ツェナー・ダイオードを使ったシャント・レギュレータの基礎



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■問題

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,D1のツェナー(定電圧)ダイオードと抵抗(RS)で構成したシャント・レギュレータです.48Vの電圧源(VS)を接続すると,RSとD1の接続箇所が出力となります.今回使用するツェナー・ダイオード(D1)の特性は,許容損失(PD)が1Wで,テスト電流(IZT)が25mAのとき,電圧(VZ)が33Vとなります.また,RSの定格電力は2Wとします.
 図1のシャント・レギュレータの出力電圧が33Vで負荷電流が50mA,RSの定格電力が2W以内で,D1の許容損失が1W以内になるRSの抵抗値は(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 ツェナー・ダイオードを使ったシャント・レギュレータ

(a)100Ω,(b)160Ω,(c)200Ω,(d)300Ω

■ヒント

 今回は,ツェナー・ダイオードを使ったシャント・レギュレータの基礎について解説します.図1の回路において,負荷電流(IL)は一定であり,電圧源(VS)が48V,電圧(VZ)が33Vで,RSの抵抗値によりD1に流れる電流が変わります.この電流と負荷電流の条件で,33Vを出力する回路として成り立つか,また,そのときのRSとD1の消費電力を計算し,RSの定格電力とD1の許容損失以内となるかを検討することによりRSの抵抗値が求められます.

 シャント・レギュレータは,負荷と並列になるように接続して使います.電源からRSを通り流れる電流は,負荷とシャント・レギュレータ(ツェナー・ダイオード)に分流します.出力電圧は一定であることから,負荷電流が増えればシャント・レギュレータの電流は減り,また,その逆の負荷電流が減ればシャント・レギュレータの電流が増えて,RSに流れる電流は一定となります. これは電源から見れば,負荷電流が変化しても一定の電流が流れることになり,負荷の変化に対し影響を受けにくい利点があります.しかし,同じ電流が電源から流れ続けるため効率は悪くなります.
 シャント・レギュレータの機能を1つのデバイスで実現するものがツェナー・ダイオードです.また,同様の機能を回路で実現した集積回路もあります.基準電圧源として使う用途もあり,シャント・リファレンスとも呼ばれます.

■解答


(c)200Ω

 ツェナー・ダイオードの電圧(VZ)が33Vとなるには,流れる電流(IZ)は25mA以上必要です.また,RSに流れる電流(IS)は,ツェナー・ダイオードに流れる電流(IZ)と,負荷電流(IL)の50mAを加算した電流ですので,75mA以上となります.解答を導くには次の3つの検討が必要です.

1.75mA以上流すことができるRSを検討
 抵抗の両端の電圧は15Vなので,オームの法則より「15V/75mA=200Ω」以下となります.よって,(d)の300Ωは外れ,RSの抵抗値は(a)~(c)の3つに絞られます.
2.RSの消費電力を検討
 抵抗の消費電力は「P=V2/R」より,(a)は「(15V)2/(100Ω)=2.25W」,(b)は「(15V)2/(160Ω)=1.406W」,(c)は「(15V)2/(200Ω)=1.125W」です.よって,RSの定格電力2W以下となるのは(b)と(c)の2つに絞られます.
3.ツェナー・ダイオードの消費電力を検討
 消費電力は,ツェナー・ダイオードの電圧と流れる電流の積なので「P=VZ*IZ」です.ツェナー・ダイオードに流れる電流は,RSに流れる電流から負荷電流を減算した値なので,(b)は「15V/160-50mA=43.75mA」,(c)は「15V/200-50mA=25mA」と求められます.

 これにより,ツェナー・ダイオードの消費電力は,(b)が「(33V)*(43.75mA)=1.444W」,(c)が「(33V)*(25mA)=0.825W」となり,ツェナー・ダイオードの許容損失1W以下になるのは(c)の200Ωとなります.

■解説

●ツェナー・ダイオードの特性
 ツェナー・ダイオードは,逆方向電圧によりPN接合がブレークダウンする領域を使用します.このブレークダウンは,低い逆電圧のツェナー・ブレイクダウンと高い逆電圧のアバランシェ・ブレークダウンの2つによります.逆電圧を広い範囲でみると,ブレークダウン電圧で一定とみなせ,電圧リファレンスとなります.図2に,今回使用するツェナー・ダイオード「DFLZ33」のテスト電流(IZT)が25mAのとき,電圧(VZ)が33VとなるV-I特性を示します.テスト電流(IZT)が25mAのとき,ツェナー・ダイオードはブレークダウンして33Vとなります.


図2 DFLZ33のV-I特性

●ツェナー・ダイオードを使ったシャント・レギュレータの設計
 ツェナー・ダイオードを使ったシャント・レギュレータは,電源ICのシャント・レギュレータやシリーズ・レギュレータに比べ出力電圧の精度や温度特性など劣ります.しかし,それらの電源ICはトランジスタの耐圧の制限から高電圧は作れません.ツェナー・ダイオードを使ったシャント・レギュレータは,電源ICがカバーできない高電圧のレギュレータに向いています.
 図3は,図1の電圧,電流,電力の関係を示しました.ここでは,ツェナー・ダイオードを使ったシャント・レギュレータの具体的な設計手法を解説します.電源電圧が48Vで,出力電圧は,負荷電流が50mAの状態で,33Vとなるシャント・レギュレータが目標です.


図3 図1の電圧,電流,電力を式で示した図

 図3の抵抗(RS)の電流(IS),ツェナー・ダイオード(D1)の電流(IZ),負荷電流(IL)は式1の関係となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 D1に流れる電流が25mAのとき,出力電圧が33Vとなるデバイスを用いて,負荷電流が50mAの条件とします.このとき,式1と抵抗の両端の電圧より,RSの値は式2となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 RSの消費電力(PR)は,式3となります.その定格電力は,約2倍の余裕を持たせ2Wを選びます.

・・・・・・・・・・・・・(3)

 次に,D1に流れる電流(IZ)は式4となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 D1の消費電力(PZ)は,D1の電圧と電流の積なので,式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 D1は,式5の2倍以上の許容損失である2Wのものを選べば安心です.しかし,今回は,LTspiceで使える1Wのツェナー・ダイオード「DFLZ33」にしました.このような手順で図1の回路は,RSの抵抗値が200Ωと導けます.
 解説中の負荷電流(IL)は常に50mAとしましたが,実際の回路では負荷電流が突然流れなくなることもあります.このときのD1の消費電力は,式6となり,式5で選んだ許容損失1Wでは足りません.

・・・・・・・・・・・・・(6)

 この状態はD1の破壊に至ります.負荷電流が無くなる条件まで含めると,ツェナー・ダイオードの許容損失は,余裕を持って5Wが必要となります.

●シャント・レギュレータをLTspiceで確かめる
 図4は,図1をシミュレーションする回路です.ここでもツェナー・ダイオードは,DFLZ33を使用しました.また,負荷は,電流が50mAとなる抵抗660Ωで代替しています.シミュレーションは電源電圧(VS)を直流解析で24V~60Vをスイープしています.


図4 図1をシミュレーションする回路

 図5は,図4のシミュレーション結果です.出力電圧,RSの電流,RLの電流,D1の電流をプロットしました.電源電圧が48Vで出力電圧は,33Vとなっています.また,RSの電流は式2の75mA,D1の電流は式4の25mA,負荷電流は50mAになっています.


図5 図4のシミュレーション結果
出力電圧,RSの電流,RLの電流,D1の電流をプロット.

 図6は,図4のRSとD1の消費電力をプロットしています.電力のプロットは,シミュレーションの回路で,デバイスの上にカーソルを起き,Altキーを押すと温度計の表示に変わり,クリックすると図6のプロットとなります.RSの消費電力は式3の1.125W,D1の消費電力は式5の0.825Wにほぼ等しくなっています.


図6 図4のシミュレーション結果
RSとD1の消費電力をプロット.

●小さな許容損失のツェナー・ダイオードで電力を分散させる
 図4の回路で負荷電流が突然流れなくなると,式6で計算したツェナー・ダイオードの許容損失を超えることになります.この場合,図7のようにツェナー・ダイオードの電圧(VZ)が小さなものを選び,直列に複数個を接続することによって,電力を分散することができます.図7はツェナー・ダイオード「1N750」を直列に7個接続しました.使用した1N750は,許容損失が0.5W,流れる電流(IZT)が20mAで,電圧(VZ)が4.7Vです.なので,この回路の出力電圧は「4.7V*7個=32.9V」となります.負荷抵抗(RL)は658Ωとし,負荷電流が50mAとなるようにしています.


図7 「VZ=4.7V」のツェナー・ダイオードを7個直列にした回路

 前述した図3の設計手順で進めます.ツェナー・ダイオードの電流(IZT)が20mA,負荷電流が50mAとするとRSの抵抗値は式7で216Ωとなりますが,市販されている抵抗で選びやすい値220Ωにしています.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 RSを220Ωとしたことから,ツェナー・ダイオード(D1~D7)に流れる電流(IZ)は68.6mAとなります.これを用いて手順通りに計算すると,式8がRSの消費電力(PR),式9がツェナー・ダイオードの電流(IZ),式10が負荷電流50mAのときのツェナー・ダイオード1個あたりの消費電力(PZ)となります.

・・・・・・・・・・・(8)

・・・・・・・・・・・・・・・(9)

・・・・・・・・・・・・・・(10)

 次に負荷電流が突然流れなくなる場合は式11となり,1N750の許容損失は0.5W以内となります.

・・・・・・・・・・・(11)

 図8は,図7のシミュレーション結果で,出力電圧,RSの電流,RLの電流,ツェナー・ダイオードの電流をプロットしました.電源電圧が48Vで,出力電圧が32.9Vとなっています.また,RSの電流は,式8中のISに近い68.7mA,ツェナー・ダイオードの電流は式9に近い18.6mA,また,負荷電流は50mAになっています.


図8 図7のシミュレーション結果
出力電圧,RSの電流,RLの電流,ツェナー・ダイオード(D1)の電流をプロット.

 図9は,図7のRSとD1の消費電力をプロットしました.RSの消費電力は1.04Wであり,式8とほぼ等しいです.D1の消費電力は0.088Wであり,式10にほぼ等しくなっています.


図9 図7のシミュレーション結果
図7のRSとツェナー・ダイオードの消費電力をプロット.

 図10は,図7の負荷抵抗を削除したときの,D1の消費電力をプロットしました.式11に近い値であることが分かります.また,負荷電流が突然無くなっても,1N750の許容損失は0.5W以内になることが分かります.このように,ツェナー・ダイオードを使ったシャント・レギュレータは熱に対し注意深い設計が必要です.


図10 図7から負荷抵抗を削除したシミュレーション結果
ツェナー・ダイオード(D1)の消費電力をプロット.

 今回は,抵抗の最大定格やツェナー・ダイオードの許容損失に関する解説でしたが,更に,ツェナー・ダイオードの最大電流,最大のジャンクション温度,パッケージの熱抵抗,周囲温度などの最悪条件を考慮しなければなりません.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_025.zip

●データ・ファイル内容
Zenner_Shunt_Regulator_1.asc:図4の回路
Zenner_Shunt_Regulator_2.asc:図7の回路

■LTspice関連リンク先


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