同期整流型降圧スイッチング電源




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■問題

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,同期整流型の降圧スイッチング電源です.スイッチ(SW1)は,クロック信号(CK1)がハイレベルのときにONするスイッチです.スイッチ(SW2)は,クロック信号(CK2)がハイレベルのときにONするスイッチです.回路には5Ωの負荷抵抗が付いており,入力電圧が4Vで,出力電圧が1Vになるようにクロック信号を入力します.(A)~(D)のクロック波形は,いずれも周波数が100kHzで,上段がCK1で下段がCK2の波形です.この中で,出力電圧を1Vとすることができるクロック信号はどれでしょうか.


図1 同期整流型の降圧スイッチング電源回路とクロック波形
出力電圧が1Vになるクロック波形はどれ?

■ヒント

 降圧スイッチング電源の動作に関しては「LTspice電源&アナログ回路入門016 ―― 降圧スイッチング電源の基礎」で解説しています.その中の,入力電圧およびクロック信号のデューティー比と出力電圧の関係式から出力電圧を1Vとするためのデューティー比が分かります.また,SW2はダイオード(D1)が動作するタイミングでONするようにコントールすることを考えれば,答えが分かります.

 同期整流型スイッチング電源とは,ダイオードによる電圧ロスを軽減するために,スイッチにより電流の流れをコントロールするスイッチング電源です.ダイオードがONすべきタイミングに同期して,スイッチがONするようにコントロールします.

■解答


(B)

 降圧スイッチング電源の出力電圧(Vout)は,入力電圧をVinとし,SW1のオン・デューティー比をDとすると「Vout=D*Vin」という式で表されます.入力電圧が4Vで出力電圧が1Vなので,Dは0.25とすればよいことになります.SW1のオン・デューティー比が0.25となっているのは(A)と(B)ですが,(A)はSW1とSW2が同ときにONするので,入力電圧をショートしてしまいます.そのため,正解は(B)ということになります.

■解説

●スイッチング電源を同期整流型とする理由
 スイッチング電源を同期整流型とする,もっとも大きな理由は,ダイオードで発生する消費電力(損失)を小さくするためです.電源回路で損失が大きくなると,素子の発熱による温度上昇を防止するための対策が必要になったり,電池駆動機器では動作時間が短くなったりします.そのため,スイッチング電源を同期整流型として,ダイオードの損失が極力小さくなるようにします.

●ダイオードで発生する損失
 図2は,通常の降圧スイッチング電源のシミュレーション用回路図です.図2のような降圧スイッチング電源は,SW1がOFFした後,ダイオード(D1)を介してコイルに蓄えられた電流が流れます.ダイオードに電流(Id)が流れているとき,ダイオードには順方向電圧(VF)と呼ばれる電圧が発生します.この電圧はシリコンダイオードで0.7V~0.8V,ショットキーダイオードで0.3V~0.4Vになります.そのため,ダイオードに電流が流れている間は「VF*Id」の電力を無駄に消費してしまいます.


図2 通常の降圧スイッチング電源のシミュレーション用回路
ダイオード(D1)で損失が発生する.

●通常の降圧スイッチング電源のシミュレーション結果
 図3は,図2のシミュレーション結果です.シミュレーションの最後の30μsの期間だけを表示しています.


図3 通常の降圧スイッチング電源のシミュレーション結果
ダイオードの平均消費電力は36mWで,負荷で発生する電力の3割程度.

 上段は出力電圧です.しかし,出力電圧は0.78Vとデューティー比から計算した値よりも低くなっています.これは,ダイオード(D1)の順方向電圧の影響です.出力電圧が高い場合は,D1の順方向電圧の影響は目立ちませんが,出力電圧が小さくなると無視できなくなります.
 中段はダイオードに流れる電流をプロットしたものです.SW1がOFFしている期間に電流が流れていることが分かります.
 下段がダイオードの消費電力です.回路図ウィンドウでAltキーを押しながらダイオードをクリックすることで,消費電力を表示することができます.また,グラフ・ウィンドウの中でCtrlキーを押しながら上部の「-V(D)*I(D1)」をクリックすると,平均電力を表示することができます.ダイオードの平均消費電力は約36mWとなっています.負荷抵抗で発生している電力(PRL)は式1のように122mWですから,ダイオードの消費電力は,負荷で発生する電力の3割程度と,かなり大きな割合であることが分かります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

●同期整流型降圧スイッチング電源をLTspiceで確認する
 図4は,同期整流型降圧スイッチング電源をシミュレーションするための回路です.


図4 同期整流型降圧スイッチング電源シミュレーション回路
変数DTでデット・タイムの長さを設定する.

 スイッチSW1とSW2をコントロールするための電源V3が追加されています.SW2は,SW1がOFFしたタイミングでONし,コイルに蓄えられた電流を流します.ただし,SW1とSW2が同時にONするタイミングが発生すると,電源をショートしてしまい,大電流が流れてしまいます.そのため,SW1とSW2が両方ともOFFになる期間を設ける必要があります.この期間のことをデッド・タイムと呼んでいます.図4では「.paramコマンド」で定義した変数DTで,このデットタイムの長さを0.2μsと設定しています.
 デッド・タイムの間,コイルに蓄えられた電流はダイオード(D1)を介して流れます.このときダイオードで損失が発生するため,デッド・タイムはスイッチが同時にONしない範囲で,出来るだけ短い時間に設定する必要があります.
 図5は,図4で設定したスイッチ制御信号のCK1とCK2の波形です.CK1がハイレベルになるのは,周期Tにデュティー比(D)を掛けた2.5μsです.CK2がハイレベルになるのは,周期Tに(1-D)を掛けた7.5μsからデット・タイム「DT*2」を引いた7.1μsとなっています.その結果,CK1とCK2が共にローレベルになるデット・タイムは,0.2μsとなっています.この波形は,図1の(B)と同じものです.


図5 図4で設定したスイッチ制御信号のCK1とCK2の波形
CK1とCK2が,ともにローレベルとなるデット・タイムは0.2μs.

 図6は,同期整流型降圧スイッチング電源のシミュレーション結果です.(1)の出力電圧はデューティー比から計算される値と同じ1Vとなっています.(2)のダイオード電流はデッド・タイムのときだけ流れていることが分かります.(3)はダイオードの消費電力をプロットしていますが,ダイオードで発生する平均電力が大幅に小さくなり,2.6mWになっています.ダイオードに代わってコイルの電流を流すスイッチSW2でも電力を消費しますが,オン抵抗を10mΩと小さく設定しているため,その消費電力は非常に小さくなっています.(4)にダイオードの消費電力とスイッチの消費電力を足したもをプロットしています.その平均消費電力は2.8mWで,図3のダイオードの消費電力の1割以下となっています.


図6 同期整流型降圧スイッチング電源のシミュレーション結果
ダイオードの平均消費電力は2.6mWと大幅に小さくなっている.

 以上,今回は同期整流型降圧スイッチング電源について解説しました.降圧スイッチング電源だけでなく,昇圧スイッチング電源や反転スイッチング電源,昇降圧スイッチング電源でも,同期整流型としたものが広く使われています.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_030.zip

●データ・ファイル内容
Step_down_4V.asc:図2の回路
Step_down_Sync.asc:図4の回路

■LTspice関連リンク先


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