.
・・・・・(9)
式9へ回路定数を代入すると式10となり,解答(d)の2.4Vであることが分かります.
・・・・・(10)
●基準電圧源を温度補償するR3の抵抗値
式9に示したREF端子の電圧(VREF)は,右辺第一項と第二項はトランジスタのベース-エミッタの電圧(VBE)であり,負の温度係数となります.また,第三項は熱温度(VT=kT/q)に関する項で,正の温度係数です.これより右辺第三項を調整し,2つのVBEの負の温度係数を打ち消すことにより,温度補償をします.REF端子の電圧である式9を温度「T」で微分すると式11となります.
・・・・・(11)
温度補償することは,「∂VREF/∂T=0」とすることですので,式11の左辺をゼロとし,R3で解いて回路定数を入れると式12となります.ここで,VBE1,VBE4の温度係数(∂VBE1/∂T,∂VBE4/∂T)は「-1.965mV/℃」,kはボルツマン定数(1.38×10-23),qは電子電荷(1.602×10-19)です.これより,抵抗(R3)は式12の465Ωとなります.
・・・・・(12)
●電源電圧-出力電圧の特性をシミュレーションする
図3は,図1の電源電圧-出力電圧の特性をシミュレーションする回路です.電源電圧(V1)を直流解析で0V~5Vをスイープし,そのときの出力電圧(VO)の変化,また,回路内部の動作を確かめるため,Q9のベース電圧,R1,R2,R3に流れる電流もプロットします.
図4は,図3のシミュレーション結果です.上段は,電源電圧に対する出力電圧とQ9のベース電圧の変化です.下段は,R1,R2,R3に流れる電流の変化をプロットしました.電源電圧(V1)を0Vから上げていくと,出力電圧(VO)が定電圧になる前の状態は,R2に流れる電流がR1に流れる電流より多いことが分かります.これは,Q2,Q3,R3のワイドラー・カレントミラー回路において,R3に流れる電流が少ないとき,その電圧降下が小さく,Q2とQ3の倍率が支配的(図3では1:8の比率)になり,Q2よりQ3のコレクタ電流が多くなるからです.このため,R1よりもR2の電圧降下が大きくなり,トランジスタ(Q4)のベース電圧は,Q8のベース電圧より低くなります.よって,誤差増幅器の出力に接続しているQ9のベース電圧が0V付近となり,出力回路は電流がながれなくなり,出力電圧(VO)は,電源電圧(V1)に依存して推移します.
出力が定電圧出力を開始するときは,抵抗R1とR2の電流が等しくなるときで,それ以降の電源電圧が高くなる領域では,出力回路がカソード端子からアノード端子へ電流を流し,Rinの電圧降下が大きくなってREF端子に伝わります.その後は,R1とR2の電流が等しくなるように誤差増幅器の負帰還が働くため,定電圧を維持しています.
上段:電源電圧に対する出力電圧とQ9のベース電圧の変化
下段:R1,R2,R3に流れる電流の変化をプロット
●出力電圧温度特性をシミュレーションする
図5は,図1の出力電圧温度特性をシミュレーションする回路です.直流解析で温度を-20℃~100℃をスイープします.温度補償するR3の抵抗値は,トランジスタを理想として求めた式12の465Ωと,微調整した490Ωを「.stepコマンド」で入れ替えています.
「.stepコマンド」でR3を465Ωと490Ωに変えている.
図6は,シミュレーション結果で,R3が465Ωのときは正の温度係数が出ています.これは式12の手計算はトランジスタが理想としているためズレが生じています.R3の微調整は,シミュレータを使うと便利で,490ΩはLTspiceを使い調整した値です.490Ωでは,温度の変化に対し,出力電圧の変化は小さなものであり,温度補償しているのが分かります.
R3が490Ωで出力電圧の変化が小さくなる.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_031.zip
●データ・ファイル内容
Shunt_Regulator.asc:図3の回路
Shunt_Regulator_Temperature_characteristics.asc:図5の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs